シン
そこを曲がれば美術室だな
トウコ
幽霊はいるかなぁ
シン
いると思うけど
シン
うわっ
少女
きゃっ
出会い頭に少女とぶつかってしまった。
シン
(この子…)
シン
あの、大丈夫ですか
尻餅をつく少女に手を差し伸べた。
少女
ご、ごめんなさい、急いでいたので…
少女
そ、それじゃ
シン
…………
トウコ
ちょっとシン
トウコ
今、あの人のパンツ見てたでしょ
トウコ
もーエッチなんだから
シン
は?
シン
見てねえよ
トウコ
だってシン、めくれたスカートガン見してたじゃん
シン
違うっ
シン
さっき見てたのはあの子の手首だ
シン
気づかなかったか?
シン
リストカットの痕があった
トウコ
えっ、まじ?
シン
俺が見てたのはそれだけだ
トウコ
なーんだ、つまんないの
トウコ
もっとからかおうと思ったのに
シン
まったく、くだらない
シン
(まあ、ホントは…下着も少し目に入ったけど)
トウコ
あの人、誰なんだろう
トウコ
リストカットするってことは
トウコ
すごく悩んでいるってことだよね
シン
恐らく、美術部の人だろうな
トウコ
え、なんでわかるの?
トウコ
美術室のほうから来たけどさ
トウコ
それだけで判断できないでしょ
シン
大きなカバンを持ってただろ
シン
あれは画材入れだと思う
シン
だから美術部の人かなって
トウコ
そういうことかぁ
トウコ
さすがシン、よく見てるね
シン
まあな
シン
さて、幽霊に会いに行くぞ
シン
あの、そこの幽霊さん
???
えっ
???
あなた、私が見えるの?
シン
ええ、そういう体質なんで
シン
それで、幽霊さん
???
その呼び方はやめてくれない?
モエ
あたしはモエ
シン
モエさんは、噂になってる呪いの絵の人ですよね
モエ
ああ、これのことね…
モエ
まったく、人の自画像を呪いの絵だなんて
モエ
失礼にもほどがあるわ
シン
でも美術部の人たちを呪っているのは事実ですよね
モエ
まあね
トウコ
どうしてそんなことをするんですか?
モエ
私、いじめられていてさ
モエ
あの日、大切にしていた画材を全部壊されたの
モエ
死んだおじいちゃんに買ってもらった宝物なのに…
モエ
それで落ち込みながら帰っていたときね
モエ
居眠り運転の車がやってきて
モエ
避けきれずに轢かれちゃったってわけ
モエ
普段の状態なら絶対に避けられたと思う
シン
それでいじめっ子たちに復讐している、と
モエ
そういうこと
モエ
こんなふうに幽霊の状態で留まることができたから
モエ
画材を壊した奴らをストーキングして
モエ
恨みの言葉を投げ続けていったの
モエ
そうしたら、どんどん体調不良になっていってね
モエ
胸がすっとするようだったわ
シン
じゃあ、呪いの絵というのは…
モエ
絵が飾られているのは美術室でしょ
モエ
そこを利用するのは美術部員ばかり
モエ
そして私が恨んでいる人は美術部員だけ
モエ
結果的に絵から呪いが発せられているように見えるだけで
モエ
絵にはなんの力もないわ
シン
そういうことだったんですね…
トウコ
モエさんはまだ呪い続けるんですか?
モエ
最初は楽しかったけど
モエ
今はもう、虚しいって感じかな…
モエ
だからって消えることもできないし
モエ
私、どうしたらいいんだろうって…
トウコ
…………
トウコ
あっ
シン
どうした?
トウコ
ミノリが近づいてきてる…
モエ
わかるの?
トウコ
死んでも双子だし、波長が似ているんだ
トウコ
ちょっと離れてるね
モエ
その子も幽霊が見える子なの?
トウコ
あの子、あたしの存在だけは強く感じられるから
トウコ
もしかしたら姿も見えちゃうかも
トウコ
今も、なんか変な感じがするな~くらいは思ってるかもね
シン
悪いなトウコ
シン
でも、もしお前がミノリに見られたらオシマイだからな…
ミノリ
あれ、シンじゃん
ミノリ
どうして休みに学校に来てるの?
ミノリ
しかも美術室に一人でさ
シン
お前を死なせないためだバカ
ミノリ
…………
ミノリ
呪いの絵の調査ってことだね
ミノリ
何かわかった?
シン
いや、まだなにも
ミノリ
やっぱりね
ミノリ
間違いなく呪いの絵ってことだね
ミノリ
ここに来る間も、なんとなくゾクゾクしたもん
シン
早とちりするな
シン
まだ調べ尽くしてないだけだ
ミノリ
ま、いいけど
ミノリ
あたしも呪いの絵を見に来たんだ
シン
なんでだ?
ミノリ
あたしも呪ってもらおうかなって
ミノリ
さすがに殺してはくれないだろうけど
ミノリ
呪いの効果が実感できればさ
ミノリ
それが幽霊の存在証明になるから
シン
やっぱりお前は底なしのバカだな…
ミノリ
バカは死ななきゃ治らないの
シン
とにかく、まだ死ぬんじゃないぞ
シン
幽霊とか呪いとか
シン
そんなくだらないものは存在しない
シン
秘密を暴くまで待ってろよ
1時間後
モエ
ミノリって子、やっと帰ったわね
モエ
じーっと私の自画像を見つめて
モエ
呪ってくださいとかブツブツ言ってるし
モエ
幽霊の私から見ても気持ち悪いわ…
トウコ
ねえ、これからどうする?
トウコ
遠くから見ていたけど…
トウコ
ミノリ、やっぱり死に取り憑かれているよ
トウコ
双子だから、なんとなくわかるの
シン
時間はもうあまりないってことか…
シン
手段は選んでられないな
シン
モエさん
モエ
なによ
シン
さっきまでいたミノリって奴のことで話があります
シン
あいつはちょっと事情があっておかしいんですが
シン
俺にとっては大切な幼なじみなんです
モエ
良い青春を送ってるのね
モエ
それで話ってなによ
シン
端的に言うと、手伝ってほしいんです
シン
あいつは霊現象を追い求めているんですが
シン
もし霊現象が実際にあると確信してしまうと
シン
自殺しようとするんです
モエ
それって、ただのかまってちゃんじゃないの?
モエ
実際死ぬ気はないんじゃない
シン
そう思いたいのは山々ですが
シン
過去に自殺未遂をしています
シン
だから放ってはおけない
モエ
なるほどね、話が見えてきた
モエ
私が美術部員たちを呪っていたことが
モエ
あの子が追い求めていた霊現象ってわけか
シン
そういうことです
モエ
それで、私にどうしろっていうの
シン
あいつを死なせないために
シン
呪いが現実の出来事であると
シン
偽装工作する必要があります
シン
それを手伝ってほしいんです
モエ
私にメリットは?
モエ
そんな面倒なこと、私がやる意味はあるの?
シン
俺がモエさんの望みを叶えます
モエ
私の望み…
モエ
あなたにはそれがわかるの?
シン
一応、色々な幽霊を見てきましたからね
シン
モエさんには心残りがあるんです
シン
だからこそ、幽霊としてこの世に残っています
シン
その心残りを解消するお手伝いをします
モエ
心残り、か…
シン
それがなくなれば、きっと成仏できるでしょう
シン
モエさんはこの世界に留まる理由を見出せなくて
シン
苦痛を感じているのではないですか?
モエ
…………
シン
モエさんが心置きなくこの世を去れるように
シン
全力で手伝います
シン
だから俺たちにも協力してください
モエ
そうね…
モエ
ただただ恨むだけの時間も疲れたし
モエ
あんた以外には誰も気づいてもらえないし
モエ
もう、楽になりたいかな
モエ
いいよ、協力する
モエ
それじゃあ、まずは私の望みから話すね
モエ
私の望みは
モエ
私をいじめていた奴らの死







