コトミの母
瀬尾サトシ
コトミの母
コトミの母
コトミも喜ぶしさ!
瀬尾サトシ
俺、コトミの
彼氏じゃないんで…
コトミの母
コトミの母
何かお礼させてよ
コトミの母
コトミがお世話になってる
からさ
コトミの母
コトミが新幹線を
乗り過ごしたときなんて
コトミの母
迎えに行ってくれたし…
瀬尾サトシ
出してもらえましたし
瀬尾サトシ
けっこう楽しかったんで…
コトミの母
コトミが車に
はねられたとき、
病院に連れてってくれたし
瀬尾サトシ
付き添っただけで…
瀬尾サトシ
良かったです
コトミの母
コトミが
階段から落ちたとき、
かばってくれたんでしょ?
瀬尾サトシ
下じきになっただけです…
コトミの母
瀬尾君には迷惑かけるね
コトミの母
あの子
10回は死んでるよ
コトミの母
瀬尾サトシ
してな…
ゴゴゴゴゴ……。
瀬尾サトシ
すごい音しましたね
コトミの母
…コトミの部屋からね
コトミの母
上がってくれる?
コトミの母
何かやらかしたみたい
瀬尾サトシ
床が本で埋もれてる)
コトミの母
瀬尾サトシ
積み上げた本が
崩れたみたいですね
瀬尾サトシ
下じきになってます
コトミの母
本当にもう
瀬尾サトシ
コトミを掘り起こしますね
サトシが本の山をどけると、コトミが顔をのぞかせた。
花咲コトミ
コトミは、手元の本をじっと読んでいる。
瀬尾サトシ
読むのに夢中で…)
瀬尾サトシ
気づいてない)
瀬尾サトシ
聞こえてませんね
コトミの母
コトミの母
周りが見えなくなる
悪い癖
瀬尾サトシ
思いますが
瀬尾サトシ
聞き逃して、
新幹線を乗り過ごす
とかならまだしも…)
瀬尾サトシ
聞こえなくて
車にひかれるとか…)
瀬尾サトシ
気づかなくて、
生き埋めにされるとか…)
瀬尾サトシ
瀬尾サトシ
俺の声が聞こえるか?
花咲コトミ
花咲コトミ
瀬尾サトシ
花咲コトミ
…誰がこんなことを?
瀬尾サトシ
瀬尾サトシ
本を積み上げるから
崩れたんだ
花咲コトミ
瀬尾サトシ
ついでに整理しとけ
花咲コトミ
瀬尾サトシ
花咲コトミ
瀬尾サトシ
花咲コトミ
花咲コトミ
サトちゃん
2人で片付けをしているとき。本棚に向かいながら、サトシが口を開いた。
瀬尾サトシ
片づけながらでいいから
聞いてくれ
瀬尾サトシ
言ってたよ
瀬尾サトシ
階段から落ちるなんて、
神経 疑うわ」ってさ
瀬尾サトシ
コトミの活字中毒を
"悪い癖"って呼ぶけど
瀬尾サトシ
コトミの才能と思ってる
本棚に向けてうつむくと、古い紙の匂いがした。
瀬尾サトシ
本を読み解く才能がある)
瀬尾サトシ
本の感想を
書評サイトに
まとめてみたら…)
瀬尾サトシ
こぞって注目する、
大人気サイトになった)
瀬尾サトシ
文学作品の解釈を
論文にして公開したら…)
瀬尾サトシ
…コトミは研究室に
誘われてた)
瀬尾サトシ
瀬尾サトシ
本の世界を切り拓くために
生まれてきた」ってさ
瀬尾サトシ
瀬尾サトシ
瀬尾サトシ
俺がいなくてもいい
瀬尾サトシ
本の世界があるからな
瀬尾サトシ
現実の些事に
目を向けなくていい
瀬尾サトシ
読むべき本が山ほどある
瀬尾サトシ
それだけ尊い
瀬尾サトシ
サトシは振り返った。
瀬尾サトシ
花咲コトミ
瀬尾サトシ
花咲コトミ
花咲コトミ
花咲コトミ
…夢中になってた
花咲コトミ
何か話してたよね?
花咲コトミ
同じ話をしてくれる?
瀬尾サトシ
翌日:学校
瀬尾サトシ
女子生徒
コトミがどこにいるか
教えてよ
女子生徒
瀬尾サトシ
女子生徒
わかんないの?
女子生徒
瀬尾サトシ
何 言ってんの?
男子生徒
花咲はどこだ?
男子生徒
あるんだが…
瀬尾サトシ
思うんだよ…
男子生徒
サトシだろ
瀬尾サトシ
先生
花咲を知らないか?
瀬尾サトシ
先生
学校に来てないんだ
先生
なんだが…
瀬尾サトシ
思うんすか?
先生
瀬尾だろ
瀬尾サトシ
ですよね?
女子生徒
コトちゃんはどこ?
瀬尾サトシ
聞きあきた
女子生徒
瀬尾サトシ
来てねえよ
女子生徒
…やばいかも
瀬尾サトシ
女子生徒
…今 来たんだけど…
女子生徒
コトちゃんが本を
読んでるのを見たんだ…
女子生徒
近くにいると思って
…スルーしたけど…
男子生徒
まさか花咲の奴…
男子生徒
朝からずっと
外で本 読んでんのか?
女子生徒
女子生徒
気づかずに読んでそう
先生
先生
迎えに行ってこい!
瀬尾サトシ
じゃなく?
瀬尾サトシ
先生
花咲の担当はお前だろ?
先生
瀬尾サトシ
サトシは走って学校を出た。
残された教師と生徒たちが、顔を見合わせる。
先生
先生
男子生徒
意味ないしな
男子生徒
誰の声も届かねえから
女子生徒
車のクラクションにさえ
無反応で、
普通にひかれるからね
女子生徒
拡声器で叫んだとしても、
反応してくれないよ
女子生徒
すぐ気づくのにね!
女子生徒
瀬尾君は
気づいてないけど!
先生
先生
5分後:バス停
花咲コトミ
瀬尾サトシ
瀬尾サトシ
花咲コトミ
花咲コトミ
…サトちゃん?
瀬尾サトシ
花咲コトミ
いつもごめんね、
サトちゃん
花咲コトミ
マフラーもコートもない…
花咲コトミ
瀬尾サトシ
高えよ
花咲コトミ
瀬尾サトシ
花咲コトミ
瀬尾サトシ
花咲コトミ
歩けない
花咲コトミ
…おぶってもらって
瀬尾サトシ
瀬尾サトシ
登下校 見張りに行く
花咲コトミ
サトちゃん
瀬尾サトシ
してんだよ…
花咲コトミ
ちょっと怒ってる?
花咲コトミ
瀬尾サトシ
花咲コトミ
静かな怒りを感じる
サトシが文庫本を取り出した。
瀬尾サトシ
瀬尾サトシ
お前なら
器用に読めるしな
瀬尾サトシ
忘れるほど、
深く愛せる本があるんだ
瀬尾サトシ
それだけに目を
向ければいい
コトミは文庫本を受け取る代わりに、サトシの身体に手を回す。
花咲コトミ
そのままぎゅっと抱きしめた。
花咲コトミ
こうしていたいの