好きになって。

この世界には、男性女性の性別の他に、第二の性と呼ばれるもうひとつの性がある

DomとSub

Dominant(支配欲)という言葉のからその名を付けられたDomは名前の通り支配したい欲求が強い

対するSubはSubmissive(従順な)という言葉からつけられた名前であり、支配されたい欲求をもつ

この支配したいされたい欲求が満たされない期間が長く続くと体調不良等を引き起こすというなんとも面倒くさい性だ

最も、人口の殆どはNormal…domでもsubでもない普通の人であり、例えdomやsubなどの性を持っていたとしても日常生活に支障が出なければ問題は無いとされる

故に検査は完全任意だ。自分の第二の性なんて知らないまま一生を終える人の方が多い

かく言う俺も、まさか自分がこの第二の性にこれ程までに振り回される羽目になるとは思ってもいなかった

ピンポンピンポンと連打されるチャイムに慌てて扉を開けると騒がしいふたりが家に飛び込んできた

ポン、と俺の肩に手を乗せてニコニコ笑う初兎ちゃんと勝手知ったりという様子でズカズカと上がり込んでくるほとけっち

6人揃うとさらに騒がしくなる。…あれ？？今日会議で集まったんだよね？

もしかして俺が間違ってる？と1度考え込む。いや、合ってるわ

パンパンと手を叩いて注目を集める

いつものように大声を出そうとして、頭がズキンと痛んだ

ガタン、とテーブルに手をつくと振動でコップが倒れる

まろが慌てて零れたジュースを拭いているのが視界の隅に見えた

心配そうに尋ねてくる2人。騒がしかった3人も不安げにこちらを伺っている

そう、最近は何故か急に体調を崩すことが多々あるのだ

まろが真剣な表情で言う

なんとなくバツが悪くて目を逸らす。忙しいのは本当だけど、まあこのくらい大丈夫っしょ、と放置していたのも本当

また頭痛がして、ふらついた身体をまろが支えてくれる

予約取ったのお前じゃないだろ…というツッコミを飲み込む

はあ、とため息をつく。もう言い訳が思いつかない

両手を上げて降参のポーズをとる。5対1はずるだって…

てきぱきと役割が割り振られていくのをぽかんと眺める。なんでいつもはこうじゃないんだ…

一緒に歩き出したまろが俺の額に手を当てる

いつもはすぐ酔っ払ってダメダメになるけどこういう時だけはやっぱり歳上なんだよなぁ

俺より少し高い身長。見上げる横顔は端正で整っている

まろが開けてくれたドアから後部座席に乗り込む

全員が乗り込んだのを確認して、車がゆっくり動き出した

診察を受けた後、検査のためと言われ血液を採取され待合室で暫く待たされ漸く名前が呼ばれた

ゾロゾロと診察室まで歩いていくと、看護師さんが困ったように笑った

また引き返す5人。ここまで着いてきてもらったのに悪いな、なんて思いながら手を振って見送る

俺が椅子に座ったのを確認して医師が口を開いた

ただの風邪だと信じて疑っていなかったので、真剣な雰囲気になんだか緊張する

確か学生時代、保健体育でちょっと習った気がする、なんて記憶を探ってみる

貰ってきたパンフレットをぱら、とめくる

説明も受けたけどぶっちゃけ全然意味がわからなかった

先程先生にされた説明を分からないまま覚えている限りで繰り返す

車内が一気に騒がしくなって思わず苦笑する

はあ、とため息をつく

正直今回のことになるまでdom、subについてなんて全く知らなかったから、頭がパンクしそうだ

ふいに黙り込んでいたまろが口を開いた

さっきまで騒がしかった車内が今度は一気に静まり返る

domって…守りたい、支配したいみたいな方じゃなかった？

アニキが大声を出す。アニキの声も響くんだよなぁ

できるならそれが1番いいのかもしれない。プロの人とやらを雇わなくてすむし

セフレ…セフレねぇ…。少し考え込む

自分で自分を納得させる。俺とまろは、パートナーになるだけ

そういう意味では俺はラッキーなのかもしれない

こうして、俺とまろはパートナーになった