松尾 華澄
ごめん、急に連れ出して…
星は首を横にふった。
砂川 星
“どうしたの?”
松尾 華澄
嫌なら答えなくていいからな…
星を屋上のベンチに座らせてその後、自分も座った。
松尾 華澄
事故のショックで声が出なくなったって言ってたけど、
松尾 華澄
それってどういう事故だったんだ?
砂川 星
…。
星は大きく目を見開いて 紙にスラスラと何かを 書いていった。
砂川 星
“そんなこと聞かれたの初めてだよ。”
砂川 星
“皆、だいたい事故って言ったら何も聞かなかったのに。”
砂川 星
“華澄は俺が抱え込んでること分かったんだね。”
砂川 星
“事故の時のこと、話すよ。”
松尾 華澄
無理しなくてもいいんだぞ?
砂川 星
“ううん、何か話したらスッキリしそうだから話すよ。”
松尾 華澄
(それは想像してたものとは)
松尾 華澄
(大違いのことだった。)
俺が
母を殺してしまった。
本橋 鈴
(あ、れ…。)
目からあついものがたまって 机にポタポタと落ちていった。
本橋 鈴
(まだ、告白したって訳じゃないのに)
本橋 鈴
(…なんで?)
グイ。
誰かが私の手を引っ張った。
如月 琉生
…鈴?
本橋 鈴
あっ…
本橋 鈴
き、如月くん!
本橋 鈴
な、なんでもないの。
如月 琉生
じゃあ、その涙は?
本橋 鈴
これはゴミが目に入っちゃって。
如月 琉生
はぁ…。
如月 琉生
鈴はめんどくさいね。
如月 琉生
(そこが可愛いんだけど。)
如月 琉生
ちょっと、おいで。
如月くんは私を引っ張って中庭まで手を離さなかった。
砂川 星
“俺の家にはお父さんがいなくて、”
砂川 星
“シングルマザーだった母は手放すことなく俺と弟の空(そら)を育ててくれた。”
砂川 星
“母は旅をするのが好きだった。”
砂川 星
“だからよく、出かけてた。”
砂川 星
“母が死んだ日。”
砂川 星
“その日も3人で出かけてたんだ。”
砂川 星
“でも、運が悪くて後ろの車が突っ込んできて、事故になった。”
砂川 星
“俺が病院で目覚めたとき、もう母はこの世にはいなかった。”
砂川 星
“俺と空をかばうようにして、母は死んだということを後から知った。”
砂川 星
“お母さんは俺たちをかばわなかったら確実に生きていたと言った。”
砂川 星
“俺は12歳、弟はまだ3歳だった。”
砂川 星
“弟は3歳にしてお父さんとお母さんをなくした。”
砂川 星
“そんな俺が生きてていいのか。”
砂川 星
“空だって声にしてないだけで本当は俺のことを恨んでるんじゃないかって。”
砂川 星
“そんなことを考えてた次の日”
声が出なくなっていた。
本橋 鈴
…如月くん、
本橋 鈴
もう、大丈夫だから。
本橋 鈴
手、離して。
パッ。
如月 琉生
…あ、ごめん。
如月 琉生
うすうすは気づいてたんだけど
如月 琉生
もう、泣いてるから完璧に鈴の事、分かっちゃった。
本橋 鈴
…え?
如月 琉生
鈴は…、星が好きなんだね。
本橋 鈴
…あ、
本橋 鈴
違うの!!
本橋 鈴
これは本当に目にゴミが…
本橋 鈴
(あ、また涙が…)
如月 琉生
星には言わないから…、
如月 琉生
本当は星のこと好きなんでしょ?
本橋 鈴
…は、い。
如月 琉生
はぁ…。
如月 琉生
好きなら好きって言わないと。
本橋 鈴
…、む、無理ですよ…
本橋 鈴
私なんて…。
如月 琉生
私なんて…って何?
如月 琉生
自分の評価を自分で下げたら、
もっと自分のこと嫌いなっちゃうよ。
もっと自分のこと嫌いなっちゃうよ。
本橋 鈴
…。
如月 琉生
(あぁ、目の前で好きな人が傷ついてる。)
如月 琉生
(なんで、俺のこと気づいてくれないの?)
如月 琉生
(どうしてこんなにも)
如月 琉生
(片想いって辛いんだろう。)