雨の日には テヅルモヅルが出るのよ
テヅルモヅルはね
子供を食べちゃう 怪物なの
だからね
雨が降ったら
子供は おうちから出ないのよ
僕たち
僕たちは
僕たち
同じ日に同じ親から産まれた
僕たち
双子
僕たち
鏡よりもそっくりよ
僕たち
と、同じ寝癖をつけた僕たちを見て
ママが笑う
ママが笑う
あたし
おかあさんが出て行って
あたし
あたしはおとうさんと
二人きりになった
二人きりになった
あたし
おとうさんはやさしい
あたしのために
何でもしてくれる
あたしのために
何でもしてくれる
あたし
おかあさんはこわい
いつも不機嫌そうに
あたしをたたく
いつも不機嫌そうに
あたしをたたく
あたし
あの夜は雨が降っていた
あたし
もしかしたら
あたし
カミナリが鳴っていたかも知れない
あたし
薄汚れた
黄色いレインコートを着た
おとうさんが
黄色いレインコートを着た
おとうさんが
あたし
帰って来るなり
あたしを強く抱きしめた
あたしを強く抱きしめた
あたし
おかあさんは出て行ったんだよ
あたし
おとうさんの手は土まみれだった
あたし
おとうさんの顔には
血が付いていた
血が付いていた
あたし
おかあさんは出て行ったんだよ
あたし
もう一度
あたし
おとうさんが言う
あたし
おとうさんはいつもやさしい
僕たち
いつからだろう
僕たち
雨を見ると
僕たち
何かを忘れているような
不安な気分になる
不安な気分になる
僕たち
低気圧のせいだよとパパが言う
僕たち
雨が打ち付けるガラス窓には
僕たち
黄色と赤い色の花の咲いた
まぼろしがうつる
まぼろしがうつる
僕たち
鏡よりもそっくりな僕たちは
僕たち
互いに泣き出しそうな目をして
カーテンに手を伸ばす
カーテンに手を伸ばす
僕たち
大切なものを
どこかに置いてきてしまったような
どこかに置いてきてしまったような
僕たち
そんな気分を抱えて
あたし
おとうさんの工事現場で
事故が起こったのも
事故が起こったのも
あたし
雨の日だった
あたし
エチゾラムの飲み過ぎによる
ギョウムジョウカシツチシ
ギョウムジョウカシツチシ
あたし
まもれなくてごめんなさいと
書かれた文字がふるえていた
書かれた文字がふるえていた
あたし
手の中で
くしゃしくゃに丸められたメモは
くしゃしくゃに丸められたメモは
あたし
本当にあたしのおとうさんの
イショだったのだろうか
イショだったのだろうか
あたし
あたしのやさしいおとうさん
あたし
死んだ子供はきっと
あたし
テヅルモヅルに食べられたんだ
僕たち
僕たちは雨の中
外に出る
外に出る
あたし
あたしのおとうさんは
ヒトゴロシじゃない
ヒトゴロシじゃない
僕たち
雨の日になくした
大切なものを探して
大切なものを探して
あたし
雨の日に遊んでいた
子供が悪いんだ
子供が悪いんだ
僕たち
黄色いレインコートを見るたび
半身をえぐり取られた痛みが襲う
半身をえぐり取られた痛みが襲う
あたし
おかあさんはもう帰って来ないんだよ
僕たち
落ちてきた鉄骨の下敷きになった
大切な僕の分身
大切な僕の分身
あたし
あたしは……
僕たち
僕は……
手の中で鈍く光る 銀色のウロコが
雨の日にはテヅルモヅルになるんだ
黄色いレインコートに残る 真っ赤な血しぶきは
きっと雨が
洗い流してくれるだろう
テヅルモヅル
クモヒトデ綱カワクモヒトデ目の テヅルモヅル亜目
その中の テヅルモヅル科の 棘皮動物の総称である
1000メートルくらいまでの 海底に棲む
了