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─伊織先輩から貰った、ねこの編みぐるみ。
陽の光を反射して、 ボタンの目が煌めいている。
メイ
…先輩がいなくなってから毎日、 その事が頭をよぎる。
あの、手紙の内容。
「幸せになる義務を、君たちに託します」。
僕らに託してしまったら、先輩はどうなるの?
幸せに、なりきれなかったの?
…そうやって、お返しを書く勇気はなかった。
メイ
メイ
せめて、いそうな場所を特定できれば─
─ん? 待って、それならできるんじゃない?
思い出に残っている場所。 あの道に、パンケーキ屋さんに、駅。
あそこを巡れば、 会えるのかもしれない。
いわゆる、思い出巡りだ。
…あくまで、偶然を装って。 ふらふらしてれば会えるかも。
自分にしてはの名案に、胸が踊る。
よし、行こう。
メイ
メイ
メイ
メイ
─少し値上げしてしまったが、 それでもコストパフォーマンスガン無視のパンケーキ。
…今日はいちごじゃなくって、ティラミスのやつ。
メイ
相変わらずふわふわ。歯いらない。
控えめな甘さかと思っていたそれは、 かなりこってりとしていて甘かった。
さすが、あの人は甘党さんだなあ。
メイ
メイ
持ってきていた編みぐるみに目をやる。
当然、返事はなかった。
メイ
メイ
店内を見回す。
前来た時と変わらない風景の中に、 あのさらさらの黒髪は見当たらなかった。
メイ
メイ
メイ
メイ
メイ
メイ
メイ
─さわやかな甘さが暑さをリセットする。
まだギリギリ、桃のやつが終わってなくてよかった。 やったね。
メイ
メイ
メイ
…早食いしすぎた。 体が冷えて、過度な冷気を感じているのがわかる。
メイ
メイ
空っぽのカップと木製のスプーンを捨てる。
次はどこに行こうか。
悩みながら足を踏み出そうとすると、 黒色の物体が足元で蹲っていた。
メイ
メイ
お手入れがされているのであろう真っ黒な毛並みは、 もらった編みぐるみとそっくりだ。
メイ
黒猫
メイ
頭を撫でてあげると、 気持ちよさそうに目を閉じる。
かなり人懐っこいようだ。
メイ
メイ
ぼそぼそと吐く独り言は、やっぱりあの人のこと。
そんな僕を不思議そうに見つめていた彼は一つ伸びをして、 長いしっぽを揺らしながら歩き始める。
メイ
黒猫
メイ
動かない僕を急かすように鳴く彼。
─もしかして、ついて来いって言ってるの?
黒猫
彼が向かおうとしている先を見る。 …あの、路地裏だった。
思わず息をのむ。
メイ
黒猫
やっと、と言わんばかりに鳴いた彼は、 涼し気なおすまし顔で歩き始める。
後をついていく僕の手は、少し震えていた。
メイ
メイ
メイ
辺りを見回しても、 綺麗な黒の毛並みは見当たらない。
猫って、本当に気まぐれだ。
メイ
メイ
メイ
薄暗く狭い道を、恐る恐る進む。
コンクリートの欠片が靴裏に擦れて、 ざり、と音を立てた。
その音に混じった明らかな異音と血なまぐささで、下を見る。
─先輩が、死んで、いた。
換気扇の影で、眠ったように。 その様は人形そのものだった。
腕に新しくできていた無数の切り傷。 目には泣き腫らしの跡が残っている。
カッターで喉を切って死んだのか、 生々しい傷があった。
そこかしこから零れる血は未だ地面に滲み続ける。
花が咲くみたいに、コンクリートを赤く染めていく。
ついこの前、救えたはずのあの人が。 目の前で、自殺している。
非現実的すぎる現実を突きつけられ、 目の前が真っ暗になった。
どうして助けさせてくれなかったの。 言ってくれれば、よかったのに。
何回でも何回でも、抱きしめてあげられたのに─
頭の中でぐるぐる回る思考を止めたのは、 一粒の水滴だった。
晴れているのに、弱い雨が降っている。
…涙雨、だ。
先輩が、いつかしていた話を思い出す。
メイ
メイ
メイ
メイ
メイ
メイ
メイ
─伊織先輩。
僕たちのこと、最期まで振り回してさ。
急にいなくなったと思ったら、 こんなとこで、ひっそり死んでるなんて。
おかしいよ。 先輩がこんな死に方していいわけない。
先輩は必死に頑張ってきたのに。 見えない闇と戦ってきたのに。
神様は本当に、 皮肉好きで。
僕の泣き声と、あの甘い香り。 静かな雨音にそっと、溶けていく。
ほんとの終
コメント
2件
ああああ常連……!!