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2話連続投稿してるので、適度な休憩をとって次のお話もお楽しみください😳 吉田くん初登場回で、柚月くんの大事な猫のビーズを破壊したシーンがありましたね。あの猫ちゃんは柚月くんの心の拠り所でした。心の拠り所を破壊された吉田くんにとっては面白くなかったんですね…。あのシーンも意味があったのです! と言うことにしましょう!(後付けなのでね) 読んでくださりありがとうございました❗
学校は好きだ。
友達もたくさんいる。今日も巨大泥団子作りに勤しんだ。楽しかった。
下着もランドセルも泥まみれで帰宅すると、母さんが思いっきり顔をしかめた。
吉田 母
吉田 響
吉田 母
母さんは苛立たし気に頭をかきむしると、オレの腕を乱暴に掴んだ。 そして引きずるようにベランダに連行する。
母さんはゴミ捨て場にゴミを放るように、ベランダにオレを放ると、目を細めてオレを見下ろした。
吉田 母
吉田 母
そして鍵もカーテンも閉められた。
それからたぶん2時間経った。空は暗くなってるし寒くなって来た。腹減った。
10月の夜風に 身を小さくしながらひたすら耐えていると、背後で鍵を開ける音がした。やっと中に入れる__
__しかし顔を覗かせたのは兄貴だった。 オレは慌てて視線を外した。
吉田 優一
オレは無視を決め込む。兄貴は嫌いだ。大っ嫌いだ。
吉田 優一
吉田 優一
吉田 優一
吉田 優一
ドアを開閉する音。楽し気な会話。車のエンジン音。
静寂。
吉田 響
吉田 響
吉田 響
吉田 響
吉田 響
___女子大生と男子中学生が交際している話 シーズン2
第6章「受験」編 第11話 吉田~
山崎 孝太
山崎 孝太
吉田 響
山崎 孝太
吉田 響
独裁者ノ過去~
吉田 響
オレには7歳上の兄がいる。
オレがミルク飲んでた時は兄貴は小学生。オレがランドセルを背負い始めたら兄貴は中学2年。 共通の話題なんかあるわけねぇ。
コンビニで切手も満足に買えない兄貴。友達が少ない兄貴。 __でも勉強は「ちょっと」出来た兄貴。
物心ついた時から気づいてた。 両親が気にかけてるのは兄貴だけだって。
泥まみれで遊び回る、勉強は全然出来ない年の離れた弟のオレは、あの家では厄介者なんだって。
だから献立もテレビ番組も兄貴優先。「兄貴の邪魔をするな」ってベランダに出される。オレを置いて外食も旅行も行く。
嫌な思いはたくさんした。でもそれは家の中だけだ。学校に行ったら友達はたくさんいる。
だからオレは……吉田 響は可哀想な人間じゃない。 ___その時はまだそう思っていた。
お湯の沸いたヤカンのような音で目が覚めた。
それが人間の、兄貴の声だと気づくのに少し時間がかかった。
__小学2年の冬の朝。兄貴は中学3年。 第一志望の、蒼陽高校合格発表の日だ。
いつもならあと2時間は寝ているが好奇心の方が勝った。 オレは そろそろと階下に降りた。
奇声はリビングからする。リビングの扉をそっと開けるとマグカップが飛んで来た。
足元でマグカップが砕け散る。オレは破片を踏まないように気をつけながら、隙間からリビングの様子を窺った。
う そ つ き い い ぃ ぃ ぃ
耳をつんざくような叫び声。 兄貴が涙を流しながら手当たり次第物を投げつけていた。
吉田 優一
吉田 優一
吉田 母
吉田 優一
リビングの扉が勢い良く開く。 母さんと父さんが兄貴の背中を擦りながら出てきた。
吉田 母
そして兄貴達はオレの方を見向きもせず「確かめに」行った。オレの朝飯はどうするんだ。
吉田 響
____1人残されたオレは 大きく息を吸い込むと
腹の底から声を出した。
吉田 響
吉田 響
飛び跳ねた。跳ね回った。
兄貴は蒼陽高校に落ちた。一番の進学校に届く学力を持っていなかった。 ……やっと証明される。
兄貴はテンサイなんかじゃないって。 運動もコミュ力も駄目。唯一の切り札の学力も今日この日…
ざまぁ見ろくそ兄貴。散々オレを見下しやがって。お前は凡人なんだよ!いや凡人以下だお前なんか。
……これで母さんも父さんも気づくはずだ。 オレのことも…褒めてくれるはずだ。
オレの好きな物も食卓に並べてくれる。外食にも旅行にも連れてってくれる。
それだけの想像で涙が滲んだ。
でも何も変わらなかった。
どっかの高校に二次募集で入って、絵に描いたような転落人生送ってんのに
両親は兄貴を否定しなかった。枕詞に「昔は」がついて兄貴の全部を肯定して……オレの全部を否定した。
テンサイだテンサイだと褒めそやした人間が凡人以下だって、自分達は子育てに失敗したんだって 両親は認めたくねぇんだ。だから兄貴も付け上がる。
絶望……いや失望した。
オレはいつか絶対にこの家を出て行ってやる。 大成してこの糞どもを見返してやる。
……そう思ってたつもりだけど、実際はその真逆を欲していたんだなって 実感したのは小学4年の時だ。
小学4年の……担任の先生は好きだった。
「吉田 優一の弟なのに」「どうしてお前は」 ずっと言われ続けて来た定型文を、あの人は1度も言わなかった。「吉田 響」としてオレを見てくれたし褒めてくれた。
あの時もそうだ。 ___オレの通ってた小学校は4年になると、そこそこ大きなイベントがあった。
空き箱やら何やらを使った工作展覧会だけど、全国規模で開催されるから毎年結構盛り上がる。
オレもその1人だった。 外で遊び回るのと同じくらい、オレは工作が好きだった。誰も構ってくれない家ん中でも楽しめるしな。
1学期の図工の時間で仕上げた作品を夏休みの間に教師が審査して、まずクラス代表を決める。
小4の担任の先生はそのクラス代表に オレを選んだ。
向上心をどうたらで、その程度の事でも賞状を与える方針だったけど、 色ペンで手書きで描いたヤツだったけど、
オレは嬉しかった。 賞状を貰ったのも、まともに褒められたのもあの時が初めてだったから。
この後 校長とかPTAとかも審査に加わって、学校代表を決める。そこも通過したら市の展覧会、そんで全国の展覧会に飾られる。
本来なら学校が厳重に管理するけど、オレは無理を言って作品を自宅に持ち帰った。
オレの栄光を、どうしても両親に見せたかった。 兄貴の過去の功績じゃない、今のオレの成功を見て欲しかった。
吉田 響
吉田 母
吉田 響
母さんの眉がピクリと反応した。 ___しかし肩で息を1つ吐くと、すぐに踵を返した。
吉田 母
吉田 響
吉田 響
吉田 響
吉田 母
悲鳴のような、甲高い声が鼓膜を叩いた。 それはあの日の兄貴の金切り声によく似ていた。
母さんはわざとらしく こめかみを押さえると、頭を振った。
吉田 母
吉田 響
吉田 母
吉田 優一
兄貴がしたり顔で降りて来た。 何が集中切れただ。今日も学校サボったくせに。
___オレは 目クソも涎(よだれ)もこびりついてる馬鹿面に、貰って来た賞状を突き付けた。
吉田 響
「選ばれた」「表彰」。今の兄貴に無い言葉。 一瞬だけど兄貴の顔は歪み、黄ばんだ歯がむき出しになった。
……ざまぁ見ろ。こんな奴より絶対オレの方がスゴい。
吉田 優一
兄貴は無理矢理 笑みを貼り付かせると、壊れた人形のようにぎこちない動きで
眼前の賞状を縦に引き裂いた。
吉田 響
吉田 優一
初めて貰った賞状は、一瞬で紙片と化した。
ダンクシュートみたいに兄貴がそれをゴミ箱に突っ込む。耳障りな笑声。
……頭を撫でて欲しいとまでは言わない。1言でいい。「すごいね」と言って欲しかった___
___ただそれだけなのに、この糞馬鹿がいつも邪魔をする。
気づけば兄貴に掴みかかっていた。
吉田 響
バシッ
体が浮いた。右頬が痛い。
オレの腕を掴んで無理矢理振り向かせた母さんは、「その姿勢」のまま ヒステリックに叫んだ。
吉田 母
吉田 母
吉田 響
吉田 母
みっともない涙声だ。こいつらの前では泣かないと決めてたのに。
しかしどれだけ歯をくいしばっても、涙は次々にこぼれ落ちる。 決壊したダムみたいだ。
吉田 優一
兄貴は外国人みたいに大袈裟に肩を竦めると____ 弓のように目を細めながらオレの作品を指さした。
吉田 優一
吉田 優一
ハサミの刃先が工作物にあてがわれた。 そこは一番苦労した……____
吉田 響
吉田 優一
兄貴の馬鹿にしたような声が落ちて来る。 オレは両手で
ハサミの刃を握っていた。手のひらから手首にかけて熱が弾け、紅い筋が流れる。
それでも離さなかった。目尻に再び涙が溜まった。
吉田 響
吉田 響
吉田 優一
出来ない人に勉強を教えるような、 「普通の」兄と弟のやり取りのような、 兄貴の声は酷く優しかった。
吉田 母
吉田 響
違う。嘲笑混じりの憐れみだと気づいた時
首が飛んだ。
クラス代表に選ばれたオレの作品。 とある一戸建て住宅の、とある「幸せそうな」家族を再現したオレの作品。
リビングの片隅にある観葉植物は緑のモールを使って表現した。 オレが放り出される寒々しいベランダは灰色の絵の具を使って表現した。
___ここでは差別なんかされない。オレの好物も食卓に並ぶし外食も旅行も連れてってくれる。 _すごいね、と言ってくれる。
涙をこらえてばかりのオレだけど、いつかはこの「幸せな家族」の一員になれるはずだ。
オレもこの家に必要とされてるはずだ。 そう信じて作った、この家での唯一の心の支えだった、
「勉強はあまり得意じゃないけど外で遊ぶのが大好きな弟」の紙人形の
首が飛んだ。
紙人形が「幸せな家」から弾き出される。
否定。拒絶。
いらない? 排他 一員じゃない? 無価値? 資格も無い?無い 無い 無い 無い
オレは必要無い?
吉田 響
それが自分の声なのかよくわからなかった。
次々と オレの心の支えが瓦解していく。否定されていく。
吉田 響
否定されたく無い。信じていたい。 この家に、オレは必要とされてるはずだ。
バキッ
吉田 響
糞人間でも相手は17歳の男だ。10歳のガキが敵うはずもなかった。
修復不可能なほど破壊された「幸せな家」の前で、どれだけの時間座り込んでいただろう。
吉田 優一
秒針の音も何もかも耳に入って来ないのに、兄貴の声だけは頭の内側にまで反響する。 出し尽くしたと思っていた涙が再び溢れた。
吉田 優一
吉田 優一
耳を塞いだ。それ以上は聞きたくない。 それでも兄貴の声はすり抜けて来る。鼓膜から全身へ暴れ回る。
吉田 優一
吉田 優一
やめて。やめて。 涙がボタボタと零れ落ちる。
吉田 優一
吉田 響は可哀想な人間
オレは理解した。
自分の、「響」って名前は能動的な意味じゃない。響き渡るような人間になれ、とかそんな意味は込められて無い。
響かせるのは兄貴の栄光。受け身的な「響」。引き立て役としての「響」。
名前は親からの最初のプレゼント、ってよく言ったモンだよな。
_____あの家にオレの居場所は無い。 いや家に限った話じゃない。
「弟は失敗作」 小学生の時、周りの大人が影でそう笑ってた。好きだったあの担任も、「クラス代表やっぱやめる」って精一杯の演技を見破ってくれなかった。
それはオレが「吉田 響」だからだ。「吉田 響は可哀想な人間」だと思ってるからだ。
だからオレは「吉田」に為(な)る。
そして「吉田」で成(な)る。
兄貴が勝者でオレが敗者、とか歪みきった糞みたいな概念を正してやる。
そうしたら証明できる。 過去の栄光にすがって威張り散らす兄貴よりオレの方が優れてるってな。
……一年の最初の授業参観の時……センセーにはちょっと話したよな。
…母さんが参観に来た。母さんがオレの学校行事に顔を出すのは めったにないから驚いた。
井戸端会議の為に来たみたいな感じだけど、それでも嬉しかった。 ___席は名簿順でオレは廊下側の一番後ろだったから、
母さんの声は全部聞こえた。 「うちの子はあの席で…」他の親が順番に自分の子供を紹介して、さりげなく自慢する。
オレの母さんは何て言ってくれるだろう。吉田 響じゃないオレを…………
「皆さん素敵なお子様をお持ちで羨ましいわ」
紹介すらしなかった。
目の前にいるのにな。 鼻の奥がツンとして、こんな奴の為にまだ一喜一憂してる自分に驚いた。
我慢出来なくて教室を出た。3時間目と4時間目の休み時間。 廊下に出ると、柚月とその親がいた。
馬鹿みたいに「蒼陽高校」とか「東大学」を連呼する親と、それが当然みたいに頷く柚月____と目があった瞬間
頭の中で「吉田 響」の泣き声が轟いた。
あの家に否定された、10歳の時のあの出来事が頭の中で上映される。
飛び散る紙片も、泣き声も鮮明に思い出されるのは
柚月が兄貴に似てたからだ。
蒼陽高校を志望する所も、親の言いなりになってんのも、トロくてコミュ症な所も、兄貴にそっくりで
世間はそう言う奴を擁護する。オレを攻撃する。 身をもって体験したことだ。
あぁまた同じ事の繰り返しか。あの家みたいに、学校でもオレは否定されるのか
______そう絶望したのは、最初だけだ。分かるよな?
山崎 孝太
山崎 孝太
吉田 響
吉田 響
山崎 孝太
山崎 孝太
吉田 響
山崎 孝太
吉田 響
山崎 孝太
吉田 響
吉田 響
吉田 響
吉田 響
吉田 響