藤澤
玄関の鍵を閉めて振り返った涼ちゃんは、いつもの涼ちゃんで、ぼくを心配そうに見つめてきた。
大森
大森
藤澤
藤澤
ぼくはとりあえず、涼ちゃんの手を引いてリビングに連れていき、ソファーに座らせた。
大森
そう言ってぼくは、キッチンに向かう為、繋いでた手を離そうとすると、涼ちゃんが手をギュッと握ってきた。
藤澤
さっきから気付いてはいたけど、 そう言う涼ちゃんの手は少し震えていた。
手を繋いだまま涼ちゃんの隣に座り、 数分が経った。
涼ちゃんは、何度か話そうとしては言葉を飲み込んでは、辛そうな不安そうな顔をしている。
多分、さっきの男の事を話そうとしてくれているんだろうけど、二人の会話的に何となくあの男との関係が予想出来てしまう。
聞きたいような、聞きたくないような…
大森
藤澤
藤澤
涼ちゃんは一瞬だけぼくの目を見ると、ゆっくり話しはじめた。
さっきの男は、ぼくの予想通り、涼ちゃんが前に付き合ってた人で、ここに一緒に住む約束をしてた人だった。
別れた理由は、相手が浮気をしていたからで、その事を問い詰めたら一方的に別れを切り出されたという事だった。
藤澤
藤澤
涼ちゃんの話を聞いて、自分の顔が強ばるのが分かった。
涼ちゃんに辛い思いをさせたあの男にムカついたりとか、自分なら涼ちゃんに辛い思いなんかさせないのにとか、でも涼ちゃんが求めてるのはぼくじゃないんだとか… 色んな感情が溢れてくる。
藤澤
藤澤
大森
涼ちゃんの事を好きだと言いたいのをぐっと堪える。
だって、涼ちゃんが好きなのは若井だから… ぼくが好きだと伝えても困らせちゃうだけだから…
藤澤
大森
慌てて訂正するけど、涼ちゃんは下を向いたままで表情が分からない。
藤澤
涼ちゃんはそう言うと、ソファーから立ち上がり、ぼくが止める間もなく、走ってリビングを出て行ってしまった。
一瞬、涼ちゃんの横顔と目に溜まってる涙が見えた。
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