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あの夢の中みたいに高揚した配信の日から、1週間。
私にはいつもの日常が戻ってきていた。
紬
すみれ
紬
すみれ
お昼休み。
私は親友の紬と、机をくっつけてお弁当を食べながらイミグレの話をしていた。
紬
すみれ
紬
すみれ
もちろん、ママがイミグレの運営会社の社員であることは、守秘義務というもので家族以外には絶対に口外禁止。なので、親友とはいえ、紬にも内緒なのだった。
と言っても、これまでママが関わっていたのは開発運営ではなく、広告などのPRやライブなどのメディアミックスのみ。
忙しそうにしていると、「何かリアイベが発表されるのかな?」くらいは察知できたが、
基本的に新しいガチャやイベントの情報は普通に公式から発表されるまですみれにも知らされることはなかった。
すみれ
すみれ
すみれ
もちろんそんなことを聞いたって、当然ママは「いや私も知らないから」というだけで、絶対に教えてくれないのだが…
すみれがそんなことを考えながらお小遣いとダイヤの残り数を計算していると、不意に紬がスマホをいじりながら、「あ、ねえねえ」と話しかけてきた。
紬
すみれ
紬
すみれ
紬
突然の話題にすみれはギクリとしたが、なんとか平静を装ってペットボトルのお茶に口をつける。
紬
すみれ
わたしは思わずお茶を吹きこぼした!
紬
すみれ
紬
すみれ
すみれは紬から貰ったタオルで濡れた制服を拭きつつ、内心ヒヤヒヤしていた。
まさか、紬がハマったのがあの2人だとは!
紬
すみれ
私は紬の言っていることに「わかるよ…」と心の中で相槌を打ちつつ、表情に出ないよう素知らぬ振りを続けた。
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
今更2人のグループ名を知るも、もうすみれが彼らと会うことはない。
そのことに少しだけ残念な気持ちが湧いてきて、ちょっぴり悲しくなる。
紬
すみれ
紬
これからは、ひとりのユーザーとして、紅羽さんを応援しよう。
そう思いながら、私は紬に教えてもらったいくつかの動画をチェックしてリストに入れたのだった。
『これからは、ひとりのユーザーとして、紅羽さんを応援しよう。』
そう、思ったばかりだったのに。
ママ
目の前には、両手を合わせて可愛く小首を傾げるママ。
私はママに今日の夜食のお弁当を作って、会社まで持ってきたところだった。
なのに、どうして会社の会議室に通されて、実の母を含めた大人達に囲まれているのか。
ママ
すみれ
私は困惑する。
だってあれは、急場凌ぎで人手が足りなくて、半分部外者の私が巻き込まれただけ。
それと、これから毎日、というのは、少し性質が違うような。
やりたくない、というわけでは決してないが、そもそも、訳がわからない。
すみれ
ママ
紅羽のマネージャー
すると、ママの隣に座っていた気の弱そうな男性が、苦笑いをして頭を下げた。
私は、慌てて口を押さえ、彼に向かって頭を下げる
すみれ
紅羽のマネージャー
ママ
ママ
ママ
その言葉通り、紅羽のマネージャーさんはやつれていて、顔にも生気がない。
ママですら忙しそうにしているのに、きっと休まず働いているのだろう。
ママ
ママ
ママ
ママ
紅羽のマネージャー
大の大人2人に頭を下げられて、私も流石にたじろいた
ママの言っていることは理解できる。それでも、ただのお手伝いである私に務まる仕事とは思えなかった。
紅羽さんは、いくらVtuberとはいえ、有名な配信者だ。
ただでさえ、前回無理やり起こして嫌われてしまったのに、私がまた何か粗相をしてママの会社の所属を辞めるなんてことになったら、
一介の女子高生である私には責任も取れない。
すみれ
ママ
すみれ
ママ
すみれ
正式に断ろうと開いた口が、ピタリ、と止まる。
お給料。 その言葉に、脳裏にイミグレのレイ様⭐︎5イラストカードがよぎる。
すみれ
すみれ
ママ
ママ
すみれ
ママがスマホの電卓で見せてきた数字は、イミグレのガチャの天井をゆうに足りる金額だった。
ごくり、と唾を飲む。
すみれ
すみれ
すみれ
ママ
紅羽のマネージャー
そう言って手を取り合い涙を流さんばかりに喜んでいる2人を尻目に、私ははあ、とため息をついた。
すみれ
すみれ
その私の嫌な予感はすぐに的中した。
すみれ
いつかと同じように、私はまた紅羽の家のインターフォンを押していた。
すみれ
当然のように、玄関の向こうからは何の反応もない。
私はため息をついて、二度目となる合鍵を使って家に入った。
玄関入ってすぐ横の、寝室の扉を叩く。
すみれ
紅羽
部屋の中から返事はない。
今日は前回より時間の余裕もあるし、いきなり寝室に飛び込んでいくのも悪いと思って、私はしばらく部屋の外で扉を叩きながら声をかけ続けた。
何度か衣擦れの音がして、さすがに起きただろうと様子を見ているも、またシンと静かになって音沙汰がなくなる。
この現象の繰り返しだった。
すみれ
20分ほど粘っていたが、キリがないので突入を決行する。
ガチャ
相変わらず室内は昼間だというのに薄暗くて、遮光カーテンがぴっちりと日の光を遮断している。
キングサイズのベッドの中央で、配信界の王者がぐっすりと眠っている。
その様子は、まるで死体のようだった。
すみれ
紅羽
紅羽さんは相変わらずの無視。
よく見ると、耳にワイヤレスイヤホンがはまっている。
すみれ
私はまるまる無駄にした20分を後悔しながら、そっと紅羽さんの体を毛布ごと揺する。
すみれ
紅羽
すみれ
一瞬、ビクリ!と驚いたように紅羽さんが体を竦めた。
私が驚いて身を引くと、紅羽さんは寝起きの鋭い眼光で辺りを見回した。
そして、私の姿を認めると、より一層眉をしかめて、もう一度ベッドに潜り込んでいった。
すみれ
紅羽
すみれ
紅羽
野良猫が威嚇して唸るような声が、布団の中から響く。
すみれ
紅羽
すみれ
紅羽
相変わらず、紅羽さんの寝起きの攻撃力は高いようだ。 掛け布団の中から、顔も出さずに暴言を吐いてくる。
私は怯まずに、しゃんと背筋を伸ばす。
すみれ
紅羽
すみれ
紅羽
返事はない。おそらく、ちゃんと聞いているはずだ。
それでも、紅羽さんは無視を決め込んだまま、布団の中にうずくまっている。
私はほとほと困ってしまった。
前回は生存確認のために毛布をめくったら、たまたま紅羽さんが体を起こしてくれたが、
今回はもう私が誰かもわかっているので、完全に無視を決め込まれてしまったようだ。
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
もう一度体を揺すると、紅羽さんの長い腕がそれを振り払って、毛布の中に戻っていく。
私は呆然と、その毛布の塊を見つめた。
すみれ
すみれ
紅羽
ダメ元で聞いてみるも、やはり、返事はない。
すみれ
私は泣きそうになりながら、ママとマネージャーさんに『やっぱり無理かもしれません…』とチャットをしたのだった。