始業式当日。
手越くんが、私に、
手越
って挨拶してくれた。
手越くん……まだ少し胸が痛むけど、 手越くんは愛未ちゃんと幸せそう。
手越くんが、幸せそうでよかった。
今は心からそう思える。
やっぱり手越くんはキラキラ眩しくて、 笑顔がとても可愛くて。 私がすきになったのは、 そんな手越くんだった。 大好きでした……。
自然と口角が上がった時、 背後から突き刺さる視線を感じて振り返った。
思わず私の胸が高鳴ったのは、 貴久が真剣な顔でこっちを見ていたから。
昨日のお礼を言わなくちゃ!
そう思って近寄ろうとすると貴久はあからさまに私を避けて教室を出ていってしまった。
え…?
昨日は普通だったのに……。
もう私とは話したくないってこと?
って…当然か。
自分のした事を私だって忘れた訳では無い。
避けられる理由だって嫌ってほど分かってる
ここ数ヶ月で心の距離は広がっていく。
もう…笑いかけてくれないんだよね?
胸が……苦しいよ。
貴久の事は好きな訳では無い。
なのに……。
どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。
新学期が始まって数週間経っても、 貴久との距離がちぢまることは無かった。
ある日………。 放課後忘れ物を取りに昇降口から教室の前に引き返した時だった。
男子
どんだけ迷惑かければ気が済むん
だよ。
そろそろいい加減にしろよ。
教室の中からそんな声が聞こえて、 ドアに伸ばした手が止まる。 もう誰もいないと思ってたのに………。
男子
エースがそんなんでどうすんだよ
とても重い空気がヒシヒシと伝わる。
この声は間違いなくクラスのバスケ部の男子。それに、エースというのは………。貴久。
増田
男子
増田
感情的なバスケ部男子と、冷静な貴久。
貴久がバスケを辞める………。
嘘、でしょ………?
貴久からでてきた信じられない言葉に心臓が激しくなる。
男子
増田
何にしてもどうでもいいんだよ。
増田
頑張るのに、俺は疲れた。
男子
これまで一緒に頑張ってきた仲間を見捨てるのかよ。
増田
俺のことは構うなよ。
男子
増田
増田
お前がチームを引っ張ってけよ。
男子
俺に言えよ。
増田
今はバスケしてても楽しいと思えないだけ。
なんで辞めるなんて言うの?
そのまま動けずにいると、 目の前のドアが開いた。 予想外の出来事に動揺してしまう。
私に気づいた貴久も動揺を隠せなくて。
ど、どうしよう………。
○○
けど……。
増田
無表情で私を見つめる貴久。
目が合うと、いつものように視線を逸らされ、私には何も語ってくれなかった。
頑張るのに疲れてしまった理由も、 バスケを辞めると決めた意味も……。
貴久は何も言わずに歩き出した。
今の私には貴久のことが何一つ分からない。
声をかけることは出来なくて、 遠ざかっていく背中を見ることしか出来ない。 取り残された私は涙を流さないように必死に堪えた。
貴久とこのまま友達でいるのは無理。
それは、私が望んだこと。
だから泣くことは間違っている…でも。
でも、我慢できないよ!!
つづく…







