作者
足元には雑然と放置された血塗れた包丁
テレビから流れる笑い声
横たわって小刻みに痙攣している彼
先に声が出せないようにしておいて良かったと改めて感じた。
ゆっくりと換気扇を消した。
キュ、キュ、と彼が頑張って呼吸しようとしている音もいじらしく可愛かった。
腹からも喉からも溢れ出すものが私の靴下に染みていくが、生憎黒だから見えないのが残念で仕方がなかった。
手が震えてるのはきっと高揚感から。
私の息が乱れてるのもきっと興奮から。
私は大丈夫。
取り返しのつかない事なんてした認識無いもの。
全て私のせいであり私のおかげ。
貴方に責任転換するほど私は出来ない女じゃ無いよ。
責任持ってあげる。
ちゃんと。
でも、あの子との関係は責任持てないけどごめんね?
いいじゃん、1人恋人が居れば十分でしよ?
愛の証明という名の作業を始めた。
彼の一部を身体から引き剥がしていく。
彼から聞こえる音は繋がりを切る音しか聞こえなくなってしまった。
しかし私の耳には彼の私に対する愛の言葉が溢れている。
それと同時に彼の怯えた最後の言葉も反復している。
きっと私も彼もこんなこと望んではいなかったはず、
もっと最前の策はあったのだろうが、考えることが面倒くさい私はいとも簡単に彼を亡き者にした。
医者にでもなったかのような手つきで血管を切っていくが、実際はただの荒らし
ようやく見えた求めていた一番重要な臓器は既に動いておらず、彼の生を表すものはもう何も残ってはいなかった。
生臭い匂いが辺りに充満していたが、今や私の鼻には華美な匂いにしか思えず、思わず鼻を近づけて匂いをかぐ。
うん。
やっぱりいい匂い。
と、再度確認してから床に大きな赤い手形をつけて立ち上がる。
周りを見ると荒れたカーペットや倒れたコップ
殆どは赤に染まっていたがやっぱり私の靴下が黒だったからあまり分からなかった。
彼の一部をボールに入れて、更に水を入れる。
適度に沈む臓器を見て無意識に目を細める。
まるで今からケーキを焼く少女のような嬉しさが染み出た顔で私はボールを冷凍庫に入れた。
一段落つき眠くなってきた私はストーブが付いていることをちらりと確認して、べチャリと彼の横に寝そべる。
彼の液体が私を包み込み、もはやこの状況は彼が私を抱きしめているという事では?
と思考が高揚する。
昔読んだ物語で、お姫様が王子にお休みのキスをすると読んだことがあったので、
最後は定番のお休みのキスをする事にした。
開いていた彼の目を閉じ、冷たく青白くなったその唇に口付けをする。
これが本当に最後だと思うと、心残りはあったが、彼の固くなってきた手を握り
永遠のおやすみをした。
