十年前の夏休み。
七歳だった俺、倉敷柚子葉は、東京郊外にある薬王院での参拝の帰り道、参道で出会った赤鬼に霊魂を奪われた。
それから十年が経った十七歳になる夏休み。俺は再び田舎のお祖父ちゃんの家に遊びに行く。
そこで陰陽師に襲われ、小鬼に襲われ消えたはずの片思い相手 "志恩"と再会する。
東京郊外にある"八童子市"の各所に出没する妖怪を退治しつつ、志恩と協力して葉月兄さんを探していく。
倉敷家に代々受け継がれる "七度返りの宝刀"を巡る戦いが 現代と平安時代を交差して始まる。
津名久
部屋中に漂う線香の香り。
十年前のあの時、あの場所の光景が脳裏に浮かぶ。
十年前の九月二十日
その日、七歳の誕生日を迎えた俺は、葉月兄さんと兄さんの友人である志恩《しおん》と一緒に山へと登った。
柚子葉
志恩
葉月
東京の郊外の山奥にある薬王院は、登山用の靴でなくても登る事が出来る。
無論、七歳になったばかりの俺の体力でも平気だった。
薬王院での参拝が終わり、俺は葉月と志恩に追いかけられながら、参道を降りた。
駅まで続く整備された参道を歩く。参道の両脇には赤い灯籠が置いてある。
志恩
柚子葉
その後ろを着いてくる葉月と志恩。
二人に追いつかれないよう走る。
追いつけない志恩の馬鹿ヅラを見て、笑みを浮かべる俺。
柚子葉
志恩
葉月
甚平の袖を捲り上げる志恩が目に入り葉月兄は、"やれやれ"と言いながら髪を整え始めた。
柚子葉
俺はそう思っていた。
再び参道を降りようとする。
その瞬間
突風が俺の体をすり抜け 振り返った先に志恩がいた。
柚子葉
志恩
何が起こったのか分からなかった。 後ろに居たはずの志恩が 振り返った先に居たんだ。
咄嗟に逃げようとする。 でも志恩にはお見通しだった。
柚子葉
俺の体を包み込むように 志恩は両腕を広げた。
志恩
柚子葉
徐々に近づく志恩の顔
数センチ。数ミリの距離まで 迫ってくる。 俺は恥ずかしくなって顔を背ける。
もう少しで唇が触れる。 いや、少しは触れたのかもしれない
でも、恥ずかしさに耐えきれず 俺は志恩の顔に アッパーカットを食らわした。
柚子葉
解けた腕から這い出る。
葉月
志恩
いじける志恩。彼の肩を叩く葉月兄。 それを眺める俺。
大好きだよ。葉月兄、志恩。
すごく楽しい。
この時間が永遠に続く。 そう俺は思ってた。
柚子葉
再び参道を降りて行こうと振り返る。
人が立っていたのに気づかず ぶつかって尻餅をついた。
柚子葉
赤鬼
沙華姫。 何処かで聞いたことがある。
恐る恐る視線を上げる。
嫌な予感がした。
どんよりとした空気が 体中を包み込む感覚。
十年経った今でも 男の姿はハッキリと覚えている。
ナイフのように尖った両耳 真っ赤な両目 銀髪が入り混じった赤髪 もろ肌脱ぎの着物
柚子葉
柚子葉
赤鬼
俺の感は当たっていた。
やっぱり、女の感は当たるらしい。
俺の胸に手を当てた鬼童丸は 体の中から霊的な何かを奪い取った。
柚子葉
志恩
葉月
後から分かったことだけど。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが言うには、俺の体から奪われたのは霊魂らしい。
霊魂を抜かれた俺の体は、あっという間に冷たくなっていき 死人と化してしまった。
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