死が悲しいのは、 生命と別れることでなくて、 生命に意義を与えるものと 別れることである。
––– レイモン・ラディゲ 『肉体の悪魔』
街中
天望
辿り着いた先は色鮮やかな 光が煌めく賑やかな 場所だった。
街中の雰囲気からして 時期はクリスマスだろう。
天望
明らかな薄着で 寒さをひしひしと 感じる中、一際目立つ 黄緑色の髪をした男を見つけた。
天望
以前、彼から聞いたが 蘭丸は既に結婚をしており 娘が1人いるとのことだった。
しかも、相手は燐堂 小鹿 (りんどう ばんび)だ。 彼女は元々、彼と同じ 抗体人間だったが 人間になり、その後交際に 発展し今に至るそうだ。
そして花澄(かすみ)という 6歳になる娘がいるそうだ。
天望
寒さに思わず縁もない言葉を 発してしまい、ハッとした。
天望
何故、彼がここにいるのか? それは彼の手に持っている物が 物語っていた。
天望
恐らく仕事帰りに娘への クリスマスプレゼントを買いに 来た様子だった。
しかし、ここで疑問が生じた。
どうして、この場所で 死ぬ瞬間があるんだ?
上から看板が落ちてくる? トラックが突っ込んでくる? いや、どれも確率は低い。
そんなことを考えていると 遠くで女性の悲鳴が聞こえた。
天望
振り向いた方向にいたのは 包丁を振り回している 男の姿だった。
天望
楽しそうな現場が 一気にパニックになる。
逃げ惑う人々、 泣き喚く人々...
切りつけられたのか 腕を押さえて逃げる男性や 逃げ遅れて刺され うずくまる女性...
まさに地獄絵図だった。
天望
ナイフの男に気を付けながら 逃げる人々に紛れ込み 彼の姿を探した。
すると遠くで小さな女の子が 泣いて座っている姿があった。
そして、そこに彼もいた。
自分の娘と重ねてしまい 助けようと思ったのだろうと あっしは考えた。
天望
あっしの声は届かず、 運が悪いことに男は 2人を見つけると 目掛けて走り出した。
天望
時間がない、どうすれば...
天望
あっしは走った。 運動音痴だがそんなことは 関係なかった。
天望
あっしは喉が破けるほどの 声量で彼を呼ぶと まるで幽霊でも見たかのような ギョッとした表情で あっしを見た。
失礼なヤツだな...と思ったが 彼の歴史だとあっしは 抗体人間時代で既に 死んでいる存在だから 目の前の存在が信じられなくて 当然だと改めて思った。
天望
あっしはラグビー選手ばりの タックルで犯人にぶつかると あっしと一緒に倒れた。
天望
蘭丸
彼は女の子を抱えて その場を走り去った。
後はこっちの仕事だ。
ナイフの男
天望
彼が逃げるまでの時間稼ぎ... そうなればと思ったのも 束の間だった。
ナイフの男
ザクッ
という鈍い音が聞こえた。
天望
あっしの腹部からドクドクと 赤黒いモノが溢れ出る。
痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い
脳内がその2つに支配された。
どうしようもない... そんな無力感に襲われた。
そんな中、走馬灯なのか 分からないが、ふと神崎 遥翔 に言われたことが頭をよぎった。
「時空に干渉はできても それ以外の力は使えない。」
「それに自分を幸せにすること はできない。」
「僕は見守り役だから、君には 一切干渉しないからね」
そんなことを言っていたような と思い出した。
天望
先程から尋常じゃないほどの 寒気に襲われている。
遠くでサイレンの音が聞こえる。 誰かの怒号も聞こえる。
天望
周りの音が聞こえなくなってきた。
彼が幸せであれば それでいい。
だけど...
天望
死にたくない。 死ぬのは怖い。
圭に会いたい。 柘榴に会いたい。
天望
幸せになりたかった。
だが、もう遅い。
視界が歪む。 眠くなってきた。
「...い」
「おーい」
誰かが呼ぶ声がする。
「起きてー、起きてよー」
感情がこもってない 呆れたようなトーンで その声は言っていた。
「ふーん、起きないんだ」
「じゃあ、ここで必殺技...」
「仕事だッ!! さっさと 起きろッ!!」
天望
あっしは研究所の所長の声で 目を覚ました。
天望
所長?
天望
混乱した記憶を一度整理し 改めてこの状況の異常さに 気が付いた。
天望
天望
天望
所長?
所長?
すると所長の顔にノイズが掛かり 見慣れた“あの顔”が現れた。
天望
遥翔
天望
遥翔
天望
遥翔
天望
天望
遥翔
遥翔