莉犬side
俺は、保健室に連れて行かそうとするころちゃんをなんとか押し切って、 西階段の立入禁止とはられた紙をどけ、気づけば、その奥にある階段のところまで来ていた。
さっきまでの光景を思い出しながら。
それは、ころちゃんは俺の心配もしてくれてたと同時に、さとみくんの心配もしていたことに気づいた。
狗井 莉犬
……わかってる。ころちゃんは俺なんか眼中にないなんてこと。
ころちゃんが俺に言う『好き』は、きっと俺の『好き』とは、違う。
でも………
でも、いつかは俺の気持ちに気づいてくれて、お互いの『好き』の意味が、 合う日が来るかもしれない……!!
……なんて思ってたのに、なんでなの?なんであいつなの? なんで俺じゃないの?
そして、この学校に転校してきて、一瞬で悟った。
『ころちゃんは、さとみくんのことが好き』
頭を鈍器でガツンと殴られたような衝撃だった。
でも、それでころちゃんが幸せなら……俺は、自分ところちゃんが幸せになることよりも、もっといい人を見つけて、好きな人と幸せに暮らすころちゃんでも、いいと思った。
好きだから、ずっとずっと、ころちゃんには笑顔でいてほしい。 そう思ってたのに……。
ころちゃんが好きになった相手は、男の人で2つ年上のさとみ先輩。 そこまでは問題ない。俺もころちゃんを恋愛対象として、見てしまったから。
でも、問題はその後だった。
ころちゃんは、積極的に相手に『好き』を伝える人だ。 だからこそ、さとみくんはころちゃんの『好き』を本気で、受け取ってくれていると思ってた。 思ってたのに………。
『気持ち悪い』? 『遊びだと思ってた』? ふざけるな。 あいつ、ころちゃんの気持ちも知らないで、そんなことほざきやがって………。
なにがいけない?男が男を好きになっちゃいけない法律なんてあったか?
ころちゃんは、本気でさとみくんを好いていた。本気で恋をしていたのに。
そんな、ころちゃんの気持ちを踏みにじってまで、プライドが大切か?だったら、そんなもの、クソ食らえ。
お前なんか、俺たちの前に現れるな。
今すぐ、ころちゃんと俺の記憶から消し去れ。
もし、無理なら、そこ、代わってくれよ………。そしたら、俺もころちゃんも幸せになるのに…。
なんて最低なことを思いながら、俺は、学校が閉鎖する時間ギリギリまで、そこに居たのだった。
ころんside
……言えない。言えるわけがない。僕が屋上の扉の裏にいたなんて。
莉犬くんにも、さとみ先輩にも言えない。 ちょっとお話を聞こうと思ってたのに……。
そんな困惑と同時に、辛かった。悲しかった……。苦しかった。
でも、わかってた。さとみ先輩が僕のことを好きじゃないことなんて。 ……いや、嫌いだなんてこと、最初からわかってた。
でも、僕はさとみ先輩に"僕の裏の顔"を一切見られぬよう、今まで感情を押し殺してまでここまでやってきたのに、僕への思いは一個も伝わらなかった? さとみ先輩に?うそでしょ?あんだけ気持ちを出し切ったのに?
ずっと疑問の言葉が僕の脳内をうろついていて、今、目の前にあることに集中できない。 頭がおかしくなりそうだ。
でも、まさか莉犬くんが僕に想いを寄せていただなんて……。思いもいなかった……。
……想いが伝わってないのは、さとみ先輩と同じか……。 なら、僕も屑同然。そんな称号が僕にはお似合いだよ。
蒼瀬 ころん
17歳にもなってこんな大声で泣くなんてどうかしてる。 たとえ、誰もいない場所だったとしても。
だめだよ、さとみ先輩に引かれちゃう。
百瀬 さとみ
って。
蒼瀬 ころん
そんな顔と、声のトーン、目線が、簡単に想像することができてしまったせいか、ホントに言われているような気がして、気分が悪い。 目眩が止まらない。フラフラする。気持ち悪い。
口元を何度も抑えても、止まらなく、何度も戻してしまった。
そんなとき、横から声がした。僕の大好きで、大嫌いなあの声が。
バタンッ(倒れる音)
百瀬 さとみ