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君が息き絶える日まで

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君が息き絶える日まで

1 - 君が息き絶える日まで

♥

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2018年08月28日

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この世界は

偏りのある世界で

偽りの多い世界だ

宏弥

馬鹿馬鹿しい…

理不尽で埋め尽くされた世界には

きっと僕の居場所は存在しない

宏弥

これでやっと

宏弥

君のもとへ行ける

全てを失った僕には

目に入るもの

耳に入るもの

全てが鬱陶しく思い

そして

全てが忌まわしく感じる

宏弥

結子

宏弥

今から行くね

今は亡き最愛の名を呟くと

僕の頬に冷たい涙が流れた

宏弥

さよなら地球

地球がグルグル回り始める

僕は気持ち悪くなって

そのまま目を閉じた

——————————

—————

——

暖かい陽だまりが差し込む

僕は煩わしく思い、布団を被り直した

結子

ひーろや!

結子

朝だぞー!

どこか懐かしい声

この懐かしい声をずっと

僕は求めていたのだろう

結子

ひろやー!

結子

起きろっ!

結子

起きないと

結子

こちょこちょしちゃうぞ!!

"こちょこちょ"

それは人間の皮膚表面を刺激して

くすぐったい感覚を与える技法だ

そして

僕の弱点でもある

宏弥

起きます!

結子

偉い!

結子

よっす宏弥!

結子

久しぶりだね

大人になって初めて

泣きそうになった

目の前には

死んだはずの結子がいた

僕が最も愛していた人

そして

二度と逢えないはずの人

結子

泣かないの!

結子は静かに僕を諭す

宏弥

……

宏弥

結子……

宏弥

逢いたかった

僕は結子を強く抱き締めた

結子

泣いたら

結子

お別れだって

結子

神様が言ってたの

結子の言う事は

少しも理解できなかった

宏弥

お別れ?

結子

そう

結子

だから泣いちゃダメ

けれど本能的に泣いてはいけない事を

僕はいつしか悟っていた

「泣いたらお別れ」

死人と会う禁忌の

その代償として

僕たちはそんな魔法に

あるいはある種の呪いに

掛けられているのかもしれない

宏弥

分かった

結子

偉い!

結子

さすが宏弥!

結子はニコニコしながら

僕の頭を撫でた

僕はたまならくなって

また泣きそうになった

結子

そうだ

僕の頭を撫で終えると

結子はムスッとした表情を浮かべた

結子

あなた自殺したでしょ?

ああ……そうだった……

結子に夢中で忘れていた

僕は世界を愛せなかった

結子しか愛せなかった

だから自殺したのだ

結子

昔から宏弥は

結子

無理してばっかり

今度は結子が泣きそうになる

結子

でも

結子

今回のは

結子

私のせいだよね…

"そんな事ないよ"と言いたかったけど

僕は言葉が出なかった

結子

ごめんね

結子

宏弥より先に死んじゃって……

結子

ずっと宏弥に謝りたかった

結子

ごめんなさい

結子はごめんなさいと

もう一度言った

結子は交通事故で死んだ

車の運転中に

突然飛び出してきた子を

避けようとしたら

スピードを出していた対向車と

衝突してしまったのだ

死傷者3人の大きな事故だ

……怖かったよね?

慰めたかったけど

結子にはその事故の事を

思い出させたくなかった

というよりも

自殺した僕には

結子を慰める資格なんてなかった

宏弥

俺こそごめん

宏弥

自殺して

結子

ほんとだよ!

結子

すっごく

結子

すっごく

結子

心配したんだからね!

今にも泣きそうな顔で

結子は僕に訴える

結子

宏弥

結子

一人にさせて

結子

ごめんね

そんな結子を見て

もう一度泣きそうになって

それを誤魔化すために

結子を優しく抱きしめた

言葉なんて要らない

ただ柔らかい温もりと

重なる鼓動が

とても愛おしかった

しばらくして

結子は僕に

この世界の事について話してくれた

美味しいご飯と

自由に遊べる場所と

美しい景色と…

この世界は色々とあるみたいだ

結子

でも

結子

色々あっても

結子

ずっと一人ぼっち

その結子の声は

今にも消えそうだった

結子

ねぇ

結子

宏弥に見せたい景色があるの

結子

一緒に行こ?

僕が良いよと答える間も無く

結子は僕の手を握って

走り出した

今の僕と結子は

青春の真っ只中に

いた

そんな気分だった

——————————

結子

着いたよ!!

結子

見てみて!

宏弥

……!!

言葉にならない程

綺麗で

美しくて

儚い景色だった

結子

私のお気に入りの場所だよ!

結子

宏弥にずっと見せたかったの!

ここは昼と夜の区別が無いみたいだ

太陽と月と雲と星と

その下に広がる

灰色の植物

そして紫色の水面

小さく輝いているのは

生き物だろうか?

地球には無い景色だ

宏弥

やばい……

宏弥

めっちゃ綺麗

結子

でしょ!?

結子は満足気に鼻を高くする

結子

良かった!

結子

宏弥も気に入ってくれて!

結子はさざめく芝生の上に

身体を投げ込んだ

僕はそんな結子の隣に座って

目まぐるしい景色の一部になる

結子

ねぇ宏弥

結子は僕に云う

結子

ずーっと

結子

一緒にいたいな

結子

宏弥と

この景色と結子は

今にも壊れそうで

抱きしめたら

バラバラになりそうで

僕はそんな恐怖で体が震えた

何故だろうか

"また結子と会えなくなってしまったら"

そんな事を考えているのだろうか

わからない

分からないけれど

今は結子の手を繋ぐことしかできない

宏弥

結子……

僕の声は掠れていた

喉が渇いているのか

それとも恐怖に怯えているのか

わからない……

結子

ねぇ

結子

私が居ない世界は

結子

どうだった?

結子は結子らしくない言葉を紡ぐ

結子のいない世界は

僕の居ない世界だ

宏弥

寂しかった

宏弥

結子

宏弥

ここでずっと

宏弥

一緒にいよう

宏弥

ここで

宏弥

結婚しよう

宏弥

そして

宏弥

このままずっと

結子

うん……

結子

ありがとう!

結子の声は泣いていた

結子

宏弥は

結子

死んだ私の事も

結子

愛してくれていたんだね

宏弥

うん

宏弥

だから

宏弥

泣かないで

結子の目から

一粒の雫が伝った

結子

ううん

結子

無理だよ

結子

ごめん

結子

嬉しくて

結子は声を上げて泣いた

結子

私は宏弥に

結子

ありがとうって

結子

言いたかったんだ

泣きながら

しゃくりあげながら

結子は僕に愛を伝える

結子

心から愛してくれてありがとうって

結子

幸せな時間をありがとうって

結子

愛してるよ宏弥

結子

今もこれからも!

"嫌だよ"

"まだ別れたくないよ"

宏弥

俺も……

宏弥

結子と出会えて

宏弥

本当に良かった

宏弥

だから……

"ずっとここで"

"一緒に居ようよ"

結子

ダメだよ

結子

宏弥……

その瞬間

結子の周りに

煌びやかな光が取り巻いた

結子

宏弥はまだ

結子

生きてるんだよ

結子

落ちた先が柔らかい土だったから

結子

助かったんだよ

何故だろうか

まだ生きていると聞いて

安心している自分が居る

このままだと結子と

別れてしまうのに……

あれ……?

光っているのは

結子じゃなくて

僕の方……?

宏弥

待って!

宏弥

結子!!

結子

宏弥

結子

これから本当に本当に大変だと思うけど

結子

私の分まで生きて!

結子

私は仕方なかった

結子

でも宏弥は違う!

結子

宏弥はまだ生きていられるから

結子

だからしっかり生きて!!

宏弥

無理だよ!!

宏弥

結子のいない世界なんて……!!

弱音を吐く

こんな弱虫な所

結子にしか見せられない

結子

そうかな?

結子は意地悪そうに言う

涙を流しながら

結子

私は結構いいと思うよ?

結子

あっちの世界も

結子

だって

結子

宏弥と巡り会わせてくれた世界なんだから!

"悪いことだけの世界ではないよ"

結子は僕に

そんな事を伝えたかったのだろうか

結子

バイバイ宏弥!

結子

元気でね!

結子

次会うときは

結子

君が息き絶える日まで!

僕が息き絶える日まで……

さよなら

宏弥

愛してる結子!

結子

……!?

結子

うん

結子

私も!!

景色が崩れ始める

粉々に散っていく

僕は気持ち悪くなって

そのまま目を閉じた

—————

——————————

病院のベッドで寝ていた

ひらひらと揺れるカーテンと

外に浮かぶ一本の桜の木

宏弥

生きてる?

宏弥

僕は……

少しだけ

絶望したけど

少しだけ

嬉しく思った

宏弥

先に泣いたのは

宏弥

僕の方だったの?

僕の涙を見て

結子は"別れ"を悲しんだのだろうか

今となっては

分からない

宏弥

土の上に落ちたか

地球が助けてくれた

こんなどうしようもない僕を

そう考えると

この世界も

宏弥

案外

宏弥

悪くないかもな

宏弥

結子

小さくため息を吐いた

これからの生活は

とんでもなく多忙で

とんでもなく疲れるだろう

そんな世界に

途方にくれた僕は

ちょっとだけ楽しみになって

ゆるりと流れる時間に

身を任せた

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