父さん
どけと言ってるだろ!
両肩を掴まれて押しのけられる。
力が強い。
怖い。
またあの眼が母さんを捉えた。
澪
やめて!
父さんの後ろから飛びついて 止めようとした。
すぐに振り払われる。
頭を床にうちつけて激痛が走る。
澪
…っ!
父さんが包丁を手に取る。
マニアワナイ。
1度浮かんできた絶望が 私の頭の中で何度も復唱される。
澪
これが最後なのに…!
走った。
振り上げられた父さんの右腕。
恐怖に染る母さんの表情。
今私に出来ることは。
父さん
……澪?
胸の当たりが焼けるように熱い。
息が苦しい。
父さんの振り下ろした包丁には 母さんではなく私が刺さった。
何も変えられないよりはこれでいい。
母さん
いやあぁぁぁぁ…!!
母さん、ごめんね。
幸せにはできなかったよ。
でも、生きて…
意識が薄れてくる。
父さん
澪…?澪……!
あ……
そうか。
人は何かを失って初めて
我に返る。
私の血で真っ赤に染まった羽根ペン。
澪
お願い…あと1度だけ…!
周りの空間が歪むあの感覚。
澪
考えてる暇なんて…ない!
力を振り絞って手を伸ばす。
私が掴んだのは
黒い眼に戻った父さん。
その目には涙が浮かんでいたから。
1度は母さんを殺したけれど
私の父さん。
それは変わらないから。
目の前が真っ白になった。






