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あーもんど
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5月に入った
春というにはまだ少し暖かくて
夏と言うにはまだ早い
新しいクラスにも少しずつ慣れてきた頃
それと同じように
私と岩泉くんの距離も
ほんの少しずつ変わっていった
廊下ですれ違えば目が合う
最初は偶然だと思っていた
けれど何度か続くと、何となくわかってくる
目が合えば軽く会釈をする
それだけ
時々岩泉くんの方から話しかけてくることもあった
岩泉一
〇〇
それだけの会話
それなのに
その日だけは少しだけテンションが上がる
自分でもよくわからなかった
そしてある日の放課後
いつものように図書室で原稿を書いていた
周りには誰もいない
静かな室内に
ペンが紙を擦る音だけが響いている
岩泉一
不意に声がした
顔をあげる
〇〇
〇〇に近づいてくる
〇〇
岩泉一
〇〇
岩泉はそのまま近くの椅子を引いた
いつもなら誰かといることが多いのに
今日は1人だった
しばらくして
岩泉の視線が机の上に落ちる
〇〇の手元
書きかけの原稿
〇〇もその視線に気づき、少しだけ原稿を隠す
〇〇
岩泉一
岩泉は原稿を見る
岩泉一
少し迷った
今まで、誰かに見せたことなんてない
けれど
〇〇はゆっくりと原稿を岩泉の方へ向けた
〇〇
少し恥ずかしくて
声が小さくなる
岩泉は何も言わず
しばらく原稿を見つめていた
一枚
二枚
書いてある文章を目で追っている
やがて
岩泉一
岩泉一
岩泉は〇〇をみた
〇〇
岩泉一
岩泉は原稿を置く
岩泉一
岩泉一
そう言ってふっと笑った
岩泉一
岩泉一
岩泉一
〇〇
〇〇は少しだけ笑った
〇〇
岩泉一
それから少し間があって
岩泉が聞いた
岩泉一
ペンを持っていた手が止まる
〇〇
胸の奥がほんの少しだけざわついた
私は原稿に目を落とした
〇〇
小さく首を振る
〇〇
岩泉一
〇〇
自分で言って
少し変な感じがした
昔はあんなに『小説家になりたい』
そう思っていたのに
今はその言葉を口にすることさえ躊躇う
岩泉はそれ以上聞かなかった
岩泉一
そして少しだけ笑う
岩泉一
それだけだった
その瞬間
及川
廊下から聞きなれた声がした
及川
及川だった
岩泉一
岩泉が立ち上がる
岩泉一
〇〇
扉のところで、岩泉が振り返る
そして軽く手を振った
岩泉一
〇〇
岩泉が出ていく
図書室が、また静かになる
私はしばらく動かなかった
さっきまで書いていた文章に目を落とす
けれど文字が入ってこない
何度もさっきの言葉が浮かんでくる
ーーいいと思うけどな
たったそれだけ
たったそれだけなのに
心臓が少しだけはやくなっていた
五月の終わりごろには
岩泉くんが図書室に来ることも珍しく無くなっていた
廊下ですれ違えば目が合う
『よ』とか『こんにちは』とか
そんな短いやり取りも増えていった
私が図書室に居ると
『今日も書いてんの』
と声をかけてきたり
岩泉くんが部活に行く途中
図書室の扉に顔を出して
『またな』
と言っていくこともあった
それだけなのに
私は少しずつ
岩泉くんが来る時間を気にするようになっていた
今日は来るかな。と
来たら嬉しい
来なかったら
少しだけ残念
そんな自分に気づく度
私は何も考えないフリをした
岩泉の方も
最初はたまたま寄っていただけだった
けれどいつの日か図書室を覗くことが
習慣になっていた
岩泉一
及川
及川
〇〇が書いている姿を見ると
なんとなく安心する
話しかければ、静かに笑ってくれる
騒がしい人達の中にいる時より
自然に話せる気がした
それがなんなのか
岩泉自身もまだ考えていなかった
ただ
気づけば隣にいる
そんな関係になっていた
そして6月
テスト期間が近づいていた
その日の放課後
私は図書室で勉強していた
いつもより人が多い
きっとテスト前だからだろう
机の上には教科書とプリント
ペンを走らせながら、問題を1つずつ解いていく
ふと隣を見る
岩泉くんがいる
いつからいたのか分からない
でももう驚かなかった
気づけば隣にいる
最近はそれが当たり前になっていた
それから一時間半くらいが経った頃
私は問題を解くのに集中していた
すると
サッ
隣からペンが伸びてきた
〇〇
私のプリントの端に
何か書かれる
見ると
『喉乾いた』
と書いてあった
〇〇は思わず隣を見る
岩泉くんがこっちを見ていた
そして少し笑っている
〇〇
岩泉一
〇〇
岩泉一
〇〇はふふっと笑った
ふたりで席を立つ
図書室を出て
校舎の外にある自販機へ向かった
岩泉一
岩泉が言う
〇〇
岩泉一
〇〇は笑った
〇〇
岩泉一
〇〇
自動販売機にお金を入れる
飲み物が落ちる音
その時だった
女の子
後ろから声がする
振り返る
学年でも目立つ女の子が2人
こちらへ歩いてくる
派手な髪
大きな声
いわゆる、一軍と呼ばれる人たち
女の子
女の子
その子たちは岩泉くんを見たあと
隣にいる私を見た
ほんの一瞬
けれどその目だけでわかった
ーーなんで、この子と?
口には出していない
それでも伝わってしまった
女の子
女の子
女の子が岩泉に言う
岩泉が何かを言おうとする
その前に、私は口を開いた
〇〇
〇〇
岩泉一
〇〇
私はそう言って先に歩き出した
胸の奥が少しだけ軋んだ
そうだ
私なんかと一緒にいるより
あっちの方が楽しいに決まっている
私はただ
小説を書いてるだけの人間だ
友達だって、そんなに多くない
岩泉くんみたいな人の隣にいるのは
そこまで考えてやめた
図書室に戻った
人が少なくなっている
席に座って、プリントを開く
けれど、さっきまで解けていた問題が
全然頭に入ってこない
しばらくして扉が開いた
岩泉一
顔をあげる
岩泉くんだった
〇〇
さっきの女の子たちはいない
岩泉だけだった
それが少しだけ嬉しかった
胸の奥が、熱くなる
ーーあぁ
私はめんどくさい女なんだ
そう思った
誰かに取られたくない
自分だけを見てほしい
でも、そんなことを思う自分が嫌だった
お母さんと同じだ
誰かに愛されていることを確かめたくて
自分だけを見て欲しくて
相手の気持ちを試してしまう
私はあんなふうになりたくない
ずっとそう思っていたはずなのに
それでも
岩泉くんが戻ってきてくれた事が
たまらなく嬉しかった
嫌なのに
嬉しかった
その矛盾を、もう誤魔化せなかった
ペンが落ちた
そして私は初めてちゃんと認めた
ーー私はきっと
岩泉くんのことが好きだ