体育館。 練習が終わり、生徒たちがぞろぞろと引き上げた後。 すっかり日が沈んだコートに、一人だけ残っていたのは――及川徹だった。
及川 徹
バレー部の皆にも言ったことはない。 けれど、何度もそう思っていた。 サーブ練習の時、たまに感じる“目線”。 部活が終わったはずの体育館で 響く“サーブ”の音。
及川 徹
……いつも、いない。
虎杖 悠仁
帰らないの?
及川 徹
虎杖 悠仁
トス、上げてくんない?
及川 徹
虎杖 悠仁
及川 徹
あの運動神経で、更に技術まで覚えられたら手に負えなくなるよ
虎杖 悠仁
及川 徹
及川 徹
虎杖 悠仁
──トス。 及川のトスは、まるで糸を引いたように滑らかで美しく、 虎杖の高く跳ねる身体をピンポイントで捉えた。
虎杖 悠仁
ドォンッ!! 体育館に鳴り響く、バカみたいな音。 衝撃でボールが天井に跳ね返り、照明が一瞬揺れる。
及川 徹
殺す気!?
虎杖 悠仁
やっぱすげぇ、及川さんのトス!
及川 徹
虎杖 悠仁
及川 徹
……ったく、1本だけだからね!
絶対だぞ!!
虎杖 悠仁
1本だけど言いながらも その後も何度かサーブの爆音が 体育館に響き渡り 及川は帰っていった
その日も、夜の体育館の奥で “誰か”がサーブを打つ音がした。 スパーン、と乾いた衝撃。 けれどそこには、誰もいない。
釘崎 野薔薇
虎杖 悠仁
伏黒が壁際に残された白いチョーク跡を指す。 サーブの軌道、レシーブの跡、スパイクのタイミング―― まるで“見えない誰か”がここで練習しているかのようだった。
久遠 梓
“誰かの記憶”に基づく動き。意思よりも、残滓に近い
乙骨 憂太
バレー部 部室
埃をかぶったトロフィーの奥に、 小さなアルバムがあった。
釘崎 野薔薇
久遠 梓
中には一枚、集合写真。 中央には“キャプテン”と刺繍されたユニフォーム。背番号1。 しかし、顔の部分だけが――まるで意図的に、滲んでいた。
伏黒が校舎の資料室で拾った、古い新聞記事を広げる。
伏黒 恵
虎杖 悠仁
伏黒 恵
……その翌月、自ら命を絶ったそうだ
久遠 梓
乙骨 憂太
次の日体育館では バレー部の練習を見に来た女子生徒たちが きゃあきゃあと黄色い声をあげていた。
キャー及川先輩ー♡ かっこいいですー♡
さっきのサーブ まじ神でしたー♡
及川 徹
でもサーブの出来はまだまだかなあ?
また応援してよ、ね?
女子たちは歓声をあげて去っていき 及川は片手を軽く振りながら 満足げにため息をついた。
――その一部始終を、少し離れた場所で見ていた釘崎野薔薇は、鼻を鳴らした。
釘崎 野薔薇
顔が良くて、口も上手いクズ男の典型
久遠 梓
釘崎 野薔薇
釘崎は炭酸の缶をバシッと開けて プシュッと音を鳴らす。
釘崎 野薔薇
その瞬間、まるで聞こえていたかのように、及川がふと振り向いてウインクしてきた。
釘崎 野薔薇
女たらしが
及川 徹
((キリッ
岩泉 一
松川 一静
全員に?
花巻 貴大
情熱価格か?
国見 英
及川 徹
違うもん!!!
松川 一静
釘崎 野薔薇
お手本おなしゃす
乙骨 憂太
\\\うおおおおおおおお!!!///
伏黒 恵
虎杖 悠仁
及川 徹
釘崎 野薔薇
乙骨先輩はマジの純愛。
あんたは、せいぜい“ラブコメの当て馬”
及川 徹
その日の夜の青葉城西体育館は ぬるりと重たい空気に包まれていた。 天井近くまでうねる呪力が、鉄骨を軋ませ、蛍光灯が明滅している。 まるで体育館そのものが、生き物のように歪んでいた。
久遠 梓
その先にいたのは──人の形をした“残像”。
顔は影に沈み、判別できない。 けれど、その動きは異様なほど“綺麗”だった。







