シェアハウスを出てからの夜、 〇〇は、久しぶりに見た「自分の家」の玄関を前に立ち尽くしていた。
扉を開けた瞬間、父の目がすぐに光を失ったような冷たい視線に変わる。
父
その言葉が、〇〇の心を突き刺した。 けれど、反論はしなかった。 できなかった。
そこからは、前と変わらない日々。
食事は投げるように置かれ、 何か一言でも言えばため息と怒声が返ってくる。 音を立てれば睨まれ、目が合えば「何見てんの」と睨まれた。
母は時々しか帰ってこないが、何も言わない。 父が酒を飲み暴れ、 必ず物が壊れる音がした。 家庭が壊れるのも、時間の問題だった。
〇〇は、声をあげなかった。 あげられなかった。 でも――前と“まったく同じ”ではなかった。 シェアハウスでの日々が、心に静かに残っていた。
光咲の明るさ
和人の冗談
潤の穏やかさ
玲の手料理
空人の優しさ
颯斗の静かな安心感
哲汰の……まっすぐな目
あの場所は夢だったのかとさえ思うほど、 現実は冷たくて、重たくて、暗かった。
けれど、〇〇の心の奥底には―― ほんの少し、わずかに残った“ぬくもり”があった。 夜、布団の中でこっそり流れる涙。 その理由が、前と違っていた。
〇〇
そう思った。
でも、それを口に出すことはまだできなかった。 だから今日も、沈黙の中で生きる。
でもその沈黙の中に、 “あきらめ”だけではなく、“願い”があることに、 〇〇自身もまだ気づいていなかった。
それでも、誰にも聞こえない場所で、 〇〇の心は確かに、何かを叫んでいた。
――助けて、
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