私の父は、
もう私が物心つく前から…
私のそばにはいなかった。
母は離婚したと言っていた。
もうそれは何十年も前の話。
私がまだ喋りもできなかったくらい…
それくらい小さい頃の話だから…
もう父の姿は覚えていない。
私は母と、母方の祖父母。
そして母の妹…私の叔母にあたる人と 暮らしてきた。
みんなが私を面倒みてくれた。
私が高校2年の頃だった。
叔母と出かけている時。
ふと口ずさんだ鼻歌に、 叔母は驚きの目を向けた。
叔母
サユリ
私は無意識に口ずさんでいた。
名前も知らない歌。
歌詞も知らない。
ただの鼻歌。
サユリ
叔母
叔母
叔母
サユリ
確かによく覚えていない。
誰かが歌っていたのだろうか。
サユリ
叔母
ふいに発せられた一言に、
私は息を止める。
叔母
叔母
父さんの…歌。
サユリ
サユリ
叔母
叔母
叔母
叔母
それからというもの、 私はその歌が好きになっていた。
サユリ
サユリ
サユリ
切ない歌詞だった。
それから7年。
私は結婚を控えていた。
母
サユリ
その頃、父の存在について
母にたずねてみようと思っていた。
何年も隠されてきた父のこと。
今、結婚する前に…
知りたいと思っていた。
サユリ
母
サユリ
サユリ
ガチャン
ふと母の持っていたマグカップが 床に叩きつけられた。
音をたてて割れる。
サユリ
母
幸い、怪我はなかった。
だが母は震えていた。
サユリ
サユリ
私が再びたずねると、 母はクシャクシャの顔で微笑んだ
そして言った。
母
その声に、また父について興味を持ってしまった。
サユリ
サユリ
母
母は、紙を用意した。
それとボールペン。
そうして、何かをサラサラと書き始める
サユリ
サユリ
それでもサラサラ書き続けた。
母がくれたのは、1つのアドレスだった
母
そういうと、奥の部屋に入り込んでしまった
私はただ、ポケットから必死にスマホを探すばかりだった。
智也
そのアドレスの宛名はそう書かれていた
私はすぐにメッセージを送る。
サユリ
すると数秒後…
父
父からの返信がきた。
そのことに、私は心を踊らせた。
サユリ
父
父
父
父
サユリ
サユリ
サユリ
すると少し、間が空いた。
父
父
父
父
サユリ
サユリ
サユリ
父
父
父
父
あ……
と低い声が漏れる。
サユリ
父
サユリ
父
父さんは冷たかった。
再開した娘なのに。
サユリ
サユリ
本当にこれが父というものなのか…
私にはわからなかった。
多分違う…
この人は私の父さんじゃない…
そう怒りを覚えた。
父
父
サユリ
サユリ
サユリ
サユリ
するとまた、間があった。
父
父
父
ふと語り始める。
衝撃の事実だった。
私はスマホをかたく握り締める。
サユリ
父
父
父
父
サユリ
私は息を止めた。
声が出ない…
それこそ衝撃だった。
父
父
父
父
サユリ
父
即答だった。
父
父
父
父
父
父
私は1人、絶望に明け暮れた。
サユリ
サユリ
父
また、即答だった。
そんなの嫌だと、
心の中で叫んでも…無駄だった。
父
父
父
父
父
父
まぶたの奥が熱かった…
じんわりと…ゆっくりと…
何かが溢れ、落ちた。
サユリ
父
父
サユリ
サユリ
父
父さんはただ、
謝るばかりだった。
だけど最後に言った。
父
私は父さんに電話をかけた。
父さんが喋れなくても、 私が声を聞かせることはできる。
すぐに父さんは電話をでた。
静かだった。
サユリ
サユリ
サユリ
私は震える声で歌を歌った。
父さんはチャットで言った。
父
父
それだけを残して、
電話は切れた。
それから既読はつかなかった。
そして3年後、
夫と娘と共に父のもとへ訪れた。
父は病室で、静かに眠っていた。
機械がならす脈の音だけが…
ピッピッと、
聞こえていた。
娘が父のもとへ駆け寄った
娘
私は頷いた。
娘は小さいながら、優しい瞳で
父をみつめていた。
そうして枕もとを指差した。
娘
私はゆっくりと父の枕もとへ歩み寄った
そこにあったのは、1枚のCDだった。
ジャケットの表紙には……
サユリ
娘
娘
父がうつっていた。
CDを借り、私はレコーダーで聞くことにした。
その歌は…切なく悲しい歌だった。
サユリ
サユリ
サユリ
娘
父の優しい声を、初めて聞いたのは…
CDレコーダーでした。
それから私は、父が昔
シンガーソングライターをしていたことを知る。
コメント
1件
切ない… 最後の終わり方が好きです…!