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私は、昔から意気地なしだ

時雨

……

皆んなが平然とやっていることが、私にはどうにもできなくて

でも、大抵のことは傍から見ればできているのだ

理由は簡単で、できていることが個人ですることだからだ

時雨

はあ……

今年から晴れて高校に上がった私は、我ながら頭の良いところに入った

でも、それは間違いだった気もした

時雨

(意識が高くて明るい人ばっかり)

時雨

(話しかけづらいし、場違いな気がしちゃうな)

この子なら話せそう、がなかった

何か頼まれれば断れないし、時折生きている意味がわからなくなる

その場にいるのが億劫になる

時雨

(……一人でいるのが、私にとってはいいのかな)

どうしようもなく悩んでいた

こんなでは社会に出れない

時雨

(話せるように練習しないと……)

学校からの帰り道

ほしいのは、ほんのちょっとの勇気

時雨

ただいまー

ガチャ

時雨

ふー……

家に入った途端、肩の力が抜けていった

時雨

……疲れた

私の家には、帰ってくると毎回人がいません

理由は別に両親が死んだとか、二人揃って海外赴任とかでもない

単に共働きで家にほとんどいないというだけだ

時雨

今日も何もできなかったな

時雨

でも変に喋って嫌われるよりはいいよね

そう自分に押し付けて、あたかもそれが正しいかのようにして思い込んだ

時雨

え、テレビ付けっぱじゃん……

何か音がすると思えば、付けっぱなしのテレビだった

消すのを忘れて家を出ていたらしい

時雨

電気の無駄使いになっちゃった

時雨

ただでさえあんまり見ないチャンネルの通信量払ってるのに

時雨

気をつけなきゃな

私は鞄をその辺に置くと、床に座ってリモコンを手に取った

今の時間帯はちょうど夕方

ニュースやら子供向けアニメがやっている時間帯だ

時雨

今は面白いのやってないよな〜……

私は小さな頃からテレビっ子だ

アニメでもニュースでもバラエティでも何でも見る

時雨

面白いのは大抵7時からなんだよね

時雨

今はニュースでいいや

私はじっとテレビを眺めた

テレビは何もしなくても音がする

必ず、誰かが話している

私に向けられていなくとも、人の声を聞くだけでなんだか安心できた

時雨

(なんか眠いなあ……)

眠気が襲ってくる中、私が最後に見たニュースは高校サッカーのトピックだった

ガシャン!

時雨

うわあ!?

時雨

何々……

いつの間にか居眠りをしてしまっていた私

台所の方からの物音で跳ね起きた

時雨

(なんだろう……)

時間は五時を回ったくらい

親はもっと遅い時間に帰ってくるはずだ

だから、今この家にいるのは私だけ

時雨

だ、誰か入ってきた……!?

時雨

も、もしかして強盗!?

私は部屋の隅にあったコロコロを持って、台所へ向かうことにした

なぜ台所から音がしたんだろうか

もしかして、私が帰ってきた時から居たのかな……

時雨

だ、誰……?

クロ

……

時雨

え?

時雨

な、なんだクロか……

私が台所を見ると、そこにはうちの飼い猫であるクロが居た

どうやら強盗ではなかったらしい

時雨

良かったけど、一体どうやって……

時雨

……あ、窓開いてるじゃん!

台所を見回すと、窓が開いていることに気がついた

がっつり開いていたので、普通に不審者が入ってきてもおかしくはなかった

時雨

不幸中の幸い……

時雨

でもお皿割れちゃったな

私は皿の破片が散った床を見た

時雨

危ないから来ちゃダメだよ

クロ

……

時雨

……あれ、

時雨

ねえクロ、何か食べてきた?

クロを見ると、何か拾い食いしてきたのか口元が汚れていた

時雨

生ゴミ、今日じゃないよね

時雨

餌付けされてる……?

クロ

……

時雨

動物の死体は食べてないよね?

クロ

……にゃ

クロは消え入るような声で呟くと、そっぽを向いた

時雨

……まあ仕方ないか

実際、何か悪いものを食べていないか心配になる

でも私がなんと言おうと、クロは変わらない

そう、私とクロは家族だ

クロが幼い頃からの仲なのに、何故か仲良くできなかった

私が友好的な態度で接しても、クロは知らんぷり

なんなら怒られる

時雨

……猫とも仲良くできないって、私とことん誰かと居るの向いてないみたい

力なく笑った

クロ

……

中々噛み合わないクロと私

でも、クロが後に私の運命のキーパーソンとなる

その黒猫、うちのです

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