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鯨
開けられた窓から生温い風が入ってくる。
今日は天気が良いから、 と看護師さんに開けられた窓。
この白い部屋に居れば天気なんて 関係ないのに。
それでも見上げた窓の外は いつもよりも少しだけ解像度が高い木々が揺れているだけだった。
ふいに、病室のドアが開く音がした。
それと同時に窓のカーテンが舞い上がる。
ぬるぬるとした風が 頬を掠めた。
振り返ると、手に紙袋を持ったあにき。
実家が隣で、兄弟のように育ってきた 2つ上の幼馴染。
俺の両親が死んでも、 俺が癌になっても、
ずっと、変わらず俺の隣にいてくれた。
あにきが椅子に座り、俺もベッドに座り、 他愛もない話をする。
それが、休日の日常。
日常。
日常。
あにきが、 働けない俺の為に働いてくれている事。
癌の治療費を、出してくれている事。
あにきが頑張って働いている平日の昼間、 俺はずっとここで寝ている事。
ここ最近、 あにきがちょっと痩せてる事。
それを尋ねると笑顔でこう返される事。
そして、俺が強く聞けない事。
日常。
日常。
分からない。
たかが幼馴染に、大金を出して。
居場所を作って。
無力過ぎる自分が、嫌になる。
銀行に残る、親の遺産と、 俺が働いていた頃に貯めていた貯金。
治療費は、そこから出せる。
なのに、あにきは何も言わずに 自分の口座を開けた。
「あの金は、りうらが元気になってから、好きな事に使いや、」
「せっかくおじさんとおばさんが遺してくれたんやから。」
そう言われた時、 自分の小ささを恨んだ。
いつまで経っても、 俺は一人では何も出来ない。
ただ彼に甘えて、縋って、 今日もゆったり生きている。
一度俺の頭をくしゃりと撫で、 ドアへ向かうあにきの後ろ姿を見て、 毎度のように漠然と思う。
俺、さっさと死ねば良いのに。