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『桜の下の約束』
任務帰り、無一郎はふと足を止めた。
山道の途中ひっそりと咲き誇る一本の桜の木
その下に白い着物をまとった少女が座っていた。
春風にまう花びらの中少女は少し驚いた顔をして、無一郎を見上げた。
樺夜(かよ)
時透無一郎
それが最初の出会いだった、
少女は病弱で、長く外に出ることは出来ないという。
けれど桜が咲く時期だけは、どうしてもここに来たくなるのだと、笑って言った
無一郎は無口なまま隣に腰を下ろした。
理由は分からない。ただ少女の微笑みをもう少し見ていたいと思ったから。
ーーそれから彼は任務の合間にその桜の木を訪れるようになった。
少女はそこで待っていた。
短い会話、静かな時間。
それは無一郎にとって不思議と心が落ち着くひと時だった。
樺夜(かよ)
時透無一郎
けれどその約束は果たされることは無かった。
次の春が訪れる前に、少女はこの世を去った。
桜吹雪の下で交わした言葉だけが、無一郎の胸に残った。
無一郎は桜の木を見上げ、そっと目を閉じる。
ーー
樺夜(かよ)
その声が今にも風に揺れて聞こえる気がする。
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