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それから私には、いつもの日常が戻ってきていた。

学校からの帰り道。電車の空いている席に座れた私は、

すぐにイヤホンの電源を入れて、配信アプリを立ち上げる。

すみれ

(さくっと昨日の紅羽さんの配信を見返して…っと)

すみれ

(………あ。)

すみれ

(…そうか)

すみれ

(私、クビになったんだっけ)

すっかり毎日習慣となっていたその行為が、もう必要でないことに、ふと気がつく。

いつもだったら、配信で紅羽さんの様子や、体調、食べたいものなどを確認して、翌日のメニューに組み込んだりしていたのだけれど。

すみれ

(もう、そんなことしなくていいんだ)

自分で思っていたより、予想外に喪失感が大きくて、なんだか驚く。

すみれ

(たった数週間だったけど、いつの間にか私の日常になっていたんだな…)

いま、配信で紅羽さんの姿を見たら、なんだか切なくなってしまう気がして。

私はそっと配信アプリを上にスワイプして消すと、

音楽を流してスマホの画面を落とした。

すると、タイミングを見計らったかのように、ママからチャットが届く。

ママもママで、きっと私のことを気遣ってくれているのだろう。

会社に顔を出すのはあまり気が進まなかったが、忙しくしていれば少しは気が紛れる気がして、

私はママへのお弁当を作るため、帰路を急ぐことにした。

すみれ

(なんだか作り過ぎちゃったな…)

手作り弁当を持って、会社のロビーでママを待つ。

ここには、つい最近来たばかりだというのに、

社用パスを返してしまった私は、たちまちお客様に戻ってしまっていた。

部外者を確実に閉め出すための関係者口がなんだか高い塀のように感じられて、

私は無意識にため息をついた。

すみれ

(このあいだまでは普通にあの改札を通って上の階に行っていたはずなのに)

すみれ

(なんだか、遠い昔のことみたい)

たしか、今日は曜日的にダンス練習の日でもないし、

紅羽さんは事務所に来ていないだろう。

こないだの今日で、会社のロビーで顔を合わせるのは気まずかったが、

さすがにその辺りは、ママも配慮してくれているはずだ。

ゴウン…

そんなことを思いながら待っていると、関係者口の向こう側のエレベーターのひとつが動き出した音がした。

階数表示を見ると31階から降りてくるようだ。

すみれ

(たぶん、ママだ)

私は、ロビーのベンチを立って、ママが降りてくるのを待った。

しかし、1階についたそのエレベーターから降りてきたのは、ママではなく。

星也

あれっ。すみれさんだ

すみれ

星也さん!

いつかこのロビーで、そして会社の廊下ですみれにアドバイスをくれた、この会社の従業員、天ヶ瀬星也さんだった。

すみれ

お帰りですか?

星也

そう。今日は収録があってさ。

すみれ

お疲れ様でした。

星也

すみれさんも、今日は事務所にお仕事?紅羽の迎えとか?

すみれ

っ…、それが…

不意打ちの発言に、一瞬動揺してしまう。

すると、星矢さんはすぐに眉をしかめて、さりげなくロビーのベンチに座るよう私を促した。

星也

何かあったの?

すみれ

いや…、たいしたことではないんですが…、

星也

うん

すみれ

その、クビになってしまって。

星也

えっ

私は、ざっくりとことのあらましを星矢さんへ話した。

星也さんはときどき相づちを打ちながら、黙って話を聞いてくれた。

星也

そうだったんだ。つらかったね

すみれ

いえ、自業自得なんです。私が出過ぎたことをしたから…

星也

そうかな。すみれさんはほかのスタッフが気がつかなかったライバーの体調変化をいち早く気付いて申告してくれただけだ。

星也

最悪人命が関わることだし、それなのに出過ぎてるとか、管轄外とか、関係ないよ

すみれ

星也さん…。ありがとうございます。

私は星也さんの優しい言葉を噛みしめた。

星也さんは、決定したのは社員だとか、私のせいじゃないとか、そういう責任の問題じゃなくて、

人としての倫理観の観点から正しい行いをしたと言ってくれたのが、私はとても嬉しかった

星也

それにしても、すみれさんはかなり有能だと聞いてたのに、もったいないね。紅羽は人見知りだけど、そんなに人に対して横暴な態度を取ったりするやつじゃないんだけど

すみれ

紅羽さんは、仕事が大好きだし…。それになにか、大好きだけじゃない、別の大切な理由があって、仕事をしてる、そんな気がしました

すみれ

星也さん、何か聞いたことありますか?

星也

そうだな…そんな話、裏でも聞いたことないなあ。

すみれ

そうですか…

星也

今度久しぶりに紅羽とコラボがあるから、その配信後にでも聞いてみるよ

すみれ

いえ、そこまでは…、

すみれ

………

すみれ

……えっ?

私は、一瞬、情報を整理しきれなくなって固まる。

コラボ?配信?

その時、それまで星也さんになんとなく感じていた違和感の正体が、突然明らかになった。

すみれ

せ、星也さん……って……、

すみれ

もしかして、ライバーさんですか……!?

星也

あれっ?知らなかった?僕もまだまだってことかな

星也さんは茶目っ気たっぷりに笑った。

星也

現役学生ライバー、天ヶ瀬星也とは、僕のことだよ。

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