助手席のドアに頬杖をついて
どこかで見たような風景をただ眺める
しばらくこの体勢で肘がちょっと痛い
でもなんとなく気まずい車内で
やる事といったら これくらいしかなかった
無言で後部座席を振り返ると
ユウト君が大人しくちょこんと座っている
様にも見えたけれど
やっぱり表情は強ばっていて
そわそわと少し落ち着かなそうだった
ハルナ
空気変えたい…
ハルナ
シズマ
ハルナ
シズマ
ハルナ
ハルナ
シズマ
シズマ
シズマ
ハルナ
シズマさんを例えると
〝仕事に疲れたサラリーマン〟
とか
〝よれよれのベテラン刑事〟
とかそんな感じ
ガタイも良いし
〝ワイルドおやじ〟の部類に 入る人なんだろうけれど
その表情には覇気がなく、 いつもどこか疲れている様に見えた
シズマ
ハルナ
ハルナ
シズマ
シズマ
ユウト
シズマ
シズマ
シズマ
ハルナ
シズマ
ハルナ
そこで赤信号に捕まる
シズマさんは窓を少し開けると
ポケットから出した タバコを咥えて火をつけた
ハルナ
シズマ
ハルナ
シズマ
シズマさんが気を使って 窓を開けてくれていたおかげで
タバコの煙はほとんど 外へ逃げていったけれど
鼻をかすめるように、微かに
お線香の香りがした
«数十分後»
ハルナ
ハルナ
シズマ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
シズマ
シズマ
シズマ
シズマ
シズマ
シズマ
シズマ
シズマ
ハルナ
シズマ
ハルナ
その能力私も欲しいかも
シズマ
シズマ
シズマ
ハルナ
ハルナ
2回目の〝あ〟の音を 発した直後に
車が甲高い音と共に ゆっくりと減速して止まった
シズマ
シズマ
シズマ
シズマ
ユウト
ユウト
山の中腹辺りの
ほぼU字になっている急カーブ
外灯も無い真っ暗な場所で
光るものといったら ガードレールに付いた反射板と
車のヘッドライトくらい
ガードレールを見ると
一部だけ他のものよりも 新しめの綺麗な部分がある
シズマ
シズマ
シズマ
シズマ
シズマ
ハルナ
ユウト
シズマさんはバタンとドアを閉め
左手の懐中電灯で崖下を照らし始める
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ハルナ
ハルナ
制服のポケットから
ボロボロの日記を取り出す
ユウト君から貰ったときよりも
四隅の焦げた部分が落ちてしまって だいぶ小さくなった
ハルナ
ユウト
ユウト
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ユウト
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
頭の無い両親の絵を見つめながら
微かな記憶を探ってみるけど
こういう時ほど
あまり出てこないのは なんでなんだろう
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ユウト
ハルナ
ユウト
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ユウト
ハルナ
ユウト
ユウト
ユウト
...無いとは思う
思うのだけど
その人ってもしかしたら
シズマ
シズマ
シズマ
ほぼ崖と呼べるぬかるんだ斜面を ズザザッと滑り落ちる
シズマ
シズマ
シズマ
身体に纏った木の葉を払い
ライトを照らして 周囲を180度確認する
鬱蒼とした木々の影
湿気を持った 柔らかい土と枯れ葉の層
真冬並みに冷たい風と
それに揺らめき鳴る葉の音
シズマ
なんて冗談をかましていると
一瞬にして
シャレにならない程 空気が更に重くひりついた
シズマ
もう一度、 周囲にライトを照らして回り見る
『ュ』
シズマ
『ユゆ…ゥ』
シズマ
『ゆゥ…どぉォ』
今までの木々の肌とは 明らかに異質な
ユラユラと動くものが ライトに照らされる
シズマ
シズマ
それは笑っているのだろうか
歯茎までを剥き出しにして
坊主の名前の様にも聞こえる
言葉にならない声を上げ
まるで芯のない身体を 大きく左右に揺らしながら
ゆっくりとこちらに迫ってくる
シズマ
〝意志の喪失による悪霊化〟
シズマ
シズマ
スーツを捲り 左脇のホルダーから
使い馴染んだ ボロい拳銃を引き抜く
〝二十六年式拳銃〟
〝これは人を救う為に───〟
確かそう言われて 渡されたこの拳銃は
いつからか
霊を殺すための 道具に成り果ててしまった
シズマ
シズマ
両手で構えて
ゆっくりと引き金に 人差し指を当てる
何度も使ってきたこの銃も
この引き金も
目の前の霊の魂も
軽いと思ったことは
一度もない
そう思えることが
俺のただ一つの
救いでもあった
«to be continued»
コメント
7件
表現の仕方が良き!
ホラーもあるし、切ない感じがとても良きです!
この詩的な文章が すごく好きです