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運命の書
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放課後
忘れ物を取りに戻ると、夕陽の差す教室にそれはポツンとたっていた。
汚れたボロ切れを頭からかぶったガイコツ、肩には大きな鎌を担いでいる。
誰だって一目見て分かる。
その姿はイメージ通りの死神だった。
死神
まがまがしい外見に反して、声のトーンは落ち着いていて、むしろ親しみさえ感じた。
明莉
私の返事を聞くと、死神はホッと息を吐いた。
死神
彼は、良かった、良かった、と独り言をつぶやくと私に視線を戻した。
死神
言い終えると、彼は担いでいた鎌を一振した。
死神
大分距離は離れていたが、大鎌の風圧で前髪が乱れた。
それを機に、現実感のない状況に思考停止していた私の頭が、回転し始めた。
こ、これはもしかしてマズイのではないか?
すぐに私は自分の頬を強くツネった。
明莉
死神
彼はダボついた服の袖口から紙を1枚とりだすと、私に差し出した。
死神
受け取った紙には、こう記されていた。
20**年10月10日10時10分。 A県B高速道路。 修学旅行中のC高校の生徒を乗せたバスに、後方からタンクローリーが追突し炎上。 タンクローリーを運転する男の過失。 両車に乗っていた計38人が死亡。
明莉
楽しみにしていた修学旅行。
日付は明日だった。
死神
明莉
死神
私は首を横に振った。
明莉
死神
明莉
力をこめて紙を破ろうとしたが、私の顔が赤く染っただけだった。
死神
ん?引っかかる言い回しだ。
明莉
死神
明莉
私は『38』という数字を指差して言った。
死神
明莉
死神
明莉
瞳を涙でうるませた私を見て、死神は何度かうなずいた。
死神
明莉
死神
彼が紙に万年筆を走らせると、急に眠気がおそってきた。
運命を書き換えられたからだろうか。
重いまぶたにあらがえず、よろけながら教室の椅子に座った。
……助かった。良かった。
普段から悪い事をしないでいて良かった。みんなに親切にしていて良かった。
でも、みんなは死んでしまうのか。
頭の中でつぶやくと、大きな喪失感と罪悪感を覚えて、あたたかい涙が頬をなぞった。
一瞬、意識がとんだ。
……目を開け、涙で歪んだ世界を指で拭う。
私はバスに乗っていなかった。
それは当然すぐに理解できた。
腕時計に目をやる。
20**年10月10日10時09分だった。
ああ、なるほど。
私は死神が書き換えた運命を理解した。
祈りたいと思った。
しかし、何に対して祈ればいいのだろう?
神様だろうか?
いいや、ダメだ。
神様は私の死を望んでいたのだもの。
答えは出なかった。
でも、悩んでいる時間もなかった。
私は胃を決すると、右足を踏み込んだ。
作者
コメント
1件
うーん、難しいけど。右足を踏み込むというのはアクセルを? ローリーの運転手になってしまったのかな? でも面白かったですー