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棺桶の中、花に囲まれた祖母を見下ろす。 白髪になった彼女を見ても、いまだに祖母だと思えないでいた。

県外に就職した僕は、遠方に住む祖母とは合わなくなった。 時折、母から祖母の近況を聞くだけで何もしていなかった。

だから、祖母の姿は昔のままで止まっていた。

いつも食べきれない量の食事を用意しては、母に呆れられる祖母。 毎月美容院で黒染めをしていると聞かされていた髪の毛。 それらが、僕の中での『祖母』だった。

涙が出ない。 祖母はどこかで自分を待っている気すらしてくる。

夢の中を、歩いているような気がしてきた。

蓋をしめる段になり、僕は何か声をかけようと思って近づいたのだが。 何もでなかった。 目の前にいるのがいまだに他人に見える。 仕方なく離れようとしたその時、祖母の右耳の一部が欠けているのが見えた。

幼い頃の傷なのだと笑っていたそれを見つけて、胸が詰まった。 やはり、祖母は死んだのだ。 僕の一部を司った祖母が。

涙がこみ上げ、僕は絞り出すようにお礼の言葉を祖母に届けた。 僕に続くように、弔問客が礼を述べていく。 その時、会場の中に強く風が吹き込んだ。 それは棺桶の中の花を揺らして、かさりかさりと音をたてた。

それがまるで祖母からの返答に思えて、僕はまた少し泣いた。

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