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10年越しの告白

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10年越しの告白

34 - 本の世界に住む恋人

♥

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2019年06月12日

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コトミの母

あら瀬尾君、学校帰り?

瀬尾サトシ

はい

コトミの母

今日うちでご飯食べない?

コトミの母

彼氏と一緒なら、
コトミも喜ぶしさ!

瀬尾サトシ

いえ
俺、コトミの
彼氏じゃないんで…

コトミの母

あら、そうなの?

コトミの母

まあとにかく、
何かお礼させてよ

コトミの母

瀬尾君には昔から、
コトミがお世話になってる
からさ

コトミの母

先月、
コトミが新幹線を
乗り過ごしたときなんて

コトミの母

片道2時間かけて
迎えに行ってくれたし…

瀬尾サトシ

いえ…交通費
出してもらえましたし

瀬尾サトシ

帰り道、
けっこう楽しかったんで…

コトミの母

先週、
コトミが車に
はねられたとき、
病院に連れてってくれたし

瀬尾サトシ

あれは、
付き添っただけで…

瀬尾サトシ

…本当に、大事なくて
良かったです

コトミの母

それに昨日、
コトミが
階段から落ちたとき、
かばってくれたんでしょ?

瀬尾サトシ

あれは、
下じきになっただけです…

コトミの母

コトミの”癖”のせいで、
瀬尾君には迷惑かけるね

コトミの母

瀬尾君がいなかったら、
あの子
10回は死んでるよ

コトミの母

いつもありがとう

瀬尾サトシ

いえ…俺は大したこと
してな…

ゴゴゴゴゴ……。

瀬尾サトシ

…今、
すごい音しましたね

コトミの母

…2階の
…コトミの部屋からね

コトミの母

ごめんね瀬尾君、
上がってくれる?

コトミの母

また、コトミが
何かやらかしたみたい

瀬尾サトシ

(…コトミの部屋、
床が本で埋もれてる)

コトミの母

…足の踏み場もない

瀬尾サトシ

…天井近くまで
積み上げた本が
崩れたみたいですね

瀬尾サトシ

…コトミは多分、
下じきになってます

コトミの母

…あの子ったら
本当にもう

瀬尾サトシ

…とりあえず、
コトミを掘り起こしますね

 サトシが本の山をどけると、コトミが顔をのぞかせた。

花咲コトミ

…………

 コトミは、手元の本をじっと読んでいる。

瀬尾サトシ

(コトミのやつ、
読むのに夢中で…)

瀬尾サトシ

(この状況に
気づいてない)

瀬尾サトシ

…俺たちの声、
聞こえてませんね

コトミの母

…年々ひどくなってるよ

コトミの母

読書に夢中になると、
周りが見えなくなる
悪い癖

瀬尾サトシ

…大した集中力だとは
思いますが

瀬尾サトシ

(車内アナウンスを
聞き逃して、
新幹線を乗り過ごす
とかならまだしも…)

瀬尾サトシ

(クラクションが
聞こえなくて
車にひかれるとか…)

瀬尾サトシ

(本の山が崩れてくるのに
気づかなくて、
生き埋めにされるとか…)

瀬尾サトシ

(そろそろ命が危ういな)

瀬尾サトシ

コトミ、
俺の声が聞こえるか?

花咲コトミ

…………

花咲コトミ

…あれ?…サトちゃん?

瀬尾サトシ

…やっと目を覚ましたか

花咲コトミ

…お部屋がグチャグチャ
…誰がこんなことを?

瀬尾サトシ

お前だよ

瀬尾サトシ

お前がテキトーに
本を積み上げるから
崩れたんだ

花咲コトミ

…そっか、ごめんなさい

瀬尾サトシ

さっさと片づけろ、
ついでに整理しとけ

花咲コトミ

…うん…ごめんね

瀬尾サトシ

晩飯までに終わらせろよ

花咲コトミ

…うん

瀬尾サトシ

俺も手伝う

花咲コトミ

…………

花咲コトミ

…うん、いつもごめんね、
サトちゃん

 2人で片付けをしているとき。本棚に向かいながら、サトシが口を開いた。

瀬尾サトシ

なあコトミ、
片づけながらでいいから
聞いてくれ

瀬尾サトシ

昨日、コトミのお母さんが
言ってたよ

瀬尾サトシ

「歩きながら本を読んで
階段から落ちるなんて、
神経 疑うわ」ってさ

瀬尾サトシ

あの人は
コトミの活字中毒を
"悪い癖"って呼ぶけど

瀬尾サトシ

俺はあれを
コトミの才能と思ってる

 本棚に向けてうつむくと、古い紙の匂いがした。

瀬尾サトシ

(コトミには、
本を読み解く才能がある)

瀬尾サトシ

(コトミが話してくれた
本の感想を
書評サイトに
まとめてみたら…)

瀬尾サトシ

(大手出版社が
こぞって注目する、
大人気サイトになった)

瀬尾サトシ

(コトミが考えた
文学作品の解釈を
論文にして公開したら…)

瀬尾サトシ

(T大の教授に絶賛されて
…コトミは研究室に
誘われてた)

瀬尾サトシ

大学の先生が言ってたよ

瀬尾サトシ

「花咲コトミは、
本の世界を切り拓くために
生まれてきた」ってさ

瀬尾サトシ

なあ、コトミ

瀬尾サトシ

俺はコトミが好きだ

瀬尾サトシ

でも、コトミの視界に
俺がいなくてもいい

瀬尾サトシ

コトミには
本の世界があるからな

瀬尾サトシ

コトミは、
現実の些事に
目を向けなくていい

瀬尾サトシ

俺に構う暇があるなら…
読むべき本が山ほどある

瀬尾サトシ

お前の才能は、
それだけ尊い

瀬尾サトシ

…だから

 サトシは振り返った。

瀬尾サトシ

…………

花咲コトミ

…………

瀬尾サトシ

…おい、コトミ

花咲コトミ

…………

花咲コトミ

…あれ、サトちゃん?

花咲コトミ

…気になる本が出てきて
…夢中になってた

花咲コトミ

ごめんね、
何か話してたよね?

花咲コトミ

もう一回、
同じ話をしてくれる?

瀬尾サトシ

神経 疑うわ

翌日:学校

瀬尾サトシ

(外の雪、やばいな)

女子生徒

あ、瀬尾君
コトミがどこにいるか
教えてよ

女子生徒

借りた本 返したくてさ

瀬尾サトシ

…いや、知らねえよ

女子生徒

コトミの居場所、
わかんないの?

女子生徒

瀬尾君なのに?

瀬尾サトシ

お前
何 言ってんの?

男子生徒

おいサトシ、
花咲はどこだ?

男子生徒

図書委員の仕事で話が
あるんだが…

瀬尾サトシ

何で俺にわかると
思うんだよ…

男子生徒

花咲の担当と言えば、
サトシだろ

瀬尾サトシ

担当って何だ?

先生

瀬尾、
花咲を知らないか?

瀬尾サトシ

先生もかよ

先生

もう3限だってのに、
学校に来てないんだ

先生

朝には家を出たそう
なんだが…

瀬尾サトシ

何で俺にわかると
思うんすか?

先生

花咲の担当と言えば、
瀬尾だろ

瀬尾サトシ

あんたコトミの担任
ですよね?

女子生徒

あれ、瀬尾君?
コトちゃんはどこ?

瀬尾サトシ

お前の台詞は
聞きあきた

女子生徒

今 話しかけたのに!?

瀬尾サトシ

コトミなら学校に
来てねえよ

女子生徒

…え…嘘
…やばいかも

瀬尾サトシ

ああ?

女子生徒

あたし、寝坊しちゃって
…今 来たんだけど…

女子生徒

…学校近くのバス停で、
コトちゃんが本を
読んでるのを見たんだ…

女子生徒

てっきり瀬尾君が
近くにいると思って
…スルーしたけど…

男子生徒

おい、
まさか花咲の奴…

男子生徒

この大雪の中、
朝からずっと
外で本 読んでんのか?

女子生徒

…コトミならありえるよ

女子生徒

…凍傷になっても
気づかずに読んでそう

先生

…まずいな

先生

瀬尾!
迎えに行ってこい!

瀬尾サトシ

「迎えに行くぞ!」
じゃなく?

瀬尾サトシ

担任は行かねえの?

先生

だって、
花咲の担当はお前だろ?

先生

外 寒いし

瀬尾サトシ

ゴミ教師かよ!もういい!

 サトシは走って学校を出た。

 残された教師と生徒たちが、顔を見合わせる。

先生

ゴミと呼ばれた

先生

でも、俺 悪くないよな

男子生徒

まあ、先生が行っても
意味ないしな

男子生徒

読書に夢中の花咲には、
誰の声も届かねえから

女子生徒

あの子、
車のクラクションにさえ
無反応で、
普通にひかれるからね

女子生徒

先生が
拡声器で叫んだとしても、
反応してくれないよ

女子生徒

瀬尾君が呼ぶときだけは、
すぐ気づくのにね!

女子生徒

それがどういう意味か、
瀬尾君は
気づいてないけど!

先生

ははは

先生

神経 疑うわ

5分後:バス停

花咲コトミ

…………

瀬尾サトシ

…いた

瀬尾サトシ

…おい、コトミ

花咲コトミ

…………

花咲コトミ

…あれ?
…サトちゃん?

瀬尾サトシ

…迎えに来た

花咲コトミ

…そっか、
いつもごめんね、
サトちゃん

花咲コトミ

あれ?サトちゃん、
マフラーもコートもない…

花咲コトミ

大丈夫?

瀬尾サトシ

…今のお前よりは体温
高えよ

花咲コトミ

すっごく息切れてない?

瀬尾サトシ

…軽く走ったからな

花咲コトミ

…あ

瀬尾サトシ

どうした?

花咲コトミ

脚がかじかんで、
歩けない

花咲コトミ

ごめんね、
…おぶってもらって

瀬尾サトシ

…別にいい

瀬尾サトシ

…俺、明日から
登下校 見張りに行く

花咲コトミ

うん、ごめんね、
サトちゃん

瀬尾サトシ

何で若干 嬉しそうに
してんだよ…

花咲コトミ

サトちゃん、
ちょっと怒ってる?

花咲コトミ

心配かけたから?

瀬尾サトシ

…怒ってない

花咲コトミ

…嘘だ…背中から
静かな怒りを感じる

 サトシが文庫本を取り出した。

瀬尾サトシ

続き読むだろ?

瀬尾サトシ

その体勢でも、
お前なら
器用に読めるしな

瀬尾サトシ

…身体が凍死しそうなのを
忘れるほど、
深く愛せる本があるんだ

瀬尾サトシ

お前は、
それだけに目を
向ければいい

 コトミは文庫本を受け取る代わりに、サトシの身体に手を回す。

花咲コトミ

後でいいよ

 そのままぎゅっと抱きしめた。

花咲コトミ

今はただ、
こうしていたいの

10年越しの告白

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