待って わかってよ 何でもないから
僕の歌を笑わないで
空中散歩のSOS
僕は 僕は 僕は
薄暗い監視室。モニターの明かりだけが二人を照らしている。つもりがふと口ずさんだ、自嘲気味な「独り言」を律が聞き咎めたシーン。
つもり
……はは、今の無し。忘れてくれよ。別に、どうこうしたいつもりなんてないんだ

律
……待て。今の言葉、聞き捨てならん。何が『何でもない』だ。お前のバイタル、さっきから異常数値を叩き出しているぞ

つもり
(視線を逸らし、力なく笑う)……そんなにムキになって分析すんなよ。ただの……そう、俺の勝手な妄想、あるいは質の悪い冗談だ。頼むから、そんな軽蔑したような目で俺の『本音』を笑わないでくれ……

律
笑ってなどいない!……俺が怒っているのは、貴様がまた一人で、足のつかない虚空を彷徨うような真似をしているからだ。その、今にも消えてしまいそうな救難信号(SOS)に、俺が気づかないとでも思っているのか?

つもり
……気づいてほしいのか、隠し通したいのか、もう自分でも分かんねぇんだ。俺は、俺という人間は……一体どこまで墜ちれば気が済むんだろうな……

今 灰に塗まみれてく 海の底
息を飲み干す夢を見た
ただ 揺らぎの中 空を眺める
僕の手を遮った
夢の跡が 君の嗚咽おえつが
吐き出せない泡沫うたかたの庭の隅を
光の泳ぐ 空にさざめく 文字の奥
波の狭間で君が遠のいただけ
前回の会話からさらに深く、つもりの精神が摩耗していくシーン。律は規律を盾にして彼を繋ぎ止めようとしますが、それが逆につもりを窒息させていきます。
つもり
……もう手遅れなんだ。俺の思考も、理想も、全部が汚れて灰になって……冷たい海の底に沈んでいくみたいだ。そんな場所で、まともに息を吸おうともがく悪夢を、さっきまで見ていたよ

律
……悪夢? 貴様、また睡眠導入剤を規定量以上服用したのか。今の発言は、自己管理能力の欠如以外の何物でもない。そんな曖昧な揺らぎの中に浸って、現実から目を背けるな!

つもり
(ぼんやりと天井を見つめて)現実、か……。あんたがそうやって正論で俺の視界を遮るたびに、俺は自分がどこにいるか分からなくなる。あんたのその、泣き出しそうな声……嗚咽みたいな叱責が、耳の奥にこびりついて離れないんだ

律
俺が……泣いているだと? ふざけるな、俺はただお前を更生させようと……!

つもり
吐き出せない本音が、泡みたいに足元に溜まっていく。ほら、見てくれよ。電子の光が泳ぐこの無機質な部屋の片隅で、俺たちの対話なんて、ただの文字の羅列に過ぎない。……波にさらわれるみたいに、あんたがどんどん遠くなっていくよ、律

「なんて」
もっと縋すがってよ 知ってしまうから
僕の歌を笑わないで
海中列車に遠のいた 涙なんて なんて
取り去ってしまってよ 行ってしまうなら
君はここに戻らないで
空中散歩と四拍子
僕は 僕は 僕は
つもりがついに「境界線」を越えようとする瞬間。律は必死に手を伸ばしますが、つもりの心はすでにここにはありません。
つもり
……なんてね。全部、冗談だよ

律
ふざけるな! そんな顔で言う冗談があるか! ……もっと、俺に縋ったらどうなんだ。お前の抱えている泥沼なんて、とっくに知っている。今更、取り繕う必要などないと言っているだろう!

つもり
(力なく笑って)……ほら、またそうやって、俺の必死な叫びを『分析対象』にして笑うんだ。……いいよ、もう。俺を乗せた列車は、もう二度と戻れない深い場所まで走り出しちゃったから。……涙? はは、そんなの、ただの水滴だよ。価値なんてない

律
待て、行くな! つもり!!

つもり
……そんなに俺が疎ましいなら、いっそ記憶から全部消し去ってくれよ。あんたの隣にいると、自分が化け物になったみたいで苦しいんだ。……俺が行ってしまうなら、あんたはもう、こっち側(奈落)に戻ってきちゃだめだ

律
何を……何を言っている! 戻れ、こっちへ戻るんだ!

つもり
頭の中で、変なリズムが鳴ってる……心地いい四拍子。……俺は、俺は……一体どこへ行こうとしてるんだろうな

ただ 藍に呑まれてく 空の底
灰の中で夢を描いた
今 心の奥 消える光が
君の背を掻き消した
つもりの意識が混濁し、現実と妄想の境界が崩壊。律の姿さえも闇に溶け、認識できなくなっていく
つもり
……ああ、もう何も見えない。空の底に沈んだはずなのに、周りはただ、深い藍色に塗りつぶされていく……

律
しっかりしろ! 目を開けろ、つもり! 藍色などどこにもない、ここは現実の、冷たい隔離室の中だ!

つもり
(律の声に反応せず、宙を指でなぞりながら)……真っ白な灰の中で、何か楽しい夢を見ていた気がするんだ。でも、その残像もすぐに消えてしまう。……今、俺の奥底で、ちっぽけな命の灯火が消えようとしてる……

律
消させはしない! 俺が、俺の手がお前を……!

つもり
……律? どこにいるんだ? 光が消えて、あんたの背中も、その真っ直ぐな視線も、全部見えなくなっちゃったよ。……皮肉だな。最後に残ったのは、冷たい闇だけだ

触れる跡が 夢の続きが始まらない
僕はまだ忘れないのに
光に届く 波に揺らめく 夜の奥
僕の心に 君が手を振っただけ
「なんて」
そっと塞いでよ もういらないから
そんな嘘を歌わないで
信じてたって笑うようなハッピーエンドなんて
逆らってしまってよ こんな世界なら
君はここで止まらないで
泣いて笑ってよ一等星
愛は 愛は 愛は
視界が消えゆく中で、律が必死につもりの体に触れ、繋ぎ止めようとします。しかし、つもりの心はそれすらも「終わらない悪夢」として拒絶し、最後の一線を越えようとします。
つもり
……肌に触れるあんたの温度が、ひどく遠い。幸せな結末が始まる予感なんて、これっぽっちもしないんだ。俺はまだ、あんたに言われた酷い言葉も、あの絶望も、全部鮮明に覚えているのに

律
忘れるな! 憎んでいてもいい、だからそのまま俺を繋ぎ止めておけ! このまま闇に溶けて、夜の深淵に消えるなど……俺が許さない!

つもり
(暗闇の中に幻影を見て)……あぁ、あそこで波が揺れている。光の届く場所で、誰かが……いや、あんたが笑って手を振っている気がするよ。……『さよなら』ってさ

律
俺はここにいる! 手など振っていない、お前の腕を掴んでいるのは俺だ!

つもり
……なんてね。もういいんだ、律。その汚れた温もりで俺の感覚を塞いでくれよ。もう何もいらない。今更『救える』なんて、そんな優しい嘘を歌うのはやめてくれ。……信じていれば報われるなんて、そんな滑稽なハッピーエンド、俺は最初から信じちゃいないんだ

律
ならどうしろと言うんだ! お前をここで死なせろと!?

つもり
……逆らってよ。こんな救いようのない世界にも、俺という絶望にも。あんたはこんな場所で立ち止まっちゃいけない人間だ。……最期くらい、その綺麗な瞳で泣いて、そして俺を忘れて笑ってくれよ。あんたは俺にとって、唯一の……眩しすぎる一等星だったんだから

律
つもり!! 待て、行くな……!

つもり
愛、なんて……そんな不確かなものに、俺たちは殺されたんだな……

消えない君を描いた 僕にもっと
知らない人の吸った 愛を
僕を殺しちゃった 期待の言葉とか
聞こえないように笑ってんの
限界を超えたつもりの意識の混濁。律の必死な呼びかけが、かつて自分を縛り、壊してきた「他人の期待」や「身勝手な愛」と混ざり合い、判別できなくなっています。
つもり
……消えてくれないんだ。俺の頭の中にこびりついた、理想の『俺』を描き続けるあんたの姿が。……ねぇ、もっと頂戴よ。誰かも知らない他人が吸い残したような、そんな手垢のついた『愛』という名の毒をさ

律
何を言っている……! 俺は他人の言葉など吐いていない。俺自身の言葉で、お前を……!

つもり
(遮るように、うつろな笑みを浮かべて)……あぁ、痛いな。あんたがくれる『期待』の言葉。それが一番、俺を深く殺したんだよ。分かってる? 救おうとするその指先が、俺の首を絞めているんだ

律
……っ! 俺の言葉が、お前を殺しているというのか……?

つもり
……はは。何も聞こえない。あんたの正論も、悲鳴も。……ほら、俺、ちゃんと笑ってるだろ? こうしていれば、もうこれ以上、何も聞こえなくて済むから……

もっと縋ってよ もういらないからさ ねぇ
そっと塞いでよ 僕らの曖昧な 愛で
「なんて」
待って わかってよ 何でもないから
僕の夢を笑わないで
海中列車に遠のいた 涙なんて なんて
消え去ってしまってよ 行ってしまうなら
僕はここで止まらないで
泣いて笑ってよSOS
僕は 君は 僕は
最終列車と泣き止んだ あの空に溺れていく
静寂が支配する部屋。つもりの意識はもう、現実の「律」を見ていません。二人の間にあった「曖昧な愛」が、残酷な幕引きを連れてきます。
つもり
……はは。もっと縋ってよ、律。……なんてね、もうそんなの、本当はいらないんだ。ただ、僕たちのこの……愛だか呪いだか分からない曖昧な何かで、いっそ全部塞いでくれないかな

律
……黙れ。そんな投げやりな言葉を聞くために、俺はここにいるんじゃない! ……つもり、頼む、頼むから正気に戻ってくれ……!

つもり
(ふらりと立ち上がり、虚空を見つめて)待って……わかってよ。いや、何でもない。……ただ、僕の見た『夢』を、どうか笑わないで。……海を行く列車が見える。あぁ、なんて遠いんだろうな。涙なんて、もう枯れちゃったよ

律
(つもりの肩を強く掴み)どこへも行かせない! お前が消え去るというなら、俺がこの手で……!

つもり
……消え去ってしまってよ。俺が行ってしまうなら、あんたはここで止まっちゃダメだ。ほら、最後くらい笑って……これが俺の、精一杯の救難信号(SOS)だよ。……俺は、あんたは、俺たちは……

律
つもり!! 返事をしろ!!

つもり
(窓の外、夜明け前の藍色を見つめて)……最終列車が、行っちゃった。……あぁ、あの空に、溺れていくみたいだ……
