#12
まゆか
まゆか
康二は少し悲しい顔をして
"そっか"とだけ呟いた。
まゆか
まゆか
康二は、あ、と言って鞄の中を探り、
1枚の紙を私に見せた。
向井康二
向井康二
向井康二
向井康二
ニコニコの笑顔でそう言われる。
康二が眩しくて、羨ましい。
まゆか
まゆか
そう言って立ち上がる私の腕を掴み
静止させようとした康二の手を振り解く
振り返った時に、一瞬見えた康二は
今にも泣きそうな目をしていた。
行けるわけないでしょ。
聴こえないんだから。
ごめん。私最低だ。
嫌なことがあったからって
康二に冷たく当たってしまう。
康二の歌ってる姿、見たいし、聞きたい。
康二の声を鮮明に聞きたい。
好きになって、こんな思いして、
あんな風に傷つけてしまうくらいなら
関わらない方がいい。
これ以上辛くなる前に。
傷が浅いうちに。
大丈夫、まだ一緒に居るようになって、
2ヶ月半しか経ってないから、
戻れる。1人に戻れる。
ぬる部室に行かなくなってから早2週間
週に1回同じ授業も始業ギリギリに教室へ入り後ろの方に座る。
最初は沢山来ていた連絡も、
無視しているうちにだんだんと減っていった。
広い高校ですれ違うこともない私たち。
康二と会うことも、話すことも出来ない、。
私が望んでした事なのに
心にジメジメとカビが生えてくるかのように、
やる事なす事全て嫌になる。
数分前まで青空だった空も今は
バケツをひっくり返したかのように大雨になっていた。
たまたま持っていた折り畳み傘を広げる。
勢いの強い雨は早くも水たまりを作っていた。
雨がスニーカーに染み込み、冷たい。
ふと前を見ると、心理学部の校舎前の銅像に
もたれ掛かる人がいた。
こんな大雨なのに傘もささずに。
目が合い息が止まる。
康二、、だ
寒がりの康二がポケットに手を入れて
寒そうに肩を上げていた。
私に気が付くと、遠慮がちに会釈をした。
急いで駆け寄り傘に入れる。
まゆか
まゆか
ずぶ濡れで震えた康二にタオルを掛ける。
康二は傘をさす私の手に
自分の手を重ねてきた。
雨で冷えて冷たい大きな手。
眉をひそめ目を赤くして、
泣きそうな顔をして
向井康二
向井康二
向井康二
真剣な康二の瞳に
もう自分に嘘は付けなかった。
まゆか
まゆか
まゆか
喉の奥から擦り出した自分の思い。
傘から落ちる雨粒の様に
涙かポロポロとひとり零れる。
真っ直ぐに見つめる康二の目が
優しく笑う。
私の大好きな三日月の様な目
私の手を握っていない方の手を
私の頬に伝う涙を拭う。
不器用そうに少し震えた手。
ひんやりとしていて気持ちい。
ちゃんと触れたのは初めてだった。
私の手を握る康二の手は
次第に温かくなっていく。
触れたところから、心が満たされていく感覚がした。
好き。私康二が好き。
止めようと、気持ちを閉じ込めようとしていたけど
康二を想う度
どんどん好きが溢れ出す。
想うだけなら許されるかな。
自分に甘い私はそう思った。
言えないけど、想わせて、
康二の手に私の手を重ねる
私の体温を康二に移す。
じんわりと温かくなっていく。
康二があ、という顔をして
傘の外を見る。
向井康二
傘を下げ空を見る。
通り雨だったのか、青々とした空が帰ってきた。
康二に視線を戻すと柔らかく微笑んでいた。
向井康二
私を見たままそう言って
目線は空を見上げる。
頷き、一緒に空を見上げる。
あの分厚い雲は、次の町を洗おうと去っていった。
コメント
8件
めっちゃいい話😍😍 、、、思ったけど、耳聞こえない人ってこんなにハキハキ話せないよw 自分の声が聞こえないから、、、😥
💙100くだちゃいなー()
うわ好き(は) 傘誘うと思いました(え)