逃げたい。
いつからか、そう思うようになった。
別に何に追われてるでもない、ただ 「逃げたい」という感情があるだけ。
きっと今日も、俺は檻の中だ。
桃
...はあ
また今日も朝が来た。
桃
...、
体が上がらない。
何度腕に力を入れて起きあがろうと しても起き上がれず、放心状態で 天井を見つめる。
...誰も助けてくれないしな。
親は海外で仕事をしてる関係で ほとんどこの家にいないから、実質 一人暮らしみたいなもの。
そんな俺に助けなどあるわけがない。
無断欠席になるけど...まあいいや。 どうでもいい。
そう考えていると、スマホが鳴った。
桃
...もしもし
赤
桃く〜ん
桃
なんだよこんな時間に
赤
今日一緒に行こ〜よ〜
桃
無理
赤
なんで〜
赤
いいじゃん
桃
やだ
赤
ちぇ...
桃
用はそれだけか?
桃
じゃあな
赤
ちょっ、ちょっと
赤
待って待って
桃
なんだよ
赤
...元気ない?
桃
...、
桃
別に
赤
はあ...
赤
ほんっと素直じゃないんだから
桃
大丈夫だって言ってんだろ
赤
あのね〜...俺が何年君と一緒にいると思ってるんだい?
桃
二ヶ月くらいだろ
赤
ちげーわ
赤
少なくとも10年は一緒にいる
桃
だからなんだよ
赤
今から家行くからな
桃
来なくていい
赤
行く!
桃
だから...
赤
通話
05:24
桃
はあ...
切りやがったな。
来たら来たで迷惑なんだよな。
どうせ家近いからすぐ来るし。
桃
最悪...
家から出んのも面倒くさいしな...
まあいいや。
寝よ。
赤
桃く〜ん?
赤
桃く〜ん!
だんだんと近づいてくる声。
勝手に入ってくんなよ...などと 思いつつ、俺は部屋に籠る。
赤
お〜い
赤
入るよ〜
桃
...、
赤
桃く〜ん
赤
やっぱ元気ないじゃん
桃
別に...
赤
桃くんは元気がない時ベッドの上から動かない
赤
そして口数も少ない
赤
いつも綺麗な机の上は汚くなって
赤
スマホの充電もほとんどなくなってるはず...
そう言って勝手に俺の スマホを見る赤。
赤
ほら、10%
桃
...、
俺の方に向いた画面には、しっかりと “10%”と表示されていた。
赤
...どした?
赤
なんかあったんじゃない...?
そんな優しい声で話しかけないで...
もっと...怒ってよ...
なんで休んでんの、って
学校行きなよ、って
そうやって言ってよ...
桃
...ポロポロ
赤
ギュ...
赤
大丈夫
赤
言ってみて...?
桃
...、ポロ
桃
何かあったとかじゃない...ポロ
桃
逃げたいの...ポロ
赤
逃げたい...?
桃
何かに追われてるみたいで...ポロ
桃
でも...何に追われてるかはわからなくて...ポロ
桃
ただ明日が来るのが怖くて...ポロ
桃
ずっと...檻の中にいるみたい...ポロ
赤
...、ギュ
本当の気持ちを伝えると、赤は より強い力で俺を抱きしめた。
赤
...疲れちゃったんだね
赤
自分のペースで良いから
赤
もう、頑張らなくて良いから
赤
自分を追い詰めないで
赤
桃くんは一人じゃないよ
赤
ちゃんと...俺がいる
桃
...!ポロ
赤
頑張ったね
赤
俺と一緒に、檻の外、見てみよ?
桃
コク...ポロ
逃げたくても逃げられない毎日には
すぐそばに光がさしていたらしい。
赤
ふふ笑
桃
...ニコ
赤みたいな...ね。