野嶋隆
……君達は、誰だい?
???
あの、もしかして"A"さんですか?
野嶋隆
え?Aというと……
私が「ミステリ談義会」で登録した
匿名のユーザーネームだ
野嶋隆
いや、確かにあるチャットでその名を使ったが、なぜ君がそれを?
???
ああ、すみません。
???
実はですね、俺達の方が先に起きまして……ほら、同じように扉があるでしょう?
怪訝にそちらに目を転じると
確かに今私が通ってきた扉と同じものがあった
???
全部で6つ……か。
???
どうやら、それとは別にある扉が進行方向らしいね。
???
ああ、そうだな。
???
じゃあ、僕は先に行くよ。
???
あ、おい!待てよC!!
野嶋隆
C?というと、君が…
???
ふん。まあ、あとはそこの粗暴で鈍重そうな顔をしたやつに聞いておいてくれよ。
そう言いながら
神経質そうな青年はつかつかと先へ行ってしまった
???
ちっ、勝手にしろ。
???
現実でもこれって、本当にありえないよね!
見ると、若い女子高生がCと呼ばれた男の後ろ姿を睨んでいた
その隣の大人びた…
しかしまだ20代かと思われる女性が苦笑しながら言った
???
まあまあ、仕方ないじゃない。
???
……まだ、多感な時期なんだから。
???
でも、Eさん。
あいつを先に行かせて良いんですか?
この状況下だと、何が起こるかしれたものじゃないですよ。
???
B、なんで気にしてんのよ。
Cなんか放っておけばいいでしょ。
???
いや、いくら嫌なやつだからといって、こんな危険な状況だと"俺たちを攫った奴ら"に殺されてしまうかもしれないだろ?
野嶋隆
殺される?
???
ああいや、すみません。
説明も半ばで放ったらかす格好になってしまって。
???
説明といっても、今わかった状況だけを言いますとね。俺達は非常にまずい状況に置かれているんです。
野嶋隆
それは生命に関わるという意味で、かな。
???
もしかしたら、の話ですよ。
???
本当に怖いよ。わたしどうなっちゃうの?
???
大丈夫よ。なるようになるわ。
???
みんな落ち着いて。Aさん、俺達はさっき言ったように貴方より少し早く起きました。
野嶋隆
ええ。
???
お互いに何が起こったのか、ここに来るまでの記憶を話し合ったんです。
野嶋隆
ここに来るまでの記憶……
野嶋隆
実は、私はないんだ。
???
やっぱり、ですか。
野嶋隆
やっぱり?というと…
???
ええそうなんです。皆んな、あのチャットをしていた時から先の記憶が無いんです。
???
そして気が付いたら、何も無い小部屋にいて……
???
棚を動かすと、皆さんと同じようにドアがあったんです。それを開けて進むと、"この"ほんの少しひらけた部屋に出て……
野嶋隆
ここか。
初めの小さな部屋よりは広い
しかし、やはり荒廃している
野嶋隆
なるほどな。
???
それでですね。
どうやら俺が1番に起きたみたいで、それからそこの……
今にも崩れて消えてしまいそうな
それでいて芯のある、強い意志のこもった眼
???
……。
???
えーと、チャットの名前で言うと…
???
……X。
野嶋隆
え?
???
X、です。
???
そう。Xがドアを開けて入ってきたんです。そして、C、D、E。最後にあなた、Aさんがいまここに顔を合わせたと言う次第です。
野嶋隆
……なるほど。つまり、こういうことか。
野嶋隆
皆同じ状況で記憶を失い、気付けばここにいた。これまた同じように小部屋からここの広間へと順に目を覚ましたものから入ってきて、お互いの記憶を報告しているうちに「ミステリ談義会」のチャットメンバーであることが判明した。
野嶋隆
…これは尋常じゃないな。何より、無作為に選ばれたのではなく、「ミステリ談義会」のチャットメンバー……。
作為的に選ばれた私達は、何者かに拉致された可能性がある。であるから、私達を拉致した張本人……
???
……犯人がいると言うことね。
???
それも、何か良からぬことを企てた犯人が、ね。
Eと目される女性の口から発せられた
その残酷な言葉に
???
……。
???
……。
???
……な
野嶋隆
え?何か言ったかい。
???
……………名前。
野嶋隆
あ、そうだね。そう言えば、お互いのハンドルネームは知っているが、それぞれの本名もこの際、知っておくべきじゃないか。
???
確かに。それもそうですね。
野嶋隆
私はハンドルネームAこと、野嶋隆(のじま たかし)だ。君達も知っての通り、あのチャットには入ったばかりで何も知らないんだ。
神崎隼也
俺はBって名前でやってたけど、本名は神崎隼也(かんざき しゅんや)って言います。高校3年生で、18歳です。よろしくっす。
中村雨音
わたしはDです。中村雨音(なかむら あまね)です。高校2年生の16歳です。こんなことになって、どうしたらいいのか分からないけど、よろしくお願いします。
新城綾香
新城綾香(しんじょう あやか)です。Eというユーザーネームを使っていましたわ。年齢はあんまり言いたくはないのですけど、28歳です。もうすぐアラサーですわね。
中村雨音
え、全然そうは見えないです!大学生なのかなと思ってました!
中村雨音
新城綾香なんて、名前も美しい人ですね!
新城綾香
雨音ちゃんこそ、可愛らしいわよ。
クラスの男子から人気高かったんじゃないの?
中村雨音
いや、全然そんなことは……
橘真衣
橘真衣(たちばな まい)。
高校1年、16歳。
それは私だけではなく
話していた中村もぴたりと止まった
中村雨音
あ、ごめんね。
真衣ちゃんって言うんだ、可愛いね!
橘真衣
………。
中村雨音
………。
新城綾香
きっと、こんな状況だから警戒してるのね。でも、安心してね。私達は味方よ。
橘真衣
………。
新城綾香
多感な時期、だからね。
神崎隼也
ええと、じゃあ自己紹介は終わったって事で。あーでも、あのCのバカは先に行ってしまったし……どうします?
野嶋隆
彼の安否が心配だし、進む先は言う通り、この先の扉しかないようだから行ってみよう。
中村雨音
わたし、怖い。
だって、犯人がいるかもしれないんでしょ。
神崎隼也
ああ。だから、俺が先頭を行きます。
野嶋さんは、確かチャットで65歳と仰ってましたね。あまり御老体を無理させたくないんですが、女性を守るためにも、俺の後ろをついてきてくれませんか?
野嶋隆
分かった。万が一の場合だ。
私も生い先長くはない。何が何でも守ろう。
中村雨音
すみません。2人とも、ありがとう。
新城綾香
有難うございます。一応、私も力になりたいので、何か武器のようなものでもあればいいのですけど……
そういうと、新城綾香は手近に木材が落ちているのを認め、その頼りなげな木材を片手に付いてきた
神崎隼也
よし。皆んな準備はいいな?
じゃあ、開けるぞ。
野嶋隆
ああ。頼む。