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紬がこの町に来たのは、高校二年の春だった。
もともと彼女は、海から遠い大きな街で育っている。
けれど中学の終わり、母が体を壊し、療養のために祖母の住むこの町へ移り住むことになった。
祖母の家は、風鈴坂のふもとにあった。
祖母
祖母はそう言って、緑側で風に揺れる風鈴を見ていた。
紬はその言葉の意味を、当時は深く考えなかった。
母の体調は少しずつ良くなっていった。
それは嬉しいことだったけれど、同時に(別れ)が近づいている合図でもあった。
夜、窓を開けると、坂を抜ける風の音が聞こえる。
その音を聞くたび、紬の胸はざわついた。
ーここに残りたい。 ーでも、残れない。
蒼と出会ってから、その気持ちはもっと強くなった。
坂の途中で待つ時間。 並んで歩く帰り道。 何でもない一瞬が、失くしたくない宝物になっていた。
紬
あの日、蒼にそう言ったのは、
もう決まっていたから
だった。
母は回復し、元の街へ戻ることが決まっていた。
高校も、進学も、未来もーすでに用意されていた。
紬には、選ぶ余地がなかった。
だから私は想いを告げることも、約束を交わすことも、怖かった。
この坂が、(始まりの場所)になってしまったら、去るときに、きっと立ち上がれなくなると分かっていたから。
神社ないのでここが神社ってことですみません…お願いしますm(__)m By主
町を離れる前日。
紬は一人で風鈴坂を登った。
神社の前で立ち止まり、風に向かって小さく息を吐く。
紬
誰に向けた言葉だったのか、自分でも分からない。
町か、風か、それとも蒼か。
ただ一つ、確かなことがあった。
この坂で知った気持ちは、どこへ行っても消えない
ということ。
だから紬は、振り返らずに町を出た。
風は、ちゃんと覚えていてくれると信じて。