10月28日
この日は私と貴史の結婚記念日だ。
毎年、私たちはこの日に豪華なご馳走を食べる。
今年も2人で食べる
……
はずだった。
美羽
……よし
美羽
あとはこれを並べて……と
美羽
完成!
美羽
我ながら美味しそうにできたな〜
美羽
そう思うでしょ?貴史
私はいたずらっぽい笑みを浮かべながら
写真の中の貴史に話しかけた。
もちろん、返事はない。
美羽
……いただきます
美羽
ん!美味しい!
美羽
これね、貴史が教えてくれた料理なんだよ
美羽
覚えてる?
美羽
なんて、貴史忘れっぽいからもう覚えてないか笑
美羽
本当、女の方が料理下手だなんて笑えるよね
美羽
頼りなくてごめん笑
美羽
でも、貴史が料理上手で本当に助かったんだよ
美羽
ありがとう
美羽
……ねぇ
美羽
なんとか言ってよ
美羽
貴史
美羽
寂しいじゃん、1人でご馳走
美羽
何で逝っちゃったの?
美羽
勝手に1人で
美羽
知らなかったよ私
美羽
貴史が借金してたなんて
美羽
どうして相談してくれなかったの?
美羽
何で、保険金目当てで自殺なんか
美羽
……
美羽
ちょっと
美羽
何とか言いなさいよ!
ガシャン!
勢い余って、机の上のお皿を全て床に落とした。
でも、それくらい許せなかったのだ。
10月1日
この日、貴史は仕事に行ったっきり帰ってこなかった。
そして発覚した自殺。
もう、何もかも遅かった。
どうして気づいてあげられなかったのか。
彼の苦しみに、しっかり寄り添いたかった。
抱きしめて
美羽
私がついてるよ
そう、言ってあげたかった。
もう、遅い。
何もかも手遅れだ。
こんな形で、私の結婚生活はたったの3年で終わってしまった。
後悔の念だけが募っていく。
もっと、もっと
一緒にいたかった。
彼と一緒に、生きたかった。
もう、10月28日に一緒にご馳走を食べることも無い。
いや、もうこれから先は、彼に会うことすら無いだろう。
美羽
……寂しいなぁ
美羽
私の中、空っぽになったみたい
美羽
もう、なんにもないみたい
美羽
……苦しいなぁ
美羽
あなたがいないと、本当に何も生まれない
美羽
何にもない
そう、何にもない。
『何も無い日』
あるのは、それだけ。