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翌朝、ロガリズの街

キョウ

……ひどい有様だな

アンセルム

まったくです

オレはオルシャックに戻ってからすぐに、

アンセルムにロガリズのことを話した。

アンセルム

かしこまりました

アンセルム

では早急に、出立の準備を

コイツがオレの情報に疑問を持ったことはない。

言葉どおり、至急の書類仕事を片付け、

率いる兵の選定や運搬する物資の量

そのほか必要な作業を終えて

出発準備を整えた頃には、もう早朝になっていた。

……ちょっと眠いけど、しかたない。

復興支援のために連れてきた魔王軍を、

住人達が怯えた目で見つめる。

街はボロボロで、家らしい家はどこにもない。

どれもこれもまるで掘っ立て小屋だ。

住人達もひどく痩せて、服すら擦り切れてる。

キョウ

統治のとの字も知らんクズが……

思わず吐き捨てると、近くにいた兵が思いっきりビクついた。

……違うぞ、お前に言ったんじゃないぞ。

と思っても、フォローするのもなんか違うと思うんで放っておく。

周囲を囲んでいるのは歩兵に衛生兵、工兵だ。

どの程度の状況か分からなかったんで、三分の一連れてきたが

少なくとも工兵は全員連れてきた方がよかったかもしれない。

……まぁ、あとで召喚すればいいか。

キョウ

本陣を構えるのはあとだ

キョウ

まずは歩兵の半数、街全体の探索に当たれ!

キョウ

残り半数は炊き出しの用意だ!

キョウ

持参した食料はすべて使っていい

キョウ

足りなければ城の食料庫から調達しろ

キョウ

工兵は救護所の設置に尽力!

キョウ

衛生兵はその間、民の健康被害状況を確認しろ!

キョウ

回復魔法以外に、必要なら魔法薬の処方も許可する!

民の救助を優先し、とにかく街の復興に力を注ぐ。

兵は野営にも慣れてるし、本陣がなくても問題はないはずだ。

そんなオレの顔を、アンセルムは満足そうに見ていた。

アンセルム

勇者が民衆を開放したのは昨夜とのこと

アンセルム

陛下の迅速な対処に、民も喜びましょう

アンセルムの目は、なんだかイミシンな感じだ。

たぶんコイツは、オレと勇者がなんらかの接点を持ってることに

薄々気付いてるんだろう。

……まぁその程度の洞察力がないと、オレの右腕なんて任せられない。

無言のままにんまりと見返してやれば、アンセルムの頭が下がる。

それを流し見るだけにして、オレは再度、民の救済命令を叫んだ。

今はとにかく民のケアを最上位命令に位置づけてることを、

誰の目にも明らかにしておく必要がある。

領主に続いて魔王まで民をないがしろにしていると思われると

今後厄介なことになる可能性が出てくるからだ。

もちろん鎮圧は容易だろうが、そんな愚は犯さない。

オレの目指す魔王は、殺戮と略奪でのし上がる愚者じゃないからだ。

そんなとき、街の探索に出ていた歩兵が一人

血相を変えてオレの側に走り込んできた。

第二歩兵部隊隊長より伝令!

キョウ

なにかあったか

はっ、申し上げます!

勇者に討伐されたと思われていた領主

大ヒュドラのゾーマ殿が中央広場にて発見されました!

意識を失っておりますが、魔王様にご確認いただきたく!

キョウ

中央広場?

キョウ

なんでそんなとこに……

アンセルム

陛下、ゾーマは剛力でならした領主です

アンセルム

意識を取り戻せば、歩兵ごとき一掃されましょう

アンセルム

なにとぞ、お出向きを

キョウ

分かってる

キョウ

広場まで案内しろ

キョウ

間抜けた蛇頭、あざ笑いに出向いてやろう

ロガリズの中央広場

キョウ

……

アンセルム

これはまた……

広場中央に突き立てられた丸太には、ゾーマと呼ばれる

巨大なヒュドラがぐるぐるに縛り付けられていた。

厚い鎧に守られた胴から伸びる9本の蛇頭

まさにRPGに登場する悪役って感じだ。

だけどその体には、大量の落書きがされている。

残念、バカ、ド外道に性悪ヘビ

挙げ句の果てに、腹の真ん中には

「あとよろしく☆」と書かれた紙が貼られていた。

キョウ

あんのバカ……

思わず頭の一つも抱えたくなる。

キョウ

(民の噂になってるとか言ってきたの)

キョウ

(一体なんだったんだ、あのクソ兄貴)

隠すつもりがみじんも感じられないんだが!!

アンセルム

陛下

キョウ

あん?

クッソ重いため息を吐いてると、

アンセルムが引き攣った声で言った。

アンセルム

勇者、なかなかに、こう

キョウ

……なにも言うな

アンセルム

いえ、魔族向きの性格をしているなと

キョウ

あー……

キョウ

それは……分かるな……

確かにアイツの性格、人間より魔族寄りな気がする。

打算的で自己中、自己利益を第一にして他者に労力をぶん投げる。

……アンセルムのほうがよっぽど人間ができてる気がする。

そのとき、ぞろと音がして石畳が揺れた。

ゾーマ

……これはこれは……

裂け目のような口元から細長い先割れの舌がシュルリと出て

ぐったりとしていた鎌首が次々と上がる。

体を縛られているからか首を伸ばすしかできないゾーマは

それでもオレを目にし、力いっぱい嘲笑して見せた。

ゾーマ

こんな形でご挨拶させていただく事になるとは

ゾーマ

初めてお目もじつかまつりますな

ゾーマ

――人間臭い魔王陛下

アンセルム

ッ、貴様!

アンセルム

陛下に対しなんと不敬な……!

キョウ

いい。言わせろ

キョウ

どうせ負け犬の遠吠えだ

キョウ

いや、この場合――

キョウ

毒のない蛇はただのロープだから放っておけ

キョウ

……かな?

ゾーマ

なにをぉッ!?

キョウ

図星だろう?

キョウ

恐怖を強いる事でしか民を統治できない無能な蛇に

キョウ

ロープ程度は役に立つと言ってやったんだ

キョウ

むしろ感謝して欲しいくらいだが

ゾーマ

おのれ……!!

ゾーマ

矮小な人間風情が……!!

怒りにまかせて、ブチブチと縄を引きちぎっていく。

なるほど、大ヒュドラというだけあって立つとかなりの大きさだ。

ゾーマ

その顔、先に出会った勇者とまさに瓜二つ……!

ゾーマ

なにが魔王か、なにが魔族の統率者か!

ゾーマ

貴様など、たかが人間ではないか!!

キョウ

魔族のトップは魔族じゃなきゃいけないって?

キョウ

そんなルールはないな、アンセルム

アンセルム

左様でございます

ゾーマ

おのれ、弄(ろう)するか!

キョウ

弄するもなにも、真実だ

キョウ

民、土地、天候、その辺りが見えてる奴こそ王を名乗り

キョウ

さらにそいつの魔力が強けりゃ魔王を冠する

キョウ

それだけの話だろ

キョウ

うちの家臣にゃ、そんなちっせぇ事を気にする奴はいない

キョウ

それでも気に入らないなら

キョウ

どうぞオレに成り代わって魔王を名乗ってみろよ

パチンと指を鳴らすと、ゾーマの腹に貼られた紙が音を立てて燃える。

キョウ

勇者ごときにダセェ落書きかまされた

キョウ

哀れな蛇めに、できるもんならな

ゾーマ

……ッ!!

ゾーマ

あざけるな、人間!!

咆吼と同時に、9つの口から猛毒の息が吐き出される。

……なんて残念なアタマの蛇だ。

とことん暴力で解決しようとしてくるな。

そんなオレの後ろから、悲鳴が聞こえる。

兵士の他に、周囲で様子を窺っていたらしい住人達がいたらしい。

オレや高位魔族はともかく、普通の人間がこの毒を吸うのはヤバいな。

 

パンッ!!

 

両手を強く打ち鳴らすと、広場全体を包みこむ球状結界が現れる。

ついでに、結界内にいる歩兵たちにも個別結界をプレゼント。

この忙しいのに、毒程度で労働力が減るのは避けたいからだ。

そのまま結界の外に排出し、あとはアンセルムに指示を任せる。

キョウ

こんなもん、俺に効くわけないだろう

ゾーマ

バカな……!

結界内にはまだもうもうと毒息が充満している。

まるで、自分の毒が無効化されるなんて思ってもいなかった様子だ。

まぁ、それは分からなくもない。

オレだって、牡蠣にはアタルのに魔族の猛毒には耐性があるなんて

この世界に来るまで考えもしなかった。

キョウ

領民をいじめよう、苦しめようって考えが

キョウ

どうしようもなく残念なんだよ、貴様は

ゾーマを上目遣いに睨みつけ、吐き捨てる。

キョウ

民ってのは大事なもんだ

キョウ

労働力だけじゃなく、土地の奴ら独自の知恵もある

キョウ

統治者ってのは、それを活用するために民を守るんだよ

ちらりと周囲を見、痩せ細った住人たちに眉根を寄せる。

キョウ

人間も魔族も関係ない

キョウ

国が豊かになりゃあ、それで双方が得をする

キョウ

それを理解する頭もなくひたすら消費するバカは

突如、頬を急激な上昇気流がかすめていく。

左腕に渦を巻く形で業火を纏い、

オレは思い切り邪悪な笑みでゾーマをあざ笑った。

キョウ

残念ながら、オレの部下にはいらねぇな

オレが魔王でアニキが勇者

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コメント

3

ユーザー

もうお兄ちゃんと、勇者と魔王の役交代すればいいんじゃないですか😂 でも、この勇者だけど意地悪、魔王だけど優しいというギャップがまた面白いんですよね✨ この世界行ってみたいです…!

ユーザー

もう、とにかくかっこいいです! 続きが楽しみです!

ユーザー

私が持っている魔王のイメージと真逆な感じのこの主人公すきです😌優しいし、強いし、頭いいし…最強ですね! アニキの落書きが可愛くて、思わず笑ってしまいました😆次回も楽しいにしております!

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