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園田澄彦
担任教師の園田が差し出したスマホを、中岡喜美子は照れ臭そうに受け取った。
園田澄彦
喜美子がスマホを鞄に仕舞うのを眺めながら園田が口を開いた。
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
中岡喜美子
中岡喜美子
園田澄彦
中岡喜美子
園田澄彦
中岡喜美子
喜美子はおかしそうにクスクス笑いながら適当な返事をした。
園田は「はぁ…」とため息を吐くも、やれやれという感じで最後は苦笑した。
高校の帰り道、喜美子は親友の久保田薫とさっきの話題で盛り上がっていた。
久保田薫
久保田薫
喜美子たちは担任の園田を、親しみを込めて「スミ先生」と呼んでいる。
中岡喜美子
中岡喜美子
中岡喜美子
中岡喜美子
久保田薫
中岡喜美子
中岡喜美子
久保田薫
と、久保田薫は笑ってから「もしや…」と、再び喜美子に視線を向けた。
久保田薫
中岡喜美子
久保田薫
中岡喜美子
久保田薫
中岡喜美子
中岡喜美子
久保田薫
中岡喜美子
久保田薫
久保田薫
中岡喜美子
久保田薫
久保田薫
中岡喜美子
久保田薫の冗談に喜美子は笑いながら答えた。
久保田薫
中岡喜美子
中岡喜美子
「えへっ」と舌を出して笑う喜美子を薫は呆れるように見つめた。
ある日の夜、喜美子は後日迫る小テストに備え予習を始めようとした。
が、鞄の中を探しても肝心の教材が見付からないことに焦った。
テスト勉強を報せるアラームを忌々しそうに止めてから再度探すが、
やはり教材は部屋の何処を探しても見当たらない。
しばらくして、喜美子はハッと顔を上げた。
中岡喜美子
小テストは別に明日に迫っているわけではない。
普通の生徒なら今日は諦めて、明日予習すればいいだろうという心理が働くが、
徹底的にスケジュール通りの生活にこだわる喜美子だけは違った。
特に面倒臭がる素振りも見せず制服に着替え直した。
喜美子の通う高校では放課後以降も私服での出入りが校則で禁じられていた。
車に乗せて行くという親の配慮を断り、喜美子は自転車にまたがると、
スピードを上げて夜の学校へとペダルを漕いだ。
午後八時過ぎ、自宅からわずか十分で学校に到着した。
幸いにも校門はまだ閉められていなかった。
喜美子の自宅から高校まではそれほど離れてはいないが、
夜の学校はやはり異質かつ不気味な雰囲気をひしひしと漂わせていた。
一瞬、その気味の悪さに喜美子は校門を通るのを躊躇したが、
時間がもったいないと言い聞かせ震える足を無理に動かした。
校舎に入ると、一階の廊下に面する職員室から煌々と灯りが漏れていた。
中岡喜美子
と、喜美子は思うと同時に、まだ人がいるという安心感でほっとした。
無断で校舎に忍び込んだことを咎められるのは願い下げだが、
こんな薄気味悪い校舎に自分独りだけではないと思うと多少恐怖心も和らぐ。
喜美子は忍び足で階段を上がり、三階の教室を目指した。
月明りのみで照らされた教室に喜美子はおずおずと足を踏み入れた。
普段、生徒たちで賑やかな光景を当たり前のように見ているからか、
誰一人いない静寂な教室は異様なほどおどろおどろしく映った。
喜美子は自分の机まで行くと、教材や文具を入れる空間に手を突っ込んだ。
すぐに手応えがあり掴んでから、スマホのライトに照らした。
探していた教材だと確認し、喜美子は教室を後にしようとした。
そのときだった。
スタ…スタ…スタ…スタ…。
不意に廊下から聞こえてくる音に喜美子はぎょっとした。
中岡喜美子
咄嗟に悟った喜美子は、隠れ場所を探そうと教室内を慌てて見回した。
その視線が黒板前の教卓に向けられた。
喜美子は教材を抱えたまま滑り込むように教卓の下に潜り込んだ。
足音は一定のリズムを刻みながら聞こえていたかと思ったら、
突然、その音に変化が生じた。
どうやら足音の人物は、フローリングの廊下から教室に入ったらしい。
中岡喜美子
無断で忍び込んだことを説教されるのだけはご免だった
喜美子は体をできる限り丸めながら必死で祈った。
が、唐突に相手の声が聞こえて体の硬直が一気に解れた。
中岡喜美子
声の主は何処かに電話をかけているようだが、
そのときに聞こえた声は紛れもなくスミ先生こと、担任の園田澄彦だった。
園田澄彦
園田澄彦
能天気にひとりごちる担任の声を聞いた瞬間、喜美子の体の力が落ちた。
それでも物音を立てないよう神経を尖らせた。
ようやく繋がったらしく、園田の口調が流暢になった。
園田澄彦
中岡喜美子
喜美子の関心はそっちに向けられた。
園田は二、三分、適当に相槌を示す返事をするだけで、他は一言も発しない。
落ち着かないのか、時々室内を歩き回る足音が聞こえてくる。
喜美子は地道にスミ先生が教室を出て行くのを辛抱強く待っていたが、
次第に丸めていた体のあっちこっちが痛くなってきた。
中岡喜美子
全然怒らない教師というキャラが定着したスミ先生だから、
事情を話せばきっと以前みたいに苦笑して済ませてくれるだろう。
中岡喜美子
きっとスミ先生のことだから飛び上がって驚くだろうなと、
喜美子は妄想して思わずクスクス小さく笑った、そのときだった。
園田澄彦
園田澄彦
喜美子の顔から笑みが消えた。
中岡喜美子
園田の温厚なしゃべり方、口調を喜美子はいつも学校で聞いていた。
そんな喜美子ですら、一瞬疑ってしまうほど凄味のある言葉遣いだった。
教え子が教卓の下で聞き耳を立てているとも知らず、スミ先生は再び口を開いた。
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
「遺体」という普段の園田の口から似付かわしくないワードが飛び出し、
喜美子は丸めていた体を無意識にぴくッと震わせた。
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
園田澄彦
教材を抱えていた喜美子の手が震えた。
猛烈な恐怖が腹の底から込み上げてきたからだ。
日常的な交流をしているともいえる担任教師の裏の顔を知ったショック、
テレビで度々報じられていた行方不明者の名前が出たこと、
その女性の遺体を吉崎という電話の相手に埋めさせたこと、
そして、その女性を殺害したことを園田は自ら告白した。
『自分以外誰もいないと思っていた教室で…』
中岡喜美子
しかし、園田はまだ電話をしながら教室を徘徊していた。
仮に園田がいなくても、今の喜美子は恐怖で体が硬直して動けなかった。
喜美子は震える手でスマホを開くと、メールボタンを押した。
中岡喜美子
電話では声で見付かってしまうリスクが大きかった。
ふと、文字を入力中に喜美子は不吉な予感を抱いた。
たびたび背後から聞こえる園田の罵声に震えながら必死で予感の正体を探る。
中岡喜美子
喜美子はメールを中断すると、アラームの設定画面を開いた。
ずらりと並んだ今夜鳴る予定のアラームの一覧が現れた。
小テスト勉強の合間の休憩時間、好きな番組の放送開始時間、就寝時間。
休憩時間のアラームは二分後に迫っていた。
皮肉にもアラーム(警報)で居場所を知られる危険があった。
喜美子は顔面蒼白になって八時以降のアラーム全てをオフにした。
メールを再開した喜美子は、母宛てにメッセージを送った。
その作業を終えてから、喜美子は高鳴る鼓動を抑え室内に耳を傾けた。
静寂だけが支配する三階の教室。
必死であれこれしている間に園田は教室から出たのだろうか?
が、今の喜美子には教卓から出て確認する勇気はなかった。
祈るように母からの返信を待っていたときだった。
ピロピロピロピロピロピロピロ♪
突然、スマホからけたたましメロディが流れた。
中岡喜美子
喜美子は今にも泣き出しそうなほど顔を歪め、メロディを止めようとした。
焦りと恐怖でうまく止められずに四苦八苦していると、
最悪にも大きな音を響かせてスマホが足元に落下した。
もはや身を潜めていることなど隠し通せるはずもないほどの音だった。
どうにか拾ってメロディを止めたが、体の震えは治まらなかった。
教卓自体が連動して震えそうなほど激しい震えだった。
一分、二分、三分……なにも起こらない。
次第に鼓動のリズムが落ち着いてきた。
喜美子は小さく吐息すると、先程のメロディの原因を探った。
原因はすぐに発覚した。
喜美子が自宅で教材を探していたときになったアラームを、
彼女はそれをうっかりスヌーズにしてしまったのだ。
初期設定の段階だと五分でスヌーズ機能が働くが、
喜美子は勉強関係については三十分に設定していた。
現時刻は八時半、間違いなくスヌーズによるメロディだったのだ。
中岡喜美子
喜美子は不幸中の幸いに安堵した。
そのとき、スマホが小刻みに震動した。
中岡喜美子
喜美子は出ようとスマホの画面を見た。
その両目が絶望で見開かれた。
「スミ先生(笑)」 〇〇〇-✕✕✕✕-△△△△
突如、喜美子の真上で耳をつんざかんばかりのバンっという音が響いた。
喜美子が涙を浮かべた顔を上げたまさに目の前にいた。
教卓の下を覗き込む横向きの園田澄彦のニヤニヤした顔が…。
園田澄彦
園田澄彦
月明かりで反射した園田の両目がギラリと光っていた。
喜美子の絶叫が夜の校舎に木霊した。
2021.04.24 作