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理玖視点
捜査本部には、少し重たい空気が漂っていた
この数日間、睡眠時間を削って捜査にあたる者も多く、焦りと苛立ちがうっすらと積もっている。 だがその夜、空気は明らかに質を変えた。
一台のPCがピン、と通知音を立てる。 担当者が画面を見ると、それは差出人不明のメール。 添付されたファイルは「動画」だった。
そのファイルを開く直前に、 理玖が部屋に入ってきた。
理玖
警察
その言葉に、一瞬、場の空気が凍る。 数人が思わず顔を見合わせた。
理玖は無言で椅子に座り、モニターの正面に位置を取る。
理玖
静かな願いだった。
担当者がクリックする。 映像が再生されるまでの数秒が、異様に長く感じられた。
──画面が開く。
荒く画質を落とされた映像の中。 そこには、変わらずコンクリート打ちっぱなしの薄暗い部屋。
晋はその真ん中で、両腕を縛られ、床に膝をついていた。
顔は青あざと腫れで歪んでいる。 肩が不自然な角度に傾いていた。
理玖
映像の向こうで、かすかに〇〇が息を吸う音。 その瞬間、“バシッ!!”
鋭い、乾いた音が響く。
そして、晋の悲鳴。
「っああ"ッ!!」
ついさっきまで静かだった空間が、一気に緊張の沼に沈む。
誘拐犯の怒鳴り声。晋の悲鳴。殴る音。 頬を叩かれる音と、背中に蹴りが入る音と、鈍い“ドスッ”という音。
それらが、全部くっきりと収録されていた。
その場にいた捜査員たちは誰一人、呼吸すらしなかった。 ただ一点、画面に映る晋の声と音に耳を奪われていた。
「やだ……やだ、っりく……っ……助け、て……いたい、やだぁ……っ」
涙でぐちゃぐちゃになりながら、それでも“理玖”と名を呼ぶ声。 誰よりも苦しんでいるはずのその人が、それでも理玖の名前を口にしていた。
そして、次の瞬間。
「バキッ」
嫌な音がした。 骨が、折れる音だった。
晋の体が大きく仰け反り、口が開き、喉の奥から悲鳴が絞り出された。
「あ"あ、あぁぁぁ"ッ!!!!」
その声に、理玖の目が大きく見開かれる。 肩で呼吸をしながら、拳を膝の上に強く押しつけ、全身が震えていた。
周囲の捜査員たちは、皆、目を逸らすか、歯を食いしばっていた。 中には、拳を握ったまま、映像を止めるよう訴えそうになる者もいた。
だが理玖だけは、視線を逸らさなかった。
理玖
低く、でも明確な願い。 その声に、誰も逆らえなかった。
画面の中では、暴行が続いていた。 足を踏みつけられ、顔を蹴られ、髪を掴まれ、晋が呻きながら理玖の名を呼び続ける。
動画が終わったのは、7分38秒後だった。
画面が真っ黒になった瞬間、誰もすぐには言葉を発せなかった。
沈黙の中、理玖がゆっくりと席を立つ。 彼の目は、涙を堪えていた。 けれど、堪えきれない何かがその声に宿っていた。
理玖
その一言に、誰も言葉を返せなかった。
彼はゆっくりと呼吸を整え、司令班の方に向き直る。
理玖
理玖
理玖
警察
理玖
理玖
警察
理玖は震える手を、意識的に握りしめた。
そしてもう一度、自分の中に刻み込むように呟いた。
理玖
それは祈りではなかった。 決意だった。
彼にとって、これは救出じゃない。 これは――命を、取り戻す戦いだ。
2025.08.06 公開
1535文字、60タップ お疲れ様でした