〝ドンッ〟
から始まる3回目の破裂音が
黒く連なる山々の影に 反響し合いながら
夜空に馴染むよう また静かに消えていく
つい、
エンジンのかかった車の窓から 空を見上げたけれど
これほど光源のない山中なのに 星一つ見られなかった
私は
何か
嫌な予感がした
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ハルナ
ユウト
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ユウト
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ハルナ
ユウト
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ユウト
ユウト
ユウト
数十分前にシズマさんに 言われたような台詞を吐いて
バタンと外に出る
辺りは勿論真っ暗だけど
改めて見上げた夜空は 薄く青みがかっていて
思いのほか明るい
どちらかといえば
目の前の森の影の方が 黒くて暗くて
なんだか底の知れない 湖にも見えた
ハルナ
ハルナ
肺の空気がなくなるまで 大声で叫んでみる
シズマさんの返事は 無かったけれど
代わりに密な木々の隙間から
強いライトの光が 不規則に漏れだした
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
私のこの脳みそで 悩んでも
結局答えなんて出ないのだから
先に行かないと
ガードレールに乗り出す様に 下を覗き込む
坂は急で高さもかなりあるし
何より暗くて底が見えない
ハルナ
ハルナ
U字カーブを駆け足で 少し降りていくと
高低差もまだマシになってくる
私は程度を見て
ガードレールを ぴょんと飛び越えて
そのまま滑るように 坂を下っていく
ハルナ
ハルナ
でも坂の最後の最後で
ハルナ
顔から突っ込む様に 思いっきり転んだ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
何か変な声出たし
ハルナ
顔の埃を払いながら
のろのろと立ち上がる
砂でゴロゴロした目を
ゆっくり
開けると
目の前に鳥居が立っていた
まるで
〝初めからそこにありました〟
そんな、 何食わぬ顔をする様に
ハルナ
ハルナ
少なくとも
坂の上から見た時はなかったはず
結界を成した 鳥居の紙垂と注連縄は
腐った様にボロボロで
その左右には
破断面に湿り気のある 首なし地蔵が立ち並んだ
心做しか
中央の石畳には どす黒い血溜まりらしきものが
奥へ引き摺られていく様に べっとりとこびり付いている
これだけ、それほど、
古くない
ハルナ
無意識に後退りしてしまう
そのままゆっくり振り返ると
千本鳥居の中に居た
ハルナ
ハルナ
下ってきた坂は消えていた
所々、 紅殻の剥がれた朱色の鳥居が
ただただ延々と続いていき
先は黒点に見える程 終わりがない
その不自然な果てのなさに 思わず鳥肌が立った
ハルナ
15mm程度の隙間から見えた 鳥居の外には
荒い肌をした木々が密集している
どうやっても逃げられない
それに外には
多分〝何かいる〟
読経のような
男性の抑揚と感情を殺した 一定間隔の低い発声
それが四方から聞こえてくる
人語なのだろうけれど 認識出来ない
夢現(ゆめうつつ)に 流れてゆく言葉にも似ていた
ハルナ
ハルナ
ハルナ
〝理解してはいけない〟
そんな気がした
正面を向いて
制服のポケットの中で 日記の切れ端をキュッとつまむ
すごく脆くなっているのは 百も承知だったけれど
正気を保つには これが一番だった
ハルナ
どちらが前かも分からない 道の先を睨みながら
ゆっくりと歩み出す
歩みを進める毎に
読経の声が増えていく
声の若い子供から
生気のない 低くか細い女性
深みはあるけれど 嗄(しゃが)れた年寄りの高い声
私はそれに負けまいと
茶色のローファーを踏み締める
カツカツ…
…コツコツ
血の着いた地面から
小気味の良い音がする
周りの音は聞きたくないから
なるべく靴音に意識して 歩いていたら
延々と続いていくかと思えた 鳥居の道が
突然途絶えた
目の前にはぽつんと 広場のような空間があって
その更に先には
おやしろの様なものに囲われた 小さな洞窟がある
入り口は錆びた鉄のチェーンと 古びた木板で塞がれていて
右横には葉書サイズの木札に 墨で何か書かれていた
ハルナ
『知らぬ地に 郷愁に耽る』
『さほどに恋焦がるとも 既に失へるなり』
『思ひ絶えよ』
『その消えぬ望郷が』
『君の根源に 活力なるならめど』
『やがてみづからを狂はせむ』
『わびしきことなれど』
『畏きも 象るも』
『常に人の心なり』
『なれば悪しきことは言はず』
『この地に踏みな入りそ』
ハルナ
ハルナ
どういう意味かは よく分からなかったけれど
この文章からは
どこか諦めと、 強い拒絶を感じた
私が車から出ていった時
確かに間違いなく夜だった
辺りは暗い森ではあったけれど
夕暮れ時の様に 空は綺麗な山吹色をしていて
耳を澄ませば
木々の葉擦れの音と共に
ひぐらしが切なく鳴いていた
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
懐かしいような
悲しいような
怨めしいような
落ち着くような
そんな気持ちが無理矢理
ぐちゃぐちゃに 掻き混ぜられた様で
頭がどうにか なってしまいそうだった
ハルナ
ハルナ
意識が朦朧とする
足がどうしてか勝手に 前へ進んだ
言うことを聞かない
洞窟に
引き寄せられる
鳴り止まない
ひぐらしが
頭いっぱいに
こだまする
どうしても
どうやっても
洞窟の先に
行きたかった
この
じゃまな
板を
引き
はがさなきゃ
«to be continued»
コメント
7件
最初の方なんか面白い
最終電車ニ揺ラレテルさん ありがとうございます!( ;∀;) 私も最終電車さんの作品大好きです!いつも完成度が高過ぎる… 今後ともよろしくお願いします!
遅くなって申し訳ないですがフォローありがとうございます(*ˊᗜˋ) OUSERさんの作品大好きなのでフォロバさせていただきました🤭 いつも楽しみにしてます!頑張ってください(*´˘`*)♥