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叶多
僕は母さんと二人暮らしで、 今日もいつも通り学校から帰ってきた。
叶多
いつも出迎えてくれるはずの母さんがいない。
リビングへ行くと物が散乱していて、 まるで強盗が入ったかのような有様だった。
叶多
しばらく固まっていると、 机に何か刻まれてあるのを見つけた。
その文字は明らかに日本語ではない。 というか、見たこともない言語だ。
叶多
スマホの翻訳機能を使っても、文字化けして役に立たない。 でも、この文字にはきっと意味があるはずだ。
僕は言語学者だった父さんの書斎に駆け込み、 片っ端から本を漁った。 古代文字からデジタル言語まで、 どれを見てもあの文字とは違うものだった。
叶多
それは昔読んだオカルト雑誌だった。 そして気になる記事を見つける。
叶多
内容はほぼ都市伝説に近いものだったけど、 魔法使いの用語一覧を見た時、僕ははっとした。
叶多
僕は早速、机の文字と照らし合わせる。
『命は満月の夜とともに消える』
『救いたければ石の示す場所へ来い』
辺りを探すと、小さな石のついたネックレスが落ちていた。
叶多
母さんが今危険な状況にあるということはわかった。 だけど、どうすればいいんだろう。
雑誌の記事には続きがあった。
叶多
こんなのは嘘に決まっている。この世界に魔法なんてあるわけない。 きっとこの文字も、頭のおかしい愉快犯が書いたに違いない。
でも、他に方法も見つからず、 住所を頼りに『魔法の師範』を訪ねてみることにした。
田舎町の山奥、行き着いたのは木造のぼろ小屋だった。
叶多
扉を叩いて呼びかけても返事がない。 やっぱりデマだったんだと諦めて帰ろうとした時、 ゆっくりと扉が開き、中から強風が吹いてきた。
僕の少し伸びた硬い黒髪が激しく乱れる。 メガネが飛ばされないように、 途中で外してポケットに突っ込んだ。
しばらく強風に耐えて目を開けると、 そこには三十代ぐらいの、 清潔感のない長髪の男が立っていた。
???
叶多
男はその言葉に驚いた表情をした後、 僕の首元のネックレスを見て目を見開いた。
???
叶多
次の満月は一ヶ月後、一刻の猶予もない。
???
僕は、母さんが誰かに誘拐されたこと、 部屋が荒らされていて魔法使いの文字が残されていたこと、 石の示す場所に母さんがいることなど、 家に帰ってからのことを細かく説明した。
???
僕の話を聞いて、男はぶつぶつと何か言っている。
叶多
家からここまで、ずっと石を様子を観察していたけど、 ただの石にしか見えない。
???
魔力? それは人間が得られるものなのか。
叶多
???
叶多
僕の名前『叶多』は、母さんがつけてくれた特別なものだ。
???
叶多
男はにやりと笑う。
???
これから一体、どうなるのだろう。
???
渡されたのは手のひらサイズの黒光りの石。 持ってみると、それは徐々に赤く光だした。
叶多
???
いきなりのことすぎて、理解が追いつかない。
???
今度は新品のマッチを渡された。 どういうことだろう。
???
叶多
何も説明がない。 母さんが危険だっていうのに、あの人は何なんだ。
僕はこの日から部屋に篭り、色んな考えを巡らせた。
部屋を出るのは食事の時だけだ。
叶多
僕はもう、母さんのことしか考えられなくなった。
母さん、無事だよね?
僕が絶対に助けに行くから。
もう少し、もう少しだけ待ってて。
絶対、絶対、絶対……。
助けに行くんだ……!
心に何かが灯った。
叶多
その瞬間、マッチに火がついた。
???
僕の声を聞きつけたあの人が部屋に入ってきた。
叶多
どうしてこんなことが起きたのか、僕はすぐに説明を求めた。
???
僕はまだ完全には理解できなかった。
???
男は僕の首元のネックレスを指差した。
叶多
石は真っ直ぐ光を放っていた。
???
叶多
僕は希望が見えたことで、男に信頼を抱き始めていた。
???
渡されたのは顔ぐらいの大きさのランプだった。
???
叶多
師範
また同じように、師範は僕をほったらかし、 直接何かを教えてくれることはなかった。
叶多
師範
火をつけるたびまた別のものを渡される。 それは徐々に大きくなっていった。
そして、ある日突然言われた。
師範
師範は魔法について何も話してくれなかった。
最後に渡されたのは湿ったマッチ。 それに火が付いたのは、満月の夜の前日だった。
叶多
師範
詳しいことは何も話してくれなかった師範。 でも僕は、確実に強くなった気がする。
僕は一人で石の示す場所へと向かった。
その場所は、僕が父さんとよく行った洞窟だった。
叶多
洞窟の最深部に二つの人影が見えた。
叶多
一人は母さんで、もう一人は……。
叶多
あり得ない、父さんはもうこの世には……。
父
叶多
父
母さんは父さんの隣でぼーっと立っている。
叶多
父
おかしい。母さんの様子も、父さんの口ぶりも。
叶多
父
いきなり怒鳴るなんて、父さんらしくない。
父
師範
後ろからの声に振り向くと、そこには師範がいた。
父
師範
叶多
師範
僕は大きく頷き、母さんの元へ駆けつける。
叶多
揺さぶっても反応がない。 目がうつろで、感情というものが欠如しているようだ。
叶多
僕の心の灯火が、小さくなっていくのを感じる。
僕がしっかりしていれば、僕が強ければ。
僕が、全部悪い。
だから母さんはこんなことに。
母さんがいなくなったら、僕はもう。
僕の生きている意味なんて……。
師範
師範の叫び声が僕の耳を貫いた。
師範
おかしくなった父さんを魔法で抑えながら、僕に語りかける。
叶多
師範
師範の言っていることはずっとわからないけど、やるしかない。
叶多
僕はそっと、母さんを炎で包んだ。
叶多
その炎は人肌のような温かさで、 数十秒後に自然と消えていった。
母
叶多
僕は泣きながら母さんに抱きついた。
母
叶多
母さんは何も覚えていないようだった。 辺りを見回すと、父さんと師範の姿はなかった。
あれから一週間、僕と母さんは平穏な日々を送っている。
父さんは依然見つからず、師範のぼろ小屋はもぬけの殻だった。 ただ、小屋の扉に僕宛ての一通の手紙が貼り付けられていた。
手紙
封筒の中にメモが何枚か入っていた。 それは、父さんの日記の一部だった。
私は魔法の存在を知った時から、その研究に没頭した。
そして、ついに永遠の命を手に入れられる魔法を習得した。
これで研究を続けられる、家族とも一緒に。
だが妻は、受け入れてくれなかった。
仕方ないが、強行手段だ。
叶多は頭がいいから、うまくここに誘導しよう。
叶多
メモを全て読み終わった後、 師範の手紙には続きがあることに気がついた。
手紙
師範は結局、大事なことは何も言ってくれなかったな。
あれから魔法は使っていない。使う気もない。 ただもう一度、師範に会えたなら……。
師範
魔法使いを目指してみようと思う。