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─伊織先輩から貰った、ねこの編みぐるみ。

陽の光を反射して、 ボタンの目が煌めいている。

メイ

…今、何してるんだろう

…先輩がいなくなってから毎日、 その事が頭をよぎる。

あの、手紙の内容。

「幸せになる義務を、君たちに託します」。

僕らに託してしまったら、先輩はどうなるの?

幸せに、なりきれなかったの?

…そうやって、お返しを書く勇気はなかった。

メイ

どうにかして会いたいのに

メイ

…無理かな…

せめて、いそうな場所を特定できれば─

─ん? 待って、それならできるんじゃない?

思い出に残っている場所。 あの道に、パンケーキ屋さんに、駅。

あそこを巡れば、 会えるのかもしれない。

いわゆる、思い出巡りだ。

…あくまで、偶然を装って。 ふらふらしてれば会えるかも。

自分にしてはの名案に、胸が踊る。

よし、行こう。

メイ

(─たしかここも歩いたな)

メイ

(先輩に冷たくされてしょげてたっけ)

メイ

…いるわけないよね

メイ

学校のすぐ近くなんだし…

─少し値上げしてしまったが、 それでもコストパフォーマンスガン無視のパンケーキ。

…今日はいちごじゃなくって、ティラミスのやつ。

メイ

…いただきますっ

相変わらずふわふわ。歯いらない。

控えめな甘さかと思っていたそれは、 かなりこってりとしていて甘かった。

さすが、あの人は甘党さんだなあ。

メイ

…おいしい

メイ

……きみも食べる?

持ってきていた編みぐるみに目をやる。

当然、返事はなかった。

メイ

…まあ、だよね

メイ

食べちゃお

店内を見回す。

前来た時と変わらない風景の中に、 あのさらさらの黒髪は見当たらなかった。

メイ

眩しい…

メイ

ここで待ち合わせしたっけ

メイ

仕事モードじゃない先輩と…

メイ

(…暑いなあ)

メイ

(駅前のアイスでも食べに行こうかな)

メイ

(桃が入ってる、期間限定のおいしいやつ)

メイ

…行こ

─さわやかな甘さが暑さをリセットする。

まだギリギリ、桃のやつが終わってなくてよかった。 やったね。

メイ

…おいしい…

メイ

……あ

メイ

なくなっちゃった

…早食いしすぎた。 体が冷えて、過度な冷気を感じているのがわかる。

メイ

(頭がキーンと…痛い…)

メイ

えと、ごみ箱…あった

空っぽのカップと木製のスプーンを捨てる。

次はどこに行こうか。

悩みながら足を踏み出そうとすると、 黒色の物体が足元で蹲っていた。

メイ

…わ、猫だ

メイ

真っ黒…かわいい

お手入れがされているのであろう真っ黒な毛並みは、 もらった編みぐるみとそっくりだ。

メイ

お散歩?

黒猫

ナー

メイ

いいねえ

頭を撫でてあげると、 気持ちよさそうに目を閉じる。

かなり人懐っこいようだ。

メイ

猫…か

メイ

やっぱり、似てるなあ

ぼそぼそと吐く独り言は、やっぱりあの人のこと。

そんな僕を不思議そうに見つめていた彼は一つ伸びをして、 長いしっぽを揺らしながら歩き始める。

メイ

あっ

黒猫

…ナー

メイ

……?

動かない僕を急かすように鳴く彼。

─もしかして、ついて来いって言ってるの?

黒猫

ナー

彼が向かおうとしている先を見る。 …あの、路地裏だった。

思わず息をのむ。

メイ

…わかった、君についていくよ

黒猫

ナー

やっと、と言わんばかりに鳴いた彼は、 涼し気なおすまし顔で歩き始める。

後をついていく僕の手は、少し震えていた。

メイ

…このへんのはず

メイ

猫くん─

メイ

─あれ、?

辺りを見回しても、 綺麗な黒の毛並みは見当たらない。

猫って、本当に気まぐれだ。

メイ

もしかしたら、ここに先輩が…

メイ

いる、はず

メイ

少し、探してみようかな

薄暗く狭い道を、恐る恐る進む。

コンクリートの欠片が靴裏に擦れて、 ざり、と音を立てた。

その音に混じった明らかな異音と血なまぐささで、下を見る。

─先輩が、死んで、いた。

換気扇の影で、眠ったように。 その様は人形そのものだった。

腕に新しくできていた無数の切り傷。 目には泣き腫らしの跡が残っている。

カッターで喉を切って死んだのか、 生々しい傷があった。

そこかしこから零れる血は未だ地面に滲み続ける。

花が咲くみたいに、コンクリートを赤く染めていく。

ついこの前、救えたはずのあの人が。 目の前で、自殺している。

非現実的すぎる現実を突きつけられ、 目の前が真っ暗になった。

どうして助けさせてくれなかったの。 言ってくれれば、よかったのに。

何回でも何回でも、抱きしめてあげられたのに─

頭の中でぐるぐる回る思考を止めたのは、 一粒の水滴だった。

晴れているのに、弱い雨が降っている。

…涙雨、だ。

先輩が、いつかしていた話を思い出す。

メイ

…この前、先輩言ってたね

メイ

涙雨…亡くなった人の涙だって

メイ

先輩…もう…っ

メイ

今更すぎるよ…

メイ

今泣いたって…あなたのこと救えない……

メイ

強がらなくてよかったのに…

メイ

なんで…なんで……!

─伊織先輩。

僕たちのこと、最期まで振り回してさ。

急にいなくなったと思ったら、 こんなとこで、ひっそり死んでるなんて。

おかしいよ。 先輩がこんな死に方していいわけない。

先輩は必死に頑張ってきたのに。 見えない闇と戦ってきたのに。

神様は本当に、 皮肉好きで。

僕の泣き声と、あの甘い香り。 静かな雨音にそっと、溶けていく。

ほんとの終

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ああああ常連……!!

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