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春の風が、制服の裾をくすぐる。

私は駅前のベンチに座って、スマホも見ずにただ空を見ていた。

新しい季節。

あれから、ほんの少しだけ時間が経った。

学校は、何も変わっていない。

相変わらず、誰かが無理して笑ってて、誰かが目を伏せて歩いている。

私も、たぶんまだその中のひとり。

でも、少しだけ違うのはーー

もう「ぜんぶ、無理しなくてもいい」って知ってることだ。

今日も、うまく笑えなかった。

またちょっと失敗した。

誰かの視線にビクビクした。

でも、それを自分で許せるようになった。

日向

……それで、じゅうぶん

呟いた声に答えるように、ベンチの隣に誰かが腰を下ろした。

視線を向けると、そこにレイはいなかった。

もう彼女は、私の中にしかいない。

でも、代わりにいたのはーー

ランドセルを背負った小さな女の子。

多分、小学生。

見知らぬ子。

私の過去みたいに、ぎゅっと拳を握ってる。

日向

大丈夫?

と声をかけると、その子は黙ってうなずいたあと、そっとひと言つぶやいた。

小学生の女の子

泣いてもいいのかなって、思ってるとこ

私は、迷わず答えた。

日向

うん。泣いてもいいし、泣かなくてもいい。笑いたくなったら笑えばいいし、黙っててもいい

女の子は、少しだけ目を見開いて、それから小さく笑った。

その顔が、かつての時分に重なって見えた。

私も、あのときーー誰かにそう言ってもらいたかったんだろうな。

電車がホームに入ってくる音がして、女の子はぺこりと頭を下げて、ホームへと走っていった。

私はそれを見送ってから、ゆっくりと立ち上がった。

自分で選んだ道を、今日も歩いていく。

誰かの天使でも、悪魔でもない。

ただの「わたし」として。

それでいい。

それがいい。

ーFinー

デビルじゃないもん

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