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レミ

レミ

……ふぅ

鏡に映る自分の姿を確認し、私は一息ついた。

それもこれも、情報量が多すぎるのがいけないのだ。

この世界へきて少し、常識も何も分からないのに、いきなり発展的な内容を教えられても何も入ってこないのは自明の理だ。

レミ

つ、疲れた~

誰もいないお手洗いでそう呟く私。

私は今、ミティフス学園にいた。

うー、授業サボりたいなぁ。

––––それにしてもどうして、私は異世界に来たのに、学園にいるのか。

事の始まりは一週間前に遡る。

クロトに飛行船に乗せてもらったその日の夕食にて。

私は耳を疑った。

レミ

レミ

……は?

クロト

だから、レミにはミティフス学園に編入してもらう

ちょ、ちょ、ちょっと待って!

ミティフス学園って何⁉︎ 名前からして学校……だよね?

私を引き取る話はどこへいったのよ……論文じゃないんだし、結論をまず告げればいいってものじゃない……。

だから理解できないのはクロトが悪いよね。うん、私は悪くない。

クロト

表向きは普通の学園だ。通常授業もある。

クロト

ただ、夜からは怪盗として生きるための術を教えている。

クロト

いいだろ? レミにピッタリじゃないか

レミ

えぇ……

いいだろ、って……てっきり私は、クロトが色々教えてくれるものだと……。

レミ

……私がそこに編入する意味は?

レミ

お金もかかるだろうし、それだったらクロトが教えてくれる方が早くない?

クロト

あいにくと俺は忙しい。

クロト

解析もまだ進んでいないし……

クロト

そういった専門的なことは、専門家に任せた方がいい。

クロト

そっちの方が早いからな

レミ

率直に訊くけど、私そこに通う必要ある?

クロトは食事の手を止めて、笑顔を作った。……ただし口元だけだ。目は笑ってない。怖い。

クロト

……じゃあお前、魔法使えるか?

レミ

うっ

……魔法があるなんて初耳です。

クロト

怪盗捕獲特別法第十四条は?

レミ

えっとぉ……

怪盗捕縛法って何? 十四って……そこまで世間に敵視されてるの?

クロト

怪盗同盟とは?

レミ

え、なにそれ?

ついに聞き返してしまった。

しまったと思いつつ、クロトを窺う。

彼は呆れるでも失望するでもなく、淡々と肉を切っていた。

クロト

答えられないだろ?

クロト

この世界のことを知らないまま、怪盗をするってことは、自ら捕まりに行くのと同義だぞ。命知らずだと思え。

クロト

あ、ちなみに、今度の卒業試験で学園を卒業できなかったら、俺たちはお前を見捨てるから

今、さらっと最重要案件言いませんでした?

レミ

みみみみみっ、見捨、てる?

クロト

まぁ、頑張れよ

クロトはナプキンを折り畳み、皿の上に乗せると席を立ち、私の肩をポンポンと叩いて自室へと戻っていった。

一人取り残された私。……これ、随分とまずい状況じゃない?

レミ

……ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ

レミ

えええええ!

私は再び大絶叫。近所迷惑すみません。

……それにしても、次の卒業試験に合格できなかったら見捨てる?

さっき引き取るって言ったばかりなのに……横暴にも程度ってものがあるでしょう…………。

……まぁでも、クロトが私を引き取ってメリットになる点なんて、少ないし……もしかしたら無いし。

そう考えたら、この状況も仕方がないものだと受け入れざるを得ないのかも。

卒業試験って何ヶ月後? 試験科目は? あと夜中に色々教わるみたいだけど私いつ寝るの⁇

そう一人で考え込んでいたら、さっき大号泣してたユリちゃんが、躊躇いがちに私の服の裾を引っ張った。

ユリ

レ、レミさん。

ユリ

ちょっとこちらへ

レミ

……あ、あの、ユリちゃん。

レミ

さっきは……ごめんね?

私が誤った瞬間、ユリちゃんはそっぽを向いた。

ユリ

問題ないです。私が勝手に泣いただけなので

私、相当嫌われているのかな……落ち込む。

ユリ

……そんなことは、今どうでもいいんです。

ユリ

レミさん––––

小さい子にレミさんって呼ばれると、何だか背中がむずむずする。

もっと砕けて話してくれてもいいのに……でも嫌われてるのだったら無理か。

それでも提案だけはしておこうと思って、明るい口調で話しかける。

レミ

レミさんはいいよ~。

レミ

レミって呼んで?

ユリ

ユリ

……私は年上の方を呼び捨てで呼ぶほど、落ちぶれておりません

レミ

ねっ、敬語も無くそうよ

ユリ

無理です

レミ

じゃあ、せめてレミちゃんとか

ユリ

不可です

レミ

……堅苦しいのはやだよぅ……

ユリ

堅苦しくなどありません。最低限の敬意です

私よりユリちゃんの方が大人っぽい……今ユリちゃん何歳だっけ……?

小学校低学年、または中学年だろう。高学年にしては、背が小さい。

ユリ

……レミさん

レミ

はい?

ユリちゃんはどこからか鋏を取り出し、一言。

ユリ

脱いでください

レミ

⁉︎

レミ

え、ダメだよ⁉︎

まずは対話からだよユリちゃんまずその輝く凶器をしまおうっ?

ユリちゃんは表情を変えずに、まち針を取り出した。

どんどんユリちゃんが武装されていく……!

対して私は丸腰だ。テーブルクロスが何とか目眩しに使えるといった具合だろうか。

ユリちゃんは澄んだ青色の瞳で私を見上げた。

どんな脅迫にも、私は屈しない……っ!

ユリ

––––怪盗衣装を作るんです

レミ

……へ?

ユリちゃんの小さな唇からこぼれ落ちたのは、私が予想だにしていなかった言葉だ。

レミ

作る? ユリちゃんが?

ユリ

はい。

ユリ

こちらへ、来てください

そうしてユリちゃんに案内されたのは、彼女の私室だった。

明るい目の茶色を基調とした部屋で、床にはいくつか毛糸の玉が転がっている。

地球にあった私の部屋より、何倍も女の子らしい部屋だ。

ユリ

ふむふむ……なるほどここはこうして、の方が可愛いですかね?

レミ

流石ユリちゃん、分かってる!

レミ

このヒラヒラが揺ら揺らするのが綺麗だよね

ユリ

それでしたらリボン、右側と左側で長さ変えてみませんか?

ユリ

どちらかを短くした分、もう一方を長くして……

ユリ

そうすれば走った時、高所から落下する時にリボンの棚引きが、より一層綺麗に見えます……!

レミ

絡まったりしないの?

ユリ

そこは編み方と……体の動かし方次第ですね。

ユリちゃんはスケッチブックに服の細かい部分の詳細を書き込むと、少しだけ目を輝かせて私に言った。

ユリ

出来ました。これでどうでしょうっ?

そうやって楽しそうにしているユリちゃんは、年相応の女の子のようだ。

基本無表情だけど、たまに見せるそういった仕草が可愛いなぁ。

ユリ

レミさんは銀髪ですから、紫色が良く似合うと思いますが……他に入れたい色があるのでしたら、こちらの色見本から選んでください。

へぇ、そうなんだ。私銀髪––––⁉︎

レミ

わ、私の髪、銀髪?

ユリ

はい、そうですが……どうかしましたか?

私は慌てて、ユリちゃんの部屋にあった鏡で髪色を確認した。

そこに映ったのは、見慣れた黒髪……ではなく。

レミ

うわっ、銀髪だ⁉︎

それだけではなかった。目の色も青紫に変色している。

私の身に何が起こっているのか。

それを問いただすため、クロトの元へと走った。

レミ

ああああああああああ!

レミ

クロトクロトクロトクロトー!

リビングにクロトの姿は無かったので、大声で彼の名を叫ぶ。

クロトは目を擦りながら出てきた。

クロト

何だうるさい、早朝前だぞ

煩わしそうなクロトの反応を気にすることなく、私は端的に問いたいことを問う。

レミ

私の髪、銀髪⁉︎

クロト

ん、ああ

レミ

光の加減じゃなくて?

クロト

そうだ、紛うことない銀髪だ。

クロト

頼むから早く寝させてくれよ……

私はこの場所で意味もなく、くるくると回る。

私は純粋な日本人ですよ?

言うまでもなく黒髪でしたよ?

レミ

どういうことぉぉぉ⁉︎

性懲りもなく絶叫して、クロトに頬を抓られたが(そして痛かったが)気にする余裕はなかった。

……どうして急に、髪と瞳の色が変わったのだろう。

臨死体験で細胞の質が変容したとか? 私の色素どうなっているの。

驚きすぎて、その日の晩だけでなく、しばらく眠れなかった。

回想を終え、寝不足の脳を叩き起こそうと冷たい水をかける。

鏡に映る私は、相変わらずの銀髪と、紫の瞳だ。

ここまで違うと、まるで自分が別人かのように思える。

それから、次の日になると早速、ここに編入させられることになった。

……あの時も思ったけれど、クロトって色々と急じゃない? どういった思考回路で生きてるの?

私が物思いに耽っていると、お手洗いの入り口にある女子生徒が息を切らして立っていた。

ミア

レミ!

ミア

ここにいたんですね、探しましたよ

レミ

あぁ、うん。

レミ

ちょっとトイレに行きたくて……

ミア

そうですか……また迷子になったのかと心配しました

彼女はミアといって、私と同じ部屋で寝ている。

ミティフス学校は全寮制で、二人で一つの部屋が与えられる。

成績が優秀であれば個室も与えられるらしいが、私一人は絶対嫌だ。

楽しく無いもん。

この学園で初めてできた、友達と呼べる存在に私は飛びついた。

レミ

ミアちゃんが私のことちゃんと分かってくれてて嬉しい……!

レミ

そう、何を隠そう私、迷子になってた!

私が急に飛びついても、ミアちゃんは動じない。

ポケットからハンカチを取り出し、私の髪から滴る雫を拭った。

ミア

レミ大丈夫ですか?

ミア

何度迷子になれば気が済むんです?

レミ

ふぎゅっ

ミア

次は魔法学ですよ

レミ

はい……

先に歩き出したミアちゃんの背中を、私は見失わないよう歩く。

––––次の卒業試験で合格できなかったら、クロトたちに見捨てられてしまう。

そんな不安を胸に抱いたままの学園生活は、思いの外疲れるものだった。

ミティフス学園の教室は、日本の学校の教室に良く似ている。

一教室に三十程の机が並べられ、先生が教卓で話すのだ。

昼下がりの教室は温かく、生徒の眠気を誘っている。

ちらほら寝ている者の姿を見かけた。

スピム先生

……そう、この世界の魔法は、主に火・水・草・電・音・光・闇・天・地の属性に分けることができます。

スピム先生

火属性は草属性の魔法に強く、草属性は水属性の魔法に強く、水属性は火属性の魔法に強い。

スピム先生

光属性と闇属性の魔法、天属性と地属性の魔法は、お互いに影響しあい、同じ強さの魔法同士なら、拮抗状態を保つ。

スピム先生

このように、それぞれの属性は巡りあってこの世界を創り上げているのです。

私はふむふむと頷く。

半分も理解してないけど……火が草に、草が水に、水が火に強いのはイメージがつきやすかった。

某有名な電気ネズミが登場するゲームのタイプ相性がそんな感じだった気がするからだ。

ありがとう電気ネズミ。もし会うことがあれば、トマトケチャップを向こうが望むだけ進呈しようと思う。

スピム先生

では、ミアさん?

スピム先生

簡単な火属性の魔法を、使っていただけますか?

ミア

はい

ミアちゃんの髪は薄い黄色がかった色をしていて、赤と青のオッドアイを持っている。

ユリちゃんとランくんと、瞳が同じ色だと気づいたのはつい最近だ。

……授業には関係無いけど。

ミアちゃんは目を閉じ、深呼吸をして詠唱する。

ミア

––––フレア・ポザ・ニーノ

ミア

火の球は浮遊する

そると、火の球がミアちゃんの手のひらに浮かんだ。

本当、魔法はどういう原理で発動しているのだろう。

この世界では科学と同じくらい発達したもののようだし、地球にあっても良かったと思うんだよね……。

ただ、魔法は才能の有無により、使える人と使えない人に分けられる。

だからこそ、地球にはなかった差別も生まれているのも現状だそうだ。

スピム先生

はい、良くできました。

スピム先生

魔法は熟練することにより、基本詠唱を必要としなくなります。

スピム先生

簡単な魔法なら……ほら

スピム先生が手をじっと見つめると、ミアちゃんの時よりも大きな火の玉が出てきた。

スピム先生

このように無詠唱でも、使用することができます

先生は持っていた杖を勢いよく教壇に叩きつけた。

パキッと音を立て、杖が真っ二つに裂けた。

怖……温厚な先生は一体いずこへ……?

スピム先生

ですが難しい魔法になればなるほど、詠唱の重要さが増してくるのですよ……聞いてんのかその辺で寝てる奴!

スピム先生

今起きたら反省文十枚で済ませてやる……とっとと起きろ!

後からミアちゃんに聞いたけど、先生は一年間ずっとこのような授業をやっているらしい。

そりゃあ寝てしまう生徒が出るのも仕方がないよね……。

そうぼんやりと思いつつ、私はあくびを必死で噛み殺していた。

次の授業は同じ教室で行うらしく、移動に迷うこともなかった。

非常にありがたい。

というか全ての授業ずっと同じ教室でして欲しい……。

インクリア先生

それぞれの人間が持っている''天性''。

インクリア先生

これは誰もが持つ能力のことである。

インクリア先生

まぁ、こんなことは皆ももう分かってるだろうし……

インクリア先生

てことで、今日は属性の化身について学ぼうかな

そう楽しそうに話す先生は『個人体質』を教える先生だ。

ただし、自他共に認める変人で、話が脱線しやすい。

おまけにその話で出した、個人体質に関係のないことまで筆記試験に出るらしい。

恐るべし……真面目に受けなければ。

インクリア先生

それぞれの魔法の属性の化身は、大体五百年を周期にして現れることが多い。

インクリア先生

稀に生まれてくる、生まれ変わりとはまた違うんだ。

インクリア先生

そして化身は、それぞれの属性の……いわば最強技を使える。

インクリア先生

その魔法は記録に残っているが、化身以外の人間がそれを発動するのに成功したためしがない。

インクリア先生

この辺はまだ研究されているが、いずれ分かってくるだろう。

インクリア先生

その他の詳しいことは教科書に載ってるから、ちゃんと読んでおくようにー。

インクリア先生

試験に出すからね

さ、最強技って……。

私は先生のネーミングセンスに少々呆れながらも、しっかりと教科書を確認。ペンで線を引く。

えーと、一番すぐ覚えられそうなのは……これかな。

光の属性の最強技は“フランド・ラーレラ 光よ怒れ”。

正確な呪文はもう少し長いらしいが、この記録を残した人が聞き取れたのはここまでだそう。

その効果は、『自分自身の中にある光を具現化し、相手の目を眩ませ、脳にダメージを与える』だそうだ。

何だか物騒。どんな状況で使うのだろう。

私は他の呪文を流して読んでいく。どの魔法にも、それを初めて使った人の名が書かれていて、非常に覚えにくそうだ。二つ名まであるし……。

すると、神の化身という単語がぽつんと出てきた。

何だろう、これ?

レミ

あの、先生。

レミ

神の化身って何ですか?

インクリア先生

あぁ、うんうん、神の化身ね。

インクリア先生

彼らは全ての属性の最強技が使えると伝えられてるんだ。

インクリア先生

まぁ、神の化身がいたという史実はなくて、神話の考察の一部だと思ってくれていいよ。あまり今日のところと関係ないし。

インクリア先生

……あぁ、そうそう。

インクリア先生

属性の化身、つまり神の化身以外はその属性以外の属性魔法は苦手なことが多いんだ。

インクリア先生

覚えておいてね?

インクリア先生

ちゃんと試験に出すから

その言葉を聞き、私は猛スピードでノートを取ることにした。

これらが午前の授業で、午後は体育。夜は怪盗学だ。

睡眠時間は六時間ほど。夜がある分始業の時間が少し遅めに設定されている。

頭の中に学んだ色々なものを必死で詰め込んでいたら、あっという間に二週間が過ぎた。

体力の方はまだまだだけど、気力の方は来た時よりも成長したと思う。

寮生活にも慣れ、この調子なら卒業試験も無事受かるだろうと、私はそう楽観していた。

この日までは。

先生

先生

では今より、卒業試験の内容を発表する!

レミ

……………………は

う、嘘でしょ……。

卒業試験がこんなに早く訪れるなんて、そんなこと何一つ話してなかったよねクロト––––っ⁉︎

ミア

大丈夫レミ? 顔真っ青

レミ

う、うん……

––––––––そんなこんなで、卒業試験はもう目前まで迫っていたのだった。

この作品はいかがでしたか?

60

コメント

4

ユーザー

.....✍(・∀・*)なるほどぉ.… ..............ポケモンやん()

ユーザー

面白いっす……凄いなんかわくわくします!! ミアちゃん描いていいですか……!!!!

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