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人を喰べたくなったら──

わたしを喰べてね

"約束"だよ

......わかった

どうしようもねーときは.........

喰いにいってやる──

それまで

(……夢、か)

“I ♡ Pomegranate”(わたしは柘榴が大好き)と書かれたアイマスクを取った

ふぁ……、よく寝た

体を起こし、思いっきり伸びをする

(──それにしても)

(ひさびさだな、あの夢を見たのは……)

セイ

…………

ぐぅぅ

……腹減った

(きのうシオンちゃんから貰った)

(酒まんじゅうがあったはず──)

数十分後、逝は酒まんじゅうを頬張っていた

やっぱ、うめぇな

もぐもぐ

今日はせっかくの非番だ

酒まんじゅうを食べ終えたら、出かけてみようか

もう、嫌だ……

???

……うぅ……

食べたくなんてないのに……

嫌悪感が身体中に駆けめぐり、吐き気をもよおす

がまんできず、その場で吐いた

ツーンとしたニオイが鼻腔をつく

???

???

……気持ち、悪い……

誰か、私を──

外に出たのはいいが……

(──人が多い)

とくに家族連れが多く賑わっている

……休日だからしゃーねーか

ため息をした

(どっか喫茶店でも──)

どん

そのとき、肩がぶつかった

ん……?

視線を向けると

少女が肩によりかかっていた

明らかに血色が悪い

おい、大丈夫──

彼女の顔を見たとたん、逝は絶句した

 

…………

(……カナデ)

(いや、あいつがこんなとこにいるわけ……)

 

…………

それよりも救急車──

 

……待って

腕を掴まれた

 

呼ばないで

けどよ

 

……お願い

物心がついたときから、“それ”に嫌悪感を抱いていた

家族も友人も“それ”をごく普通に口にしている

どうして、“それ”を美味しそうに食べてるんだろう?

食べたくないと思っていても

身体が勝手に動き、“それ”を乱暴に掴むとかぶりつく

口に含んだとたん、気持ち悪くて吐き出した

饐えたニオイに顔をしかめる

ああ早く、こんなところ出たい…………

公園へ移動し、少女をベンチに座らせた

ちょうど木陰になっている

 

…………

逝は自動販売機で麦茶を買うと、少女に渡した

 

……あの

……ん?

 

あ、ありがとう

気にすんな

少女の隣に腰を下ろす

(さて、どうするか)

人気のない公園に来てしまったが

数分後

……すぅ、すぅ……

少女は逝の肩にもたれ掛かり

いつの間にか寝息を立てていた

マジか

……すぅ……

(ホントあいつにそっくりだな)

「さあ、食べなさい」

嫌だ、食べたくない!!

「好き嫌いはダメよ」

無理矢理“それ”をわたしの口の中へ押し込もうとする

必死に抵抗した

嫌だ……!!

██なんて──

大丈夫か?

かなりうなされたぞ

 

……わたし

青白い顔をしている

顔色が悪りーな。家族とかに連絡して迎えに──

 

ダメ!

…………

そんなとき

ぐぅぅぅぅ

少女のお腹が鳴った

 

…………!?

そういや昼まだだったな

 

(……恥ずかしい)

思わず赤面になる

飯を食いに行くか

そういや名前を聞いてなかった

 

……カナタ

カナタ

カナタって呼んで

…………

カナタ

あなたは?

──逝

カナタ

カナタ

セイ

カナタ

いい名前だね

彼女は笑みを浮かべた

数時間後

ふたりは食事を終え、ファミレスをあとにした

ちっとは元気出たか

カナタ

──うん

さっきよりも顔色はよくなっている

遊歩道は人混みでごった返していた

カナタの手をそっと掴む

カナタ

…………!

はぐれたら困るからな

ドキッ

カナタ

(わたし、なんでドキドキしてるの?)

 

あれ? もしかしてカナタ?

カナタ

え?

振り返るとそこにいたのは

やっぱりカナタじゃん♪

カナタ

……チナちゃん

チナ

久しぶり! 元気だった?

──知り合いか?

カナタ

従姉妹

大学に進学するため、都会で一人暮らしをしていると聞いていたが

まさかこんなところで再会するなんて……

チナ

おじさんとおばさんも元気にしてる?

どうしよう

村を飛び出したこと、チナちゃんが知ったら

カナタ

(……確実に連れ戻される)

思わず逝の手を握りしめた

チナ

ふふ、隅に置けないわね

チナ

男前と手を繋いでるなんて

カナタ

…………

チナ

わたしもご一緒していいかしら?

チナは逝に対してにっこりと微笑む

断る

カナタ

(即答!?)

チナ

え?

血の臭いをさせてる女なんか、こっちから願い下げだ

チナ

…………!?

行くぞ。カナタちゃん

カナタの手を引く

カナタ

…………

ちらっと従姉妹に視線を向ける

口を閉じたまま、逝を凝視していた

ふたりは人通りもまばらな裏町通りに出た

休むか

遊歩道にある小さな東屋の中へ入る

しばらく沈黙が続いた

カナタ

(もしかしたらセイは、わたしと同じ──)

意を決してカナタは口を開く

カナタ

──セイ

ん?

カナタ

セイは……何者なの?

どストレートだな

カナタ

…………

オレは──

人喰いだ

カナタ

…………

驚かねーんだな

カナタ

わたしも──

人喰いだから

そうか

その割にはあんま臭いは感じねーけど

カナタ

セイも臭いは感じないよ

人喰いは血の臭いに敏感だ

出会ったとき、セイから血の臭いはしなかった

で、これからどーするんだ?

どっか行く当てはあるのか?

カナタ

…………

首を横に振る

カナタ

一刻も早く村を出たかったから

村?

カナタ

神飫(カミオ)村

カナタ

わたしの生まれ故郷……

カナタ

人喰いだけが住んでいる村

…………

カナタ

神飫村には戻りたくないし、それに──

カナタ

……もうこれ以上、人を喰べたくない

こんなところで何してるの?

右目が赤く、中性的な顔立ちの女が立っていた

カナタ

(……誰?)

おっ、奇遇だなシオンちゃん

親しげに相手に声をかける

咫穏はカナタを一目で見て

咫穏

女の子を掻っ払ったのかと思った

掻っ払ってねーから

カナタ

(どういう関係なんだろう?)

これまでの経緯(いきさつ)を聞いて、咫穏はそっと息を吐く

咫穏

人喰いか

咫穏

ぱっと見、人喰いには見えない

カナタ

…………

咫穏

あそこなら、なんとかなるかもしれない

あそこ?

咫穏

でも……

咫穏

私の一存じゃあ決められないから

懐からスマホを取り出す

咫穏

接客やったことある?

カナタ

……え

接客なら去年、短期バイトでやったことがある

それを伝えると

咫穏

わかった。ありがとう

咫穏はどこかに連絡した

数分後

咫穏

ふぅ、なんとかなりそう

どこに連絡したんだ?

咫穏

“白蛇”

“白蛇”?

咫穏

カナタちゃん、急で申し訳ないけど

咫穏

明日から、住み込みで働いてもらうことになった

カナタ

え? 住み込み?

咫穏

うん。住み込み

ちょっと待ってくれ

その住み込みは大丈夫なのか?

咫穏

大丈夫だよ

咫穏

甘味処《びゃくだ》だから

咫穏

っていうかさ、たまに紅紫くんと来て

咫穏

酒まんじゅうとお団子をたらふく食べてるって、聞いたけど?

──だって美味いし

カナタ

(セイって甘いものが好きなんだ)

あれよあれよという間に、甘味処《びゃくだ》で働くことが決まった

カナタが一生懸命、給仕するのはまた別の話──

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