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31
柳
結は黙った
意味がわからない
結
思わず声が出る
柳は少し驚いた顔をした
柳
変だ、ものすごく変だ
結
結は低く言う
結
柳は少し考えた
そして
柳
結
即答した
結が目を丸くする
柳はカルテを閉じる
柳
結
柳
結は黙り込んだ
名前
そんなもの
もうずっと呼ばれていない
6歳の頃
母が呼んでいた気がする
優しい声だった気がする
でも。
思い出せない
結
柳が首を傾げる
柳
結
本当だった
10年
誰も呼ばない名前なんて
忘れてしまう
柳の表情が少しだけ曇った
柳
結は視線を逸らす
変な空気だった
どうしてそんな顔をするんだ
どうして。
そんなことで悲しそうにするんだ
沈黙。
その時
コンコン、と扉が叩かれた
別の研究員だ
実験者2
柳
実験者2
柳は受け取る。
研究員は結を見る。
まるで物を見るような目立った
結
実験者2
個体。
結の耳が伏せられる
聞き慣れた言葉
いつものこと。
なのに。
柳は少しだけ眉をひそめた
柳
研究員が怪訝そうな顔をする
実験者2
柳は静かに言った
柳
結
部屋は静まり返る
結も固まった
研究員は呆れたように肩をすくめる
実験者2
そう言って去っていった
扉が閉まる
静寂
結は柳を見る。
柳はいつも通り笑っていた
柳
結
柳
結は何も言えなかった
だって。
今まで誰も。
自分を"彼"なんて呼ばなかったから。
結
ぽつりと呟く
柳は笑った
柳
その日。
結は10年ぶりに、
自分の名前を思い出そうとした
コメント
1件
うわあ、この第2話、めちゃくちゃ響きました……。「個体」と言い放つ研究員と「彼です」と返す柳先生の対比、鮮烈すぎます。結くんがどれだけ“物”として扱われてきたかが一瞬で伝わってきて、胸がぎゅっとなりました。そして名前を忘れてしまったという告白——10年も呼ばれなければそうなるよね、って納得できるのがまた切ない。柳先生がどうしてそこまで結くんを“人間”として見ようとするのか、まだ謎ですが、それが逆に気になります。続きが待ち遠しいです!