青柳家とは、
神代家に老中として代々仕えている名家である。
もちろん神代家からの信頼は厚く、青柳家は神代家への忠誠を誓うように教育される。
類
ん〜、これどうかなぁ。
類
ねぇ、冬弥くんはどう思う?
冬弥
税を減らして欲しい…ですか?
冬弥
そうですね…今年は特に不作でも無かったはずなので、そのままでいいと思います。
類
そっか〜。じゃ、そうしようかな。
老中は、将軍に口出しできる唯一の役職だ。
こうして、話し合いで堂々の意見できるのも、老中の特権である。
類
…冬弥くんはさ、他の家に仕えたいとか思わないのかい?
冬弥
…はい?
冬弥
そんな事思ったことありませんが。私の主は類様だけです。
類
ふふっ、流石だねぇ
類
僕も、老中は冬弥くんがいいよ。
冬弥
それは光栄ですね。
類
ねぇねぇ。君もさ、婚約の話来てたんだろう?
冬弥
あぁ…そうですね。
類
なんで断ったんだい?中々綺麗な姫様だったじゃないか。
冬弥
それは…えっと、単純に馬が合わなかっただけです。
類
へぇ、そうかい。
類
…僕は、父さんから最悪養子をとればいいって言われてるから無理に結婚しなくてもいいんだけどさ、
類
君のところは厳しいんじゃないのかい?
冬弥
……
冬弥
そう…ですね。必ず婚約させられると思います。
類
うーん…僕は出来るだけ君の意思を尊重したいんだよ。
類
それで、君がこの歳になるまで頑なに婚約しないのは…何か理由があるんじゃないのかい?
類
例えば、他に好きな人がいるとかさ。
冬弥
好きな…?
類
そうそう。いるんじゃないの?
冬弥
……
類
おや。沈黙ということは肯定でいいのかな?
冬弥
ち、違います!
類
えー!!君に好きな人?だれだれ??どこかの町娘さんとか!?
冬弥
だ、だから違いますって!
類
君ってお豆腐屋の娘さんとよく話してるよねぇ。もしかしてあの子かい?!
冬弥
人の話を聞いてください、類様…
類
おっと、ごめんね。
冬弥
全く…別に、町娘でも豆腐屋の娘でもありません。
類
じゃあ別の人…?どこかの姫様とか?
類
あ、案外この屋敷の人とか?
冬弥
…
冬弥
詮索しないで下さい。いませんから。
類
あー!今の怪しい!へぇ〜、この御屋敷にいるんだ〜
冬弥
もう!違いますってば!
類
ふふっ、君にも好きな人がねぇ〜
類
僕には教えてくれてもいいんじゃない?ねぇ?
冬弥
絶っ対に言いません。
類
ということはいるんだね。
冬弥
……
冬弥
……言いません。
類
え〜、気になるなぁ〜〜
冬弥
それより、早く仕事の続きしますよ。
類
あ〜、話逸らした〜
冬弥
仕事してください。
類
はーい。
類
んー!終わった〜
冬弥
お疲れ様でした。
類
うん、手伝ってくれてありがとう。
冬弥
いえ、仕事ですから。
類
…ねぇねぇ、それでさ。さっきの事なんだけど、
冬弥
…さっきとは?
類
君の好きな人の話♪
冬弥
忘れてください
類
ふふ、無理だよ。気になるもん
冬弥
気にしないでください。
類
え〜!僕には教えてくれてもいいじゃないか〜
冬弥
嫌です。
類
えぇ〜〜!
類
う〜ん、相手が誰でも僕は応援するよ?
類
君が好きになった人なら、きっと素敵な人なんだろうからさ。
冬弥
…
類
あぁ、でも、少し寂しい気はするけどね。
類
君が恋かぁ〜。ふふ、今夜は彰人くんに頼んで赤飯にする?
冬弥
絶っ対にやめて下さい
冬弥
…私は別の仕事があるので、失礼します。
類
あっ、待ってよ〜
類
ううん…流石にしつこく聞きすぎたかな?
司
あぁ、鬱陶しかったな。
類
わ?!つ、司くん…酷くない?
司
事実だ。
類
でもでも…君だって、妹さんが好きな人出来たって言ったら、あれくらい聞くだろう?
司
………………………
司
咲希に…………好きな、人…………?
司
昔はお兄ちゃんと結婚するって言ってたあの咲希が…………???
類
おーい、司くーん?
司
………………
司
咲希と結婚したければオレを倒してからにしろ………っ
類
わぁ、すごい飛躍してる。
類
ただの例え話だよ。相変わらずシスコンだね。
司
そういうお前はブラコンだな。
類
主に向かって失礼だね。
類
でも、冬弥くんも昔は僕の事が1番好きって言ってくれてたんだよ?
類
今は…そういう感じじゃないけど。
司
そうか?
類
えぇ?そうでしょ。
司
…そうか。
絶対に言えない
言いたくない
言ってはいけない
冬弥
(本当に……酷い方だ)
冬弥
(こっちの気も知らないで…)
冬弥
…絶対に言えない。
冬弥
(何年片想いしてきたと思ってるんだ。その度に、ちゃんと押し殺して来たのに…)
冬弥
…危うく、口が滑ってしまう所だった、
貴方の事が好きだなんて
冬弥
………ごめんなさい、
冬弥
失礼します。
類
あっ、やっと来た。
冬弥
遅れてしまい、申し訳ありません。何かご用ですか?
類
うん。今日一緒に寝ようよ。
冬弥
お断りします。
類
即答?!
冬弥
もちろんです。主と寝るだなんて出来ません。
類
えー!恋バナしようよ〜〜
冬弥
やっぱりそれが目的ですか…
類
だって、ここはお兄ちゃんとしてちゃんと知っておきたいじゃないか。
冬弥
お兄ちゃんって…別に、血は繋がってないでしょう。
類
そんな悲しいこと言わないでおくれよ。
類
僕はずっと君のこと、可愛い弟だと思ってるのにさ。
冬弥
……
冬弥
俺は…今でも貴方の弟なんですか?
類
え?
類
えっと…うん。弟のように可愛く思ってるよ。もしかして、嫌だったかい?
冬弥
嫌…というか、
冬弥
その…いつまでも子供扱いされるのは…あまり、嬉しくありません、
冬弥
一応、もう十分大人ですし、類様にも何本か勝てるくらいには強くなりました。
冬弥
(それなのに…貴方は、一生俺の事を弟としか見てくれないんですか…?)
類
君のことを子供だとは思っていないよ。
冬弥
…でも、弟みたいって、子供扱いじゃないですか?
類
それは…多分僕の接し方が悪かったね。
類
君のことは弟みたいに特別な存在だと思ってる。この屋敷に身寄りがいない僕にとっては、唯一の家族だよ。
冬弥
(特別な存在…家族…)
冬弥
(少なくとも、一生男としては見られないんだろうな、)
冬弥
(でも…この方にとって特別な存在であれるなら、これ以上望むことはないか、)
類
ね、一緒に寝ようよ。
冬弥
お断りします。
類
む…
類
司くーん!
司
なんだ。
類
冬弥くんを布団まで引きずり込んでくれ
冬弥
?!
司
はぁ?職権乱用過ぎるだろ
類
司くんの主人も冬弥くんの主人も僕だからいいんです〜
司
…冬弥。
冬弥
いや…えっと、司様?いくら類様の命令でもそれはちょっと…
司
すまんな。オレも気が引けるが、命令なものだから。
冬弥
う…
冬弥
分かりました…だけどせめて、布団はもう1枚用意してください。流石に狭いです。
類
やった〜!司くん、布団持ってきて!
司
はいはい。
類
ねぇねぇ、冬弥くん
冬弥
…何ですか?
類
なんかさ、子供の頃みたいで懐かしくない?
類
昔もこうやって、一緒にお布団入って…夜更かしして、父さんに怒られたっけ
冬弥
ああ…そんな事もありましたね。
類
ねぇ、もう昔みたいに兄様って呼んでくれないのかい?
冬弥
呼びません
類
ケチ〜
冬弥
…私だけでは不平等ですし。
類
え?
類
…ああ!そういう事ね。
類
冬弥。
冬弥
何ですか?兄様。
類
…ふふっ、いいねぇ。これからも兄様って呼んでよ。冬弥って呼ぶから。
冬弥
……お断りします。
類
あれ?ちょっと悩んだ?
冬弥
…早く寝てください。
類
え〜、恋バナは?
冬弥
執拗いですね…しませんよ。
冬弥
大体、どうしてそこまで俺の思い人が気になるんですか?
類
えー、だって大切な存在だし…何より、応援してあげたいしさ。
冬弥
余計なお世話です。
類
でもでも、この屋敷の人なんでしょ?
冬弥
そんな事は一言も言ってませんが。
類
顔に書いてるもん
類
でも大分絞れるよね。この屋敷で、君が好きそうな人…
冬弥
…
類
……………………あっ、へぇ?そういう…?
冬弥
(絶対勘違いしてる…)
類
大丈夫。君なら絶対断られないから。
冬弥
いや、誰に何をですか??
類
…彰人くんでしょ!
冬弥
は、はぁ?!
冬弥
何故そこで彰人さんが…
類
だって、若干他人に厳しい君が彰人くんにはなんか甘いもん!
冬弥
それは気のせいでしょう…
類
それに、よく2人で話してるの見かけるし。楽しそうだし!
冬弥
彰人さんは歳が同じなので、話やすいというだけです。
類
この間抱擁してるの見たし!
冬弥
あれは彰人さんが面白がってやった外国式の挨拶です。
類
…好きなんじゃないの?
冬弥
少なくとも思い人ではありません。
類
えぇ〜、そっかぁ
類
合ってると思ったんだけどなぁ
冬弥
下らないこと考えてないで、早く寝ますよ。
類
気になって寝れないよ。
類
あっ、じゃあ司くんの好きな人教えてよ。
司
?!?
冬弥
(とばっちりだ…)
類
司くんの好きな人は?
司
…おらん。
類
はい、嘘。絶対いる言い方だった!
司
うるさいぞ!早く寝ろ!
類
わっ!主に向かって横暴だよ!
司
大体不平等だろ。まずお前が言え。
類
えぇ?僕の好きな人?
類
…冬弥くんも司くんも、彰人くんも他の屋敷の子達も、みんな大好きな人だよ。
司
この浮気者め。
冬弥
何股かける気ですか
類
ちょっと!人聞きの悪いこと言わないでよ!
類
みんな好きなの。選べないくらい。
冬弥
……
司
……
司
寝ろ
冬弥
寝て下さい
類
えぇ〜〜
類
僕、今言ったじゃん!君らのも教えてよ〜
司
今の回答は割に合わんだろ
冬弥
本当に。明日も仕事ですから、早く寝て下さい。
類
う〜ん……
類
……じゃあさ、一つだけ質問させて。
類
君らの想い人は、君らのことを大事にしてくれる人だと思う?
冬弥
……はい。
司
…まぁな。
類
ふふ、そうか。
類
ならいいや。いつかその人のこと紹介してくれるの、楽しみにしてるからね。
冬弥
(そんな日は一生来ないだろうが…)
類
じゃあ、2人ともおやすみ。
冬弥
はい、おやすみなさい。
司
おやすみ。
NEXT