テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

オレが魔王でアニキが勇者

一覧ページ

「オレが魔王でアニキが勇者」のメインビジュアル

オレが魔王でアニキが勇者

4 - 4 無能な部下の役立て方

♥

801

2019年12月06日

シェアするシェアする
報告する

ゾーマ

毒を防いだ程度で……!

ゾーマ

いい気になるなよ、人間!!

キョウ

いやいや、そこはいい気になるだろ

キョウ

ただの人間だってんなら特にな

キョウ

それとも、お前が言いたいのはこうか?

キョウ

ワタクシごとき矮小な蛇の毒など

キョウ

魔王様に効かないのは自明の理って?

キョウ

そうだな、それなら確かにその通りだ

キョウ

オレがいい気になるには、貴様は凡弱すぎる

ゾーマ

黙れ小童がぁあああ!!

キョウ

おっと

激昂した様子のゾーマは、文字通り蛇行して迫ってくる。

すべての口を大きく開き、そこからまるでビームのように

猛毒を吐き出しながら、大蛇はオレの後を追ってきた。

蛇というより、まるで犬だ。

第一、毒がオレには効かないことは初撃で理解できたはずだ。

それでもしつこく毒をしかけてくる辺り

コイツにこれ以外の芸がないことが見て取れる。

キョウ

うっとうしいな、この毒霧……

効きはしないが、視界が濁るのは不快だ。

パチンッ

指を鳴らし、結界の内側に同型結界をもう1つ。

それを急激に圧縮すると、毒霧だったものは圧縮され

少量の毒液に変わった。

ゾーマ

クソッ、クソッ、クソォッ!!

ゾーマ

人間ごときに俺の毒が……!!

ゾーマ

クソがぁああああ!!

キョウ

馬鹿でかい声だ

キョウ

1人で大声コンテストでもやってるつもりか?

笑ってみせるとますます怒って咆吼する。

よくこんな単純さで領主なんてやってたもんだ。

もういいや、なんか飽きてきた。

浮遊魔術で空中に浮き上がり、暴れ回るゾーマを見下ろす。

脳の残念さはともかく、デカさだけは一流だな。

頭蓋骨との境はあの部分、胴体はあとでいい、か。

重いと動きが制限されるからか、首の装備は薄い。

これならさほど魔力は必要なさそうだ。

ゾーマ

殺し合いの場で考え事など……!

キョウ

本気でやれと?

キョウ

三下相手にこの魔王がか

キョウ

しかもお前、ひどい勘違いをしているな

ゾーマ

なに……

キョウ

魔王と殺し合いを演じるのは勇者だけだ

キョウ

今のコレは

キョウ

処刑だ、バカが

ドォンッ!!

ゾーマ

――ッッ!?

ゾーマのメイン頭部のすぐ脇で、派手な爆発を起こしてやる。

キョウ

驚いたか?驚いたよなぁ

キョウ

蛇は皮膚から骨に伝わる音に敏感だ

キョウ

至近距離でその音量、腰が抜けたろ

ゾーマ

グゥ……!ガァア……!!

キョウ

その図体がひっくり返るとさすがに間抜けだな

キョウ

まぁいい、身動きが取れないあいだに処理するか

ゾーマ

処、理……だと……!

キョウ

そうだ

キョウ

勇者がわざわざお前を生かした理由が分かるか?

キョウ

オレに任せた方が、いろいろ有効活用できることを

キョウ

ちゃんと分かってたからだ

くるりと指先で円を描くと、周辺の風が音を上げて回転を始める。

圧縮されきったそれはやがてカマイタチになるが

その形状から言って、まるで電動の円形ノコギリだ。

キョウ

この街にきた時から気になってたんだ

キョウ

潮風とは違う、変な臭いが鼻についてな

キョウ

お前、毒霧を毎日少しずつ流してたな

キョウ

民がボロボロなのは毒に冒されてるからだ

キョウ

根本的な治療には、回復魔法より必要なものがある

キョウ

そうだろ?

真空と風で目に見えないはずの刃が風景すら歪めているのを見て

ゾーマは瞳孔の細い目を見開き、ようやくオレに怯えた顔を見せた。

自分が最後にどんな役に立てるのか理解したらしい。

いい顔だ。

キョウ

大人しく薬に化けてくれ

キョウ

じゃあな、無能

とびきりの笑顔でカマイタチを投げつける。

次の瞬間、広場に赤い花が広がった。

転がった9本の首を、歩兵たちが次々に運んでいく。

毒が漏れないように、毒腺の切り口だけは軽く焼いてある。

毒を垂れ流しながら運んだんじゃ元の木阿弥だ。

血清を作って民に摂取させるまで、一滴もムダにしたくない。

キョウ

それにしても

キョウ

この程度の魔物退治で疲れたなんて言ってたのか

キョウ

アニキもまだまだレベルひっくいな

アンセルム

これはまた手厳しいお言葉

アンセルム

陛下が規格外でいらっしゃるんですよ

キョウ

オレには分からん

アンセルム

それでよいのです

アンセルム

陛下は魔王なのですから

アンセルム

むしろそうでいらっしゃらなければ

キョウ

そんなもんか

アンセルム

はい

アンセルム

しかし……

アンセルム

以前から陛下と勇者に何らかの繋がりがおありだろううことは

アンセルム

私にも察せるところではございましたが

アンセルム

まさか、勇者が陛下の兄君とは

キョウ

言う必要、あったか?

アンセルム

いいえ

アンセルム

ただゾーマの言葉を借りれば、陛下と瓜二つとのことで

アンセルム

となれば、ずいぶんとあどけない勇者であるなと

キョウ

言っとくが、性格だけなら兄貴の方が魔王らしいぞ

アンセルム

それも、愚察しております

アンセルム

いやはや末恐ろしいご兄弟で

苦い顔をするアンセルムを無視し、

炊き出しを食べている民

治療を受けている民

仮設住宅の建設に勤しむ兵を見る。

うん、至って順調。

ただ、パッと見はただの慈善事業なのが惜しい感じだ。

キョウ

というかオレの仕事が

キョウ

魔王らしくなさすぎるんだよな……

アンセルム

そんなことはございません

アンセルム

陛下は随一の魔王でいらっしゃいます

キョウ

オレのイメージしてた魔王と違いすぎ

キョウ

せめてもうちょいまともに統治されてりゃ

キョウ

好き勝手できる余力もあったろうに

これも全部、地方領主どもに丸投げしていた中央が悪いと

遠回しに嫌味を言って、その場に座り込んでやる。

兵たちが慌てて簡易玉座を持ってくるのが心地いい。

なのにアンセルムだけは、いやにニヤニヤしてオレを見ていた。

キョウ

……なんだよ

アンセルム

いえいえ

アンセルム

陛下のお口は、時に反対の言葉をおっしゃると

アンセルム

そう思ったまでで

キョウ

なんの話だ

アンセルム

陛下にお心当たりがないのなら

アンセルム

聞き流してください

キョウ

……ふん

アンセルム

しかし、陛下のお言葉もごもっともです

キョウ

うん?

アンセルム

我々の力が至らぬばかりに

アンセルム

陛下に本来不要なご心労をかけております

アンセルム

現状、我々はそのご尽力に報いているとは言えません

アンセルム

ですから大仕事を一つ終えられるごとに

アンセルム

なにか陛下のお好きなことを実行いたしましょうか

キョウ

っ、本当か!?

まさかの!

まさかの褒美がきた!?

いや、部下からもらう褒美ってのはちょっと微妙だけど

それでも嫌味のひとつも言って見るもんだ!

当然、今回の対価に要求するのはただひとつ!

キョウ

じゃあ、城の中……!

アンセルム

城内の装飾を変えるのは同意いたしかねますが

キョウ

言ってることが違う!!

好きなことを実行するって言ったくせに!!

思わず簡易玉座の肘掛けを叩きつけて

思いっ切り悔しがってしまった。

……笑ってやがる。

絶対こうなるって分かって言いやがったな、コイツ。

やっぱりコイツも魔族の一員だ、性格が悪い。

……でも、だったら別にやりたいこととか……。

キョウ

アンセルム

なにか思いつかれましたか?

キョウ

お前の意地悪のお陰でな

またひとつ嫌味を言ってやれば困ったような顔をする。

困ってないクセに。

キョウ

近いうちに勇者一行を城に招く

キョウ

あの蛇がデカい声でわめきまくったから、

キョウ

ここの領民と随伴した兵には

キョウ

オレとアニキの関係は周知されただろ

キョウ

元々隠すつもりもなかったが……

キョウ

この際大々的に交流した方が得だ

キョウ

ほかの無能どもにも少しは牽制になるだろ

アンセルム

御意に

アンセルム

それでは、宴のメイン食材はいかがしましょう?

キョウ

ヒュドラの肉

アンセルムの顔が、途端に引きつる。

さすがにこの返事は想定してなかったか。

キョウ

胴も首もあれだけデカいんだ、フルコースできるだろ

キョウ

毒腺は薬に、肉は食事に

キョウ

骨は内装品に、皮は勇者一行への土産物に加工しろ

アンセルム

心得ました

アンセルム

そのように致しましょう

アンセルム

陛下のそういう部分は、非常に魔王らしくいらっしゃいます

キョウ

そりゃ、多少はな

キョウ

でなきゃ命を奪う意味もないだろ

ニヤニヤと笑った俺の顔は、兵たちにどう映っただろう。

周囲の兵たちは揃って背筋を伸ばし、

冷や汗を浮かべた顔で並んでいた。

キョウ

どんな無能であろうとも、無駄死にだけはさせたくないもんだ

キョウ

せめて全部役に立ててやらなきゃな

キョウ

魔王の名が廃る

アンセルム

――はい、陛下

アンセルムは頭を垂れ、満足そうに敬愛と服従の姿勢を見せる。

オレはコイツの想定の範囲内で動いているのかもしれない。

それでも、オレを傀儡にするつもりがないならそれでいい。

お互いに有益な存在であることが良い部下と上司の条件だ。

――そんなオレ達を、近くの丘から見ている連中がいた。

???

はー、マジでそっくりっすねー

???

お招きがあるらしいっすけど、行くんすか?

???

ヒュドラの肉食わされるのか……

???

正直、嫌だな

マサル

まずけりゃ文句言えばいいじゃん

マサル

勇者と魔王のご対面だ

マサル

派手に歓迎してもらえるぞ、きっと

にんまりと笑った気配に、オレが見返ったときには

そこに人影はなかった。

……おおかた、自分たちの後始末に走り回るオレ達を

高みの見物していた連中がいたんだろう。

あのアニキの仲間なら、癖は強そうだ。

オレはちょっと、ちょっとだけ

さっきの毒を宴の料理に混ぜてやろうかと思った。

オレが魔王でアニキが勇者

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

801

コメント

7

ユーザー

フォローしときましたーやっぱりおもしろい

ユーザー

続きも楽しみにしてます😆

ユーザー

やっぱりいくら読んでも井之上さんの作品はいいですね〜 説明テキストはわかりやすいし、「ドォンッ!!」のところはとても迫力があります!登場人物の性格も独特で面白いし、毒を混ぜてやろうかと思った…なんて言葉の裏に面白さが隠れていてわくわくしてきます(◍︎´꒳`◍︎)

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚