アイ
あの、カズコさん
アイ
ちょっと聞きたいことがあるんですけど
カズコ
あら?私に?
カズコ
どうかしたかしら?
アイ
あの、気のせいだったら申し分けないんですが、
アイ
今朝、私の家の前のゴミ袋の中を漁ってませんでしたか?
カズコ
私が!?
カズコ
何言ってるのよ~
カズコ
そんなこと、するはずないでしょ
アイ
そうですか
アイ
そうですよね、しませんよね、そんなこと...
アイ
カズコさんが袋を触っているところを見た、っていう人がいて、その人から聞いたので
アイ
一応聞いておこうかな、と思ったんです
アイ
すみませんでした、疑ってしまって...
カズコ
いいえ~いいのよ
カズコ
この学区、狭い学区だしお互い困った時は助け合う方が、
カズコ
アイさん、越してきてまだそこまで日は立っていないし、
カズコ
周りに近所のことをよく知る人がいる方が、安心でしょ?
アイ
そうですね、すごく安心します
カズコ
そうでしょ?だから、困った時は私になんでも相談してちょうだいね
カズコ
私は長いこと、ここで生活してるから、色々知っているわ
カズコ
仲良くやっていきましょうね
~2日後~
アイ
こんにちは、カズコさん
カズコ
おはよう、アイさん
アイ
あの、またゴミ出しのことで質問があるんです
アイ
今日の朝、私が出したごみ箱、漁ってましたよね?
アイ
今度は私、自分の目でしっかりと見たんです
カズコ
何言ってるのよ!
カズコ
家庭の出したごみ袋漁るなんて、何のためにやる必要があるわけ?
アイ
ゴミ袋の中から出した化粧水と、コスメの雑誌、取っていくのを見たんです
アイ
コスメの雑誌にはクーポンがついているんですよ
アイ
カズコさんは知らないと思いますが、私、しっかり見ていましたよ
カズコ
そんな意味の分からない目撃情報、でっち上げないでちょうだい
アイ
そんなに取っていないことを主張するなら、
アイ
今から私が家に行っても、問題ないですよね?
カズコ
私、今はスーパーに出かけていて忙しいし、
カズコ
帰ってきても家の家事で忙しいから、無理よ
アイ
じゃあ、明日はいいですか?
アイ
夜なら、カズコさん家にいますよね?
カズコ
昼間にできなかった家事を夜のうちにやるから、夜は時間ないのよ
アイ
いつもですか?いつならいいですか?
カズコ
だから、夜は基本忙しいのよ
アイ
じゃあ、カズコさんが何か他事やっている時でもいいですよ
アイ
家の中、見てもいいですか?
カズコ
あのねえ、いくらご近所さんだからといって、
カズコ
まだアイさんのこと、完全に信じているわけじゃないのよ
カズコ
そんな人のこと、簡単に家にあげられるわけないでしょ
カズコ
綱に警戒しておかないと、自分の身は守れないし
アイ
えっと、
アイ
それって私がカズコさんのものを取るんじゃないか、とか
アイ
襲ったりするんじゃないか、とか疑っている、っていることですか?
カズコ
そうよ、疑っているわよ
アイ
私、そんなこと絶対にしません
アイ
人としてそんな最低なこと、絶対にしませんよ
カズコ
だとしても、そんなの口先だけかもしれないじゃない
カズコ
人って信じて油断したすきに、何か仕掛けるものでしょ
カズコ
だいたい、アイさん、この前言ってたじゃない
カズコ
「子供の養育費を溜めなきゃいけなくて、これから貯金が大変ですって」
カズコ
お金に困っているんじゃないの?
アイ
貯金をしないといけないのは事実ですが、そんなにすごく困っているわけじゃないです
アイ
それに、困っているとしても盗むなんてそんなこと...しないですよ
カズコ
私は、信じれないわね
カズコ
人生、何が起きるか分からないもの
アイ
じゃあ、旦那さんがいる時に行くのはどうですか?
アイ
私の行動を見張る人がいればいいんですよね?
アイ
カズコさんが何か他事をしていても、旦那さんがいる時に行けば、安心だと思いません?
カズコ
うちの旦那、ふとした瞬間にボッーとすることがあるから駄目よ
カズコ
見張り人としては失格なの!
アイ
そんなに時間取りませんよ!
アイ
15分もかからないと思います
カズコ
とにかく、ダメなものはダメなの!
カズコ
諦めてちょうだいね!
~翌日の夕方~
アイ
カズコさん、ゴミ出しのことですが
カズコ
またそれ!?
カズコ
もう、いい加減しつこいわよ!
アイ
うちの子供が言うんです
アイ
「今日の朝、隣のおばちゃんが僕たちの家のゴミ、漁ってたんだって」
アイ
うちの子、ウソつくような子じゃないんです!そうなんですか?
アイ
本当のこと、教えてください
カズコ
あ~もしかしたら...
カズコ
あの時のことかしら?
アイ
はい?いつのことですか?
カズコ
今朝、アイさんの家の前で小銭を落としちゃってね~
カズコ
それで、ゴミ袋の下にもしかしたら挟まったかも?と思ってどかしてたのよ
アイ
それなら、どかすだけでいいじゃないですか
アイ
わざわざ結んだ口をほどく必要がありますか?
カズコ
なかなか見つからなかったから、口の隙間に入って中に入ったかも、って思ったの
アイ
私、口はしっかり結ぶ方なんですけど...
カズコ
でも、本当に漁ってないし、何も取ってないのよ!
カズコ
ほんと、いい加減にしてちょうだい!
カズコ
そんなありもしないこと言って、
カズコ
私をこの区から追い出そうとしてるんじゃないの!?
アイ
そんなこと、思ってないですよ
アイ
何のために、そんなことするんですか...
アイ
私のこと、邪魔だと思ってるんでしょ!?
カズコ
私が年寄りで動きもノロノロしてるから、
カズコ
駐車するのが遅くて迷惑だ、とか...
アイ
そんなこと、思ったことないですよ
アイ
それに、カズコさんはまだ40じゃないですか
アイ
若いですよ
カズコ
あなたに比べたら、年寄りでしょ
カズコ
それに、アイさん、私が駐車で何度も切り返して歩道で待っている時、
カズコ
すごく迷惑そうな顔しているもの
アイ
ですから、私、迷惑だと思ってません
アイ
でも、そんな顔に見えたならすみませんでした
カズコ
ほら!やっぱり、謝るってことは自覚があるんじゃないの
アイ
カズコさんがそう感じたなら、って言う意味です
アイ
いちいち、そんな大げさに反応しないでください
カズコ
そんな言い方、年上に向かって言うことじゃないんじゃないかしら?
アイ
もう、そんなに言うならいいですよ
アイ
この話、終わりにしましょう
カズコ
そうよね
カズコ
近所づきあいは仲良くした方が良いものね
アイ
はい
アイ
それじゃ、おやすみなさい
~2日後~
サナエ
カズコさん、おはようございます
カズコ
あ、おはようございます、サナエさん
カズコ
久しぶりですね、こうして連絡し合うのって
サナエ
そうね~
カズコ
それで、何かありましたか?
サナエ
あ、今日ね、カズコさん、素敵なデザインの鞄持っていたじゃない?
カズコ
あ~あの黒色の革製のバッグですか?
カズコ
そうなんですよ~
カズコ
最近、ちょっとおしゃれな鞄屋さんで見つけて、
カズコ
一目惚れして買っちゃったのよね~
カズコ
店員さんに最近入荷したものです、って言われて
カズコ
そんなの、買うしかないわよね~
サナエ
へえ~最近ね~
サナエ
その鞄屋さん、私も行ってみたいわ
サナエ
今度、連れて行ってくれないかしら?
サナエ
最近、カズコさんが持っていたサイズくらいの革製の鞄が欲しいと思っていたところなのよ
サナエ
その帰りに、お茶にでも行きましょうよ
カズコ
お茶は行けるんですけど、
カズコ
私、最近忘れっぽくて、お店の名前忘れちゃったのよね~
サナエ
じゃあ、レシート取ってないかしら?
サナエ
カズコさん、レシートは1週間くらいは取っておいて、
サナエ
週末にまとめて支出とか計算するんでしょ?
カズコ
そうなんだけど、その時はたまたまレシートもらうの忘れちゃって
カズコ
持ってないのよね~
カズコ
本当に最近ぼけていて...
カズコ
ダメよね~ほんと
サナエ
もう、いい加減苦しいウソつくの、やめてよ
カズコ
え?ウソなんて、私そんなこと...
サナエ
それ、アイさんの家の前のゴミ袋から出してきたやつよね?
カズコ
え?違うわよ!
カズコ
これは、本当に私が買ったのよ!
カズコ
買ったところのお店の名前は...覚えてないし、レシートも捨てちゃったけど...
カズコ
でも、本当に自分で最近買ったものなの!
サナエ
最近、って言ったわよね
サナエ
でもね、それもう今売ってないデザインなのよ
サナエ
売られてない以前に、日本で売られたことがないの
カズコ
あ~思い出した!
カズコ
これ、輸入品で、確かフランスからの輸入品なのよ
サナエ
いえ、イタリアよ
カズコ
え?
カズコ
なんで、そんなこと買ってないサナエさんが分かるんですか?
カズコ
私が買ったんですよ?
サナエ
これね、アイさんのお母様が24歳の時にイタリア旅行に行ったときに、
サナエ
記念で買ったものなんですって
サナエ
アイさんのお母さんはそのブランドがすごく好きで、そのブランドが買収される、って知った時に、
サナエ
記念で現地イタリアまで行って買ったそうよ
サナエ
ちなみに、アイさんのお母様は75歳の時にアイさんにそのバッグを譲ったらしいわ
サナエ
24歳の時に旅行に行って買ったから、今から51年前
サナエ
今年40歳のあなたが、51年前に販売終了したバッグを最近買うことができるの?
カズコ
それは、えっと...
サナエ
まあ、いくらあなたがどうこう言っても、
サナエ
アイさんの家にお母様の形見のバッグはないから、どんな言い訳も通らない状況なんだけどね
カズコ
私、そんな取るようなこと、するつもり、なかったんです
カズコ
ちょっとお試しで使ってみて、もし使い勝手がよかったら、
カズコ
アイさんにあとで譲ってもらうように言おうと思っていたところなんですよ
カズコ
だってほら、こんなにまだピカピカできれいなのに
カズコ
今の若い人って、まだ使えるものでも、すぐに新しい流行に飛びつくわよね~
カズコ
ほんと、もったいないと思わない?
サナエ
アイさんは、あなたがゴミ袋を漁っているところを証明したくて、
サナエ
おとりでその鞄をゴミとして出したそうよ
サナエ
え?おとり?
サナエ
アイさんから数日前に、相談があったの
サナエ
あなたがゴミを漁っている、って
サナエ
どうしてもあなたが認めてくれないから、彼女から仕掛けたらしいわ
サナエ
「カズコさんが好きそうな鞄をわざとゴミに出して、取るところを見てほしいですって」
カズコ
え?そんな...
カズコ
本当に、最初はちょっと手に取ってみてみたいな~くらいの気持ちだったのよ
サナエ
まだ認めないの?あなた、アイさんお言う通り、見事に引っかかったのね
サナエ
私ね最初は心配で、アイさんの作戦には反対だったの
サナエ
「形見なんてそんな大事なもの、本当にゴミに持っていかれたらどうするのって」
サナエ
でも彼女は、「どうしても謝らせたいと言ってね」
サナエ
私にお願いしてきたのよ、「協力してくれませんか?って」
カズコ
すみませんでした...
サナエ
それ、私に言うことじゃないでしょ
サナエ
謝る相手を考えなさい
カズコ
はい...
サナエ
それと、これからは絶対に人の家のゴミ袋の中は漁らないこと!
サナエ
人として、最低なことした、っていう自覚持ちなさいよね!
~後日談~
アイ
私の作戦は見事に成功し、カズコさんは今まで私のゴミ袋を漁っていたことを認めました
アイ
ゴミ袋を漁ってものを取ったこと、知らないふりをして言い逃れしようとしたことなど、
アイ
「大人げなかったと言って認めてくれました」
アイ
これからは、カズコさんとも仲良く近所づきあいをしていき、
アイ
楽しく生活を送れたらいいな、と思っています