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今日は一日中雨が降っている。 午後も止みそうにない。 でも傘は持ってないしどうしよう…。 そんな時、君は声をかけてくれたんだ。

しずく

ねえ、傘忘れたの?

しのぶ

そう

しずく

残念だったね。君家はどこ?

しのぶ

山の向こう。歩いて1時間半もかかるの

しずく

山の向こうじゃ危ないね。この雨でしばらく帰れそうにないね。

そう言って君は去っていった。

そして、その雨は3日間降り続いた。

すると、また君が話しかけてきた。

しずく

ねえ、おうちに帰りたい?

しのぶ

そりゃそうだよ。もう3日もここにいるんだよ。

しのぶ

みんなおうちの人が迎えに来て帰ったのに、私の家は遠いから、お母さんもおばあちゃまも迎えに来れないって。

しのぶ

先生がそう言うの。でも私が住んでる山の向こうは停電になってて、電話できたのは3日前。

しのぶ

この街でこんな大雨が降ったら、山の向こうに住んでいる子は、しばらく帰れないだろうって。

しずく

お母さんに会いたい?

しのぶ

うん。でも、お母さんに会えても、また仕事でいなくなっちゃうんだ。

しずく

お母さんのこと嫌いなの?

しのぶ

嫌い…って、言っちゃった。そしたら会えなくなっちゃった。

しのぶ

ちょうどこの大雨が降る前に、お母さんと喧嘩しちゃったの。

しずく

おばあちゃんにも会いたい?

しのぶ

おばあちゃまにも会いたい。でもおばあちゃまとも喧嘩しちゃった。

しずく

お母さんともおばあちゃんとも仲直りしたいの?

しのぶ

うん。

しずく

じゃあ、僕とかくれんぼしよう。

しのぶ

え?

しずく

僕は願いを叶える子供なんだって。小さい頃からそう言われてきた。

しのぶ

願いを叶える?

しずく

そう。僕は願いを叶えるんだって。だから僕を見つけてよ。10秒数えたら追いかけてきていいよ。

しのぶ

…わかった。

しのぶ

いち、に、さん、し…

私は数を数えた。願いを叶えると言った君を信じたわけではないけど。

でも、この長い長い待機時間のつかの間の癒しになると思った。

しのぶ

…きゅう、じゅう

しのぶ

もういいかーい?

しのぶ

って、答えたらどこにいるかわかっちゃうか?

私は一生懸命彼を探した。

しのぶ

5年生の教室にもいない。6年生の教師にもいない。

しのぶ

ここは、旧校舎?

しのぶ

昔はもっと人が多くて、こっちも使ってたって聞いたことがある。

しのぶ

6年5組。昔は5クラスもあったんだ。

しのぶ

あ…

しのぶ

カーテンがなんだか膨らんでるなー。

しのぶ

しずく、見つけた!

しずく

しのぶ

どうしたの?泣いてるの?

しずく

な…なんでもない!

しのぶ

泣いてたでしょ?

しずく

泣いてない!

しのぶ

どうして内緒にするの?せっかく友達になれたのに!この長い雨でも悲しくならないと思ったのに!

しずく

君こそ秘密にしてるじゃん!

しのぶ

え?

しずく

君、お母さんとおばあちゃんの話をするけど、お父さんの話をしないじゃん。

しずく

しのぶのお父さんはどこにいるの?

しのぶ

…いないの

しのぶ

お父さんはもう、いないの

しのぶ

死んじゃったの!

しのぶ

2年前に、私と同い年の男の子を助けて、死んじゃったの。

しのぶ

ちょうど今日みたいな、雨が続く日で、川が氾濫して

しのぶ

その川で溺れていた男の子を助けて、お父さんは死んだの

しずく

じゃあ、その男の子を恨んでる?

しのぶ

わからない

しのぶ

その子は、忌みの子って言われて、災害を起こすからってずっと狭い牢屋に閉じ込められたんだって。

しのぶ

その子が牢屋から逃げ出した日に、大雨が降り始めて、大洪水が起きたんだって。

しのぶ

それで、その子が川に溺れて、お父さんはそれを助けて…だから……

しずく

ごめん。落ち着いて…

しのぶ

おばあちゃまは、忌み子が逃げ出したせいで、お前のお父さんが死んだんだって言うんだけど…

しのぶ

そんなふうに思えなくて…

しずく

でも…でも、それは、おばあちゃんの言う通りなんじゃない?

しのぶ

だけど、だけどその子、私と同い年なんだよ?

しのぶ

もしかしたら私がその子だったのかもしれないんだよ

しのぶ

ずっと閉じ込められて辛かったんだと思う。やっと逃げ出せたんだと思う。

しのぶ

お父さんは多分、その子を助けたかったんだと思う。幸せに生きて欲しかったんだと思う。

しのぶ

お父さんが死んじゃってから、お母さんは毎日毎日必死に働いて…

しのぶ

おばあちゃまは、私の世話をしてくれるけど…

しのぶ

おばあちゃまが、忌み子のせいだって言うたびに、悲しくなって

しのぶ

そのせいで2人と喧嘩しちゃって…

しずく

喧嘩したら仲直りすればいいんじゃない?

しのぶ

え?

しずく

僕は、お母さんのこともおばあちゃんのことも大好きだから、わかって欲しかったんでしょ?

しのぶ

うん

しずく

だったら仲直りすればいいじゃん

しのぶ

わかった

しずく

ねっ!

しのぶ

じゃあ、私たちも仲直りしよう

しのぶ

さっきは秘密があることを怒ってごめん。話したくなったときに話してくれればいいよ

しずく

僕の方こそごめん。君に意地悪なことを聞いた

しのぶ

全然気にしてないよ。それに話せてすっきりした

しのぶ

あと、君じゃなくてしのぶ。私の名前しのぶっていうの。

しずく

そうか!僕はしずく。よろしく。

しずく

ねぇ、カーテンでぐるぐるするの知ってる

しのぶ

一緒に勝手に入ってぐるぐるしないと話するんでしょ?知ってるよ!

しずく

それやろうよ!

しのぶ

いいね!

私を君と、誰もいない教室で遊んだ

どれぐらい長い時間が経っただろう。 午後の授業が終わるチャイムが鳴った。

しのぶ

そろそろ先生のところに行こうかな。雨全然止まないね。今日も帰れなさそう。

しずく

しのぶ!僕、しのぶに言わなきゃいけないことがあるんだ

しずく

僕、本当は…

しずく

僕、本当は忌み子なんだ。

しのぶ

え?

しずく

しのぶの言う通り、僕は牢屋の中が暗くて、強くて早く逃げ出したくて

しずく

大人たちが追いかけてくるから逃げたんだけど、壊れかけた端から落ちちゃって

しずく

もうダメだと思ったら、君のお父さんが助けてくれて

しずく

最初は大丈夫、早く岸に上がろうって言ってくれたんだけど

しずく

岸に上がったら大人捕まっちゃうと思って、最初は僕逃げようとして

しずく

それでも、このままじゃ死んじゃうよって言われたから、岸に上がらなきゃと思って

しずく

大丈夫、みんなにも説明するって言って、君のお父さんがぎゅってしてくれて

しずく

一緒に必死に泳いだんだ

しずく

大丈夫大丈夫って言う君のお父さんの声がどんどどんどん小さくなっていて、力をなくしていって…

しずく

岸に上がったらやっぱり大人がいて、僕はぶたれて、寒くて怖くて

しずく

またぎゅってして欲しくて、君のお父さんのを見たら、真っ青になってぐったりしてて

しずく

この人の方が危ないよ死んじゃうよって言ったんだけど、誰も聞いてくれなくて

しずく

もう訳が分からなくなるくらい殴られて、その後に君のお父さんが亡くなったと聞いた

しずく

僕のせいなんだ

しのぶ

お父さん…お父さん…

しずく

謝りたくて。謝りたくて。

しずく

ずっと謝りたくて

しずく

ごめんなさい。本当にごめんなさい!

しずく

今回も牢屋から逃げたらやっぱり大雨になっちゃって

しずく

多分また僕は牢屋に連れ戻されるけど、最後に、君の願いを叶えてこの雨を終わらせるから

しずく

君はまた、新校舎の玄関に向かって

しのぶ

え?

しのぶ

しずくはどうするの?大人たちに捕まっちゃうよ!

しずく

僕は捕まらないから大丈夫

しずく

ここにいるなんて誰も思わないから、きっと大人に見つかることは無い

しずく

僕は君に残って、しのぶの願いを叶えるから

しずく

この長い雨を終りにするから

しずく

行って

しのぶ

わ…わかった

しずく

戻ってきちゃダメだよ

しのぶ

うん

しのぶ

しずくを置いて新校舎まで戻って来ちゃった

しのぶ

本当に雨は止むのかな…

しのぶはうつむいてしゃがみ込んだ

おばあちゃま

しのぶ

おばあちゃま

しのぶ!元気だったか?

しのぶ

おばあちゃま!

おばあちゃま

しのぶ、無事でよかった!

しのぶ

おばあちゃま!会いたかったよぉ〜

おばあちゃま

ごめんね、しのぶ。

おばあちゃま

あんたと同い年の子を、しかもあんたのお父さんが助けてあげた子を、死ねばよかったのに、なんて、ひどいことを言って…

おばあちゃま

あなたがどれだけ悲しかったか…

しのぶ

私もごめんね。おばあちゃまは、お父さんが死んだのが悲しかったんだよね、悔しかったんだよね?

おばあちゃま

ばあちゃまの方こそごめんね。

おばあちゃま

さあ、帰ろう

おばあちゃまに手を引かれて、やっと家に帰れることになった。

ふと、旧校舎を見ると大きな大きな白いてるてる坊主がぶら下がっていた

まるで3日ぶりの晴天を喜んでいるようにゆらゆらと揺れていた

しのぶ

しずく…

しのぶ

しずくは、この大きなてるてる坊主を作ってくれたんだ

おばあちゃま

しのぶ、どうかしたのかい?

耳の遠いおばあちゃまが聞き返すが、私は今日までのしずくとの日々を大事にしたくて、こう答えた

しのぶ

なんでもないよ、おばあちゃま

次の日登校すると、旧校舎に立ち入り禁止のテープが貼られ、先生も生徒もざわざわしていた

警察も来ているみたいだ

先生

みんな、離れて

しのぶ

何かあったんですか?

先生

旧校舎で子どもが亡くなっていたの

しのぶ

え?

先生

どうやら自殺みたい。カーテンに巻きついて、首吊り自殺だって

先生

その姿はまるで、大きなてるてる坊主みたいだったそうよ

それから、脱走した忌み子が死んだという噂が町を駆け巡った。

あの日見た大きなてるてる坊主が、頭にこびりついて離れなかった

しずくに対して心ないことを言う町の人も多かった

「町のおきてを破った報いだ」 「畑が被害を受けてどんな災難だった」…

なんでそんなひどいことが言えるのだろうか?

しずくは、町の罪人にあたり、亡骸の引き取り手もいないという

おばあちゃま

しのぶ、しのぶは悪くないよ

しのぶ

おばあちゃま

あの子は自分で考えて、長い雨を止めた

おばあちゃま

あんたを無事に家に帰らせてやるためじゃ

しのぶ

おばあちゃま

最初は私も町の人と同じようにあの子を恨んでたよ

おばあちゃま

だけど、あんたのお父さんはあの子に生きていて欲しいと願ってた

おばあちゃま

そうやって生き抜いたあの子が、あんたを助けたんだ

おばあちゃま

峠の小さな学校なんか、食糧の備蓄も多くない。あのまま雨が続けば、まもなくお前が死んでいただろう

おばあちゃま

私はあの子に感謝しているよ

しのぶ

おばあちゃま

そこで、しのぶくんの遺体を引き取ろうと思う。

しのぶ

え?

おばあちゃま

家の墓に入れてあげようと思うんだ

しのぶ

…いいの?

おばあちゃま

それぐらいしか、あの子にしてあげられることが私にはない

しずくの遺体は私たち家族が引き取ることになった

あれから時が流れ、私は母校の教師になった

今でも雨が降ると、しずくを探してしまう

そして、雨が止むと校庭から旧校舎を見て、あの日の光景を思い出す

今日も、白いカーテンが揺れている

しのぶ

しずく…

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