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目覚めると、白くて広いだけの何もない空間にいた。
地面も白、空も白、明るいけど光は淡くて影もほとんどなく、屋内なのか屋外なのかもわからない。
白い空間の中に、何百人もの子供がいた。
大半の子供は、ぼうっと突っ立っているか、周囲を見てあたりを観察しているか、近くにいた子供に話しかけているか。
要するに置かれた状況がわからずにいるようだ。
ぼくと同じく。
何も手がかりがない状況に、少しずつ子供達がざわつき始めた。
中には「出せ!」「帰せ!」と騒ぎ出す子までがあらわれ、声が段々と大きくなってくる。
シシロウ
声を発したのは、背の高い金髪の少年だった。
その一喝で騒ぎが収まり静寂がおとずれた。
いくつか金髪の少年に対して不満をもらす声もあったけど数は少ない。
大多数の子供は、迫力に負けて静かになった。
アルク
となりに立っていた女の子が、不満そうな顔でぼくに話しかけてきた。
ユウゴ
アルク
女の子がぼくの左肩に手を乗せるように、軽くポンと叩いた。
ユウゴ
思わず息をのみ、体全体に力が入った。
アルク
ユウゴ
アルク
女の子は面白がって、ぼくの左肩をバンバンとたたく。
痛くはないけど本当にやめてほしいんだけど。
ガイド妖精
突然、どこからともなく放送のような大きい音声が聞こえた。
アミキ……魔法学校?
よく聞こえなかったけど、魔法学校という単語は拾えた。
他の子達も静かになり、音声の出どころを探して周囲を見回す。
アルク
女の子が空を指差すと、無数の丸い物体が飛んで近づいてきていた。
卵のような楕円の球体に羽が生えたような物体で、表面には奇妙な文様が刻まれている。
ドローンのようにも見えるけど、飛び方は鳥のように生物的だ。
ガイド妖精
羽の生えた卵から、機械的な音声が聞こえた。
あまり妖精って見た目じゃないけど、あれらはガイド妖精というらしい。
ガイド妖精が話を続ける。
ガイド妖精
ガイド妖精の1体が地上まで降りて来ると、姿を両開きの扉へと変化させた。
ギギィと重そうなきしみ音たてながら扉が開くと、その先に石レンガの壁に囲まれた通路があらわれた。
どう見てもまともじゃない。
安全が保証されないどころか、危険が待ち構えている予感しかしない。
誰もが警戒して動けずにいると、最初に動いたのは、さっきの金髪の少年だった。
シシロウ
警戒するぼく達の視線も気にせず、まるでコンビニにでも立ち寄るような足取りで、扉をくぐって通路に足を踏み入れる。
あの口ぶりからして、この状況が何なのかを知っているようだ。
扉に変化したガイド妖精以外は、上空の高い位置で停止飛行して何も言ってこない。
この何もない白い空間に残っていたところで、何かが変わるようにも思えない。
金髪の少年のあとに続いて、扉の向こうに行く以外の道は無いようだ。
ひとり、またひとりと、扉を通っていく。
いつしか競争のようになり、扉の前に子供があふれるように集まっていった。
考えているうちに、すっかり出遅れてしまった。
アルク
さっきの女の子があきれたようにつぶやく。
言われてみれば、たしかにそうだ。
扉を通りたいなら、扉の前がすくのを待てばいい。
アルク
ユウゴ
ただ、ぼーっとしている間に先を越されちゃっただけなんだけど。
アルク
ユウゴ
アルク
女の子がニッと不敵な笑みを浮かべると、髪の毛がふわっと広がった。
同時に暖かい風が、ぼくのほほをくすぐった。
アルク
魔法。
普段なら手品を使った冗談だと、笑って返すところだけど、今は違う。
この白が広がる謎の空間、ガイド妖精という存在、石レンガの通路に続く扉。
何より、最初にガイド妖精が言った「魔法学校」という単語。
魔法が世の中に実在すると信じられる要素が、ここにはいくつもそろっている。
アルク
アルク
ユウゴ
女の子の名前も聞いていない。
アルク
アルク
アルク
両手の人差し指を立ててドヤ顔で言う。
持ちネタの自己紹介ギャグのようだ。
肩のあたりで無造作にそろえた髪、服装はオーバーサイズのパーカーとミニスカート。
常に自信有りげな表情は、若干の威圧感があるけど可愛いと思う。
ユウゴ
アルク
アルク
名字をアピールする自己紹介していたのに? とも思ったけど、今たよれるのは彼女だけなので、機嫌を損ねるような発言は得策じゃないだろう。
言われたとおりに、アルクと名前で呼ぶことにした。
ユウゴ
アルク
アルク
アルク
ユウゴ
アルク
アルク
アルク
アルクが両手を軽く上げると、ブワンっと一陣の風が通りすぎた。
突風によりアルクの髪が乱れ、ダボダボのパーカーと短いスカートが巻き上げられた。
アルク
ユウゴ
答えが見つからずに口ごもる。
こういう時はどう答えても不正解だと思う。
アルク
アルクにヘッドロックで捕まり、顔面にかざした手のひらから、ドライヤーのような温風を浴びせられる。
ユウゴ
もう、疑う余地もない。
アルクは魔法使い。風を操れる魔法使いだ。
魔法という単語。
そして、実際に魔法を見せられて、脳の深いところに封印されていた、幼い頃の記憶が蘇ってきた。
ぼくは幼い頃に魔法使いに出会ったことがある。
5年くらい前、小学校に入ってすぐくらいのことだ。
家族で山にキャンプに行ったことがある。
何日目かの夜、家族が晩ご飯のバーベキューの準備をしている間、退屈でひとりで遊んでいるうちに、山林の中に迷い込んでしまった。
人がいるところまで戻ろうと歩き回るうちに、奥へ奥へと迷い込んでしまい、ついには空すら見えない暗い森のようなところに行ってしまった。
さらに不運なことに、自分の体の何倍もある大きな獣に遭遇。
暗闇の中で気づくのが遅れたこともあり、逃げようとするよりも前に、大きな口で左肩に咬みつかれてしまった。
痛みと出血、夜道を歩き回っていた疲れもあって、そのまま意識が薄れていった。
薄れゆく意識の中、誰かが助けに来てくれたような気配を感じた。
次の瞬間、大きな獣が大きな音を立てて倒れた。
もやがかかった視界の中に、杖を構えた長髪の人物がいた。
……ような気がする。
気がする。なのは、次に目を覚ましたのが病院のベッドだったからだ。
発見してくれたレスキュー隊の話では、森の中には肩から血を流して倒れているぼくだけで、獣は影も形もなかったらしい。
ぼくを襲ったのは縄張りを荒らされたと思った熊で、ぼくが動かなくなったところで、山の奥に帰っていった。
というのが、大人達の推測だった。
ぼくもその話で納得し、何者かに助けてくれたのは気絶していた時に見た夢だろうと思っていた。
でも、あの光景は現実だったんじゃないか。
あの時の人物は魔法使いで、ぼくを大きな獣から守ってくれたんじゃないかと、そう思えてきた。
アルク
うっぷんが晴れたらしいアルクに、やっと解放された。
むしろ温風のせいで頭だけが妙に熱くてクラクラしているんだけど。
ユウゴ
ユウゴ
ユウゴ
アルク
アルクが指で○を作ってこたえる。
話しているうちに、扉の前もだいぶすいてきた。
あの扉の向こうでは、入学試験がはじまっているんだろうか。
アルク
ユウゴ
ぼくは魔法のことを何も知らない。
同じ組むなら、最初に扉に入っていった金髪の少年のほうが、魔法のことを知っていそうだし、ずっと有利だと思う。
アルク
それはそう。
あのキャンプで獣に襲われた事件以来、トラブルにあうのが怖くて、危険がありそうな場所や物には、できるだけ近づかないようにしている。
アルク
ユウゴ
アルク
アルク
アルクはぼくの返事も待たずに、スタスタと歩き始めた。
ユウゴ
置いて行かれないように、慌てて追いかけた。