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それは一本の電話から始まった。
遊作
電話の相手は遊作の親戚のようで 、しばらくは和やかに話をしていたが、だんだん遊作の顔が青褪めてきた。
遊作
一方的に通話を切られたらしい。遊作は受話器を持ったまま呆然としている。
遊作
小鉄
小鉄が心配そうに声をかける。
正之
正之も同様に遊作を気遣う。
遊作
いつもずけずけ物を言う遊作にしては珍しく、言いにくそうに口ごもりながら、事情を話し始めた。
正之
正之が遊作に聞き返す。
小鉄が 「それ美味しいの?」と聞いてきたが敢えてスルーしておいた。
遊作
正之
すぐに冷静さを取り戻した正之と違い、遊作は焦っているのか苛立っているのか、指先でコツコツと机を叩く。これものんびり屋の遊作にしては珍しい仕草だった。
遊作
ジュディ
ジュディは小鉄が入れたほうじ茶を啜り、冷めた口調で言い放つ。遊作の普段の行いを思えば、身内が気を揉むのもわからなくはない。
遊作
これと結婚させられる許嫁とやらを少しばかり気の毒に思いはしても、所詮は他人事、ジュディにとっては些事にすぎない。
一応は主従関係にある遊作とジュディだが、互いのスタンスにはかなりの差異がある。
契約主の遊作は構いたがり構われたがりで、ジュディをやたら可愛がろうとする。
一方のジュディはそれが鬱陶しくて邪魔くさい。命じられたことを淡々とこなすだけでいたい。
遊作の興味が自分から逸れてくれるのであれば、許嫁の来訪は歓迎すべき出来事だった。
そうこうしているうちに、玄関のチャイムが鳴った。
小鉄
小鉄が襖を開けて玄関先を覗く。
遊作
窓から逃げだそうとした遊作の首根っこを、ジュディの細腕が引っ掴んだ。
ジュディ
正之
泣き出しそうな情けない顔の遊作を、正之が子供を諭すように宥める。
小鉄
小鉄はキッチンに向かい、遊作は正之に付き添われて玄関へ――
今日も騒がしくなりそうだと溜め息を吐き、ジュディは温くなった茶をまた一口啜った。
訪ねてきた和服姿の女性は名前を津久井美月 (つくい・みづき)といい、遊作より二つ年下で清楚な雰囲気の美人だった。
遊作
いつになく歯切れの悪い物言いの遊作。
美月
美月はにっこりと遊作に微笑みかける。
遊作
美月
既に美月は近くのマンションに越してきているそうで、通い妻になる気満々のようだ。
遊作
遊作は額に手を当て、困り果てた様子だ。彼がここまで困惑している姿は滅多に見られるものではない。正之と共に二人のやり取りを眺めながら、ジュディは僅かに口角を上げた。
小鉄
スッと静かに襖が開き、二つの湯飲みを乗せたお盆を持った小鉄がおもむろに現れた。
それを見た途端、美月の目の色が変わった。
美月
凄まじい早さで小鉄の前ににじり寄る美月。
美月
小鉄
美月
美月が小鉄の両手を握り締めたため、お盆は豪快にひっくり返り、畳にほうじ茶がぶちまけられた。
美月
正之
正之が目を見開いて驚きの声を上げる。
ジュディ
遊作には変わり者を引き寄せる才能でもあるのかもしれないな。
ほんの少しだけ愉快な気持ちになりながら、ジュディは事の成り行きを見届けることにした。
小鉄
わかっているのかいないのか、小鉄はあっさりと答えた。
正之
おそらくこの場にいる誰よりも混乱している正之が叫ぶ。
遊作
先程までの困り様から一変して、遊作は満面の笑みで祝福し始めた。矛先が自分から外れたのが余程嬉しいらしい。
美月
この日以来、毎日のように美月が押し掛けてきては小鉄にまとわりつくようになったそうな――