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この世界は
偏りのある世界で
偽りの多い世界だ
宏弥
理不尽で埋め尽くされた世界には
きっと僕の居場所は存在しない
宏弥
宏弥
全てを失った僕には
目に入るもの
耳に入るもの
全てが鬱陶しく思い
そして
全てが忌まわしく感じる
宏弥
宏弥
今は亡き最愛の名を呟くと
僕の頬に冷たい涙が流れた
宏弥
地球がグルグル回り始める
僕は気持ち悪くなって
そのまま目を閉じた
——————————
—————
——
暖かい陽だまりが差し込む
僕は煩わしく思い、布団を被り直した
結子
結子
どこか懐かしい声
この懐かしい声をずっと
僕は求めていたのだろう
結子
結子
結子
結子
"こちょこちょ"
それは人間の皮膚表面を刺激して
くすぐったい感覚を与える技法だ
そして
僕の弱点でもある
宏弥
結子
結子
結子
大人になって初めて
泣きそうになった
目の前には
死んだはずの結子がいた
僕が最も愛していた人
そして
二度と逢えないはずの人
結子
結子は静かに僕を諭す
宏弥
宏弥
宏弥
僕は結子を強く抱き締めた
結子
結子
結子
結子の言う事は
少しも理解できなかった
宏弥
結子
結子
けれど本能的に泣いてはいけない事を
僕はいつしか悟っていた
「泣いたらお別れ」
死人と会う禁忌の
その代償として
僕たちはそんな魔法に
あるいはある種の呪いに
掛けられているのかもしれない
宏弥
結子
結子
結子はニコニコしながら
僕の頭を撫でた
僕はたまならくなって
また泣きそうになった
結子
僕の頭を撫で終えると
結子はムスッとした表情を浮かべた
結子
ああ……そうだった……
結子に夢中で忘れていた
僕は世界を愛せなかった
結子しか愛せなかった
だから自殺したのだ
結子
結子
今度は結子が泣きそうになる
結子
結子
結子
"そんな事ないよ"と言いたかったけど
僕は言葉が出なかった
結子
結子
結子
結子
結子はごめんなさいと
もう一度言った
結子は交通事故で死んだ
車の運転中に
突然飛び出してきた子を
避けようとしたら
スピードを出していた対向車と
衝突してしまったのだ
死傷者3人の大きな事故だ
……怖かったよね?
慰めたかったけど
結子にはその事故の事を
思い出させたくなかった
というよりも
自殺した僕には
結子を慰める資格なんてなかった
宏弥
宏弥
結子
結子
結子
結子
今にも泣きそうな顔で
結子は僕に訴える
結子
結子
結子
そんな結子を見て
もう一度泣きそうになって
それを誤魔化すために
結子を優しく抱きしめた
言葉なんて要らない
ただ柔らかい温もりと
重なる鼓動が
とても愛おしかった
しばらくして
結子は僕に
この世界の事について話してくれた
美味しいご飯と
自由に遊べる場所と
美しい景色と…
この世界は色々とあるみたいだ
結子
結子
結子
その結子の声は
今にも消えそうだった
結子
結子
結子
僕が良いよと答える間も無く
結子は僕の手を握って
走り出した
今の僕と結子は
青春の真っ只中に
いた
そんな気分だった
——————————
結子
結子
宏弥
言葉にならない程
綺麗で
美しくて
儚い景色だった
結子
結子
ここは昼と夜の区別が無いみたいだ
太陽と月と雲と星と
その下に広がる
灰色の植物
そして紫色の水面
小さく輝いているのは
生き物だろうか?
地球には無い景色だ
宏弥
宏弥
結子
結子は満足気に鼻を高くする
結子
結子
結子はさざめく芝生の上に
身体を投げ込んだ
僕はそんな結子の隣に座って
目まぐるしい景色の一部になる
結子
結子は僕に云う
結子
結子
結子
この景色と結子は
今にも壊れそうで
抱きしめたら
バラバラになりそうで
僕はそんな恐怖で体が震えた
何故だろうか
"また結子と会えなくなってしまったら"
そんな事を考えているのだろうか
わからない
分からないけれど
今は結子の手を繋ぐことしかできない
宏弥
僕の声は掠れていた
喉が渇いているのか
それとも恐怖に怯えているのか
わからない……
結子
結子
結子
結子は結子らしくない言葉を紡ぐ
結子のいない世界は
僕の居ない世界だ
宏弥
宏弥
宏弥
宏弥
宏弥
宏弥
宏弥
宏弥
結子
結子
結子の声は泣いていた
結子
結子
結子
宏弥
宏弥
宏弥
結子の目から
一粒の雫が伝った
結子
結子
結子
結子
結子は声を上げて泣いた
結子
結子
結子
泣きながら
しゃくりあげながら
結子は僕に愛を伝える
結子
結子
結子
結子
"嫌だよ"
"まだ別れたくないよ"
宏弥
宏弥
宏弥
宏弥
"ずっとここで"
"一緒に居ようよ"
結子
結子
その瞬間
結子の周りに
煌びやかな光が取り巻いた
結子
結子
結子
結子
何故だろうか
まだ生きていると聞いて
安心している自分が居る
このままだと結子と
別れてしまうのに……
あれ……?
光っているのは
結子じゃなくて
僕の方……?
宏弥
宏弥
結子
結子
結子
結子
結子
結子
結子
宏弥
宏弥
弱音を吐く
こんな弱虫な所
結子にしか見せられない
結子
結子は意地悪そうに言う
涙を流しながら
結子
結子
結子
結子
"悪いことだけの世界ではないよ"
結子は僕に
そんな事を伝えたかったのだろうか
結子
結子
結子
結子
僕が息き絶える日まで……
さよなら
宏弥
結子
結子
結子
景色が崩れ始める
粉々に散っていく
僕は気持ち悪くなって
そのまま目を閉じた
—
—————
——————————
病院のベッドで寝ていた
ひらひらと揺れるカーテンと
外に浮かぶ一本の桜の木
宏弥
宏弥
少しだけ
絶望したけど
少しだけ
嬉しく思った
宏弥
宏弥
僕の涙を見て
結子は"別れ"を悲しんだのだろうか
今となっては
分からない
宏弥
地球が助けてくれた
こんなどうしようもない僕を
そう考えると
この世界も
宏弥
宏弥
宏弥
小さくため息を吐いた
これからの生活は
とんでもなく多忙で
とんでもなく疲れるだろう
そんな世界に
途方にくれた僕は
ちょっとだけ楽しみになって
ゆるりと流れる時間に
身を任せた