コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
――私立姉崎(あねさき)女学院。
それは山の上に建つ、県内でも有数のお嬢様学校――
だったのは、昨年までの話。
時代の流れから共学化した今は、
――私立姉崎学院。
と校名を変えている。
まあ、名前から『女』が取れただけなのだが。
しかしそれは、校名だけの話だ。
未だに学院内は『女の園』。
十数名しか存在しない我々『男』は、さしずめ花にたかる害虫だろう。
そんな『害虫』から『花』を守るため、とある組織が設立された。
その名も、男女交際取締委員会。
人呼んで――、
――カップル撲滅委員会。
万里野(まりの)
小柄な男が、机を叩き威嚇してきた。
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
一昔前の刑事ドラマのようなやりとり。
しかし部屋の内装も、いかにもだ。
部屋――教室の中央には簡素な机が置かれ、当然のように卓上ライトが置かれている。そして窓にはブラインダー。こちらも当然のように全閉され、雰囲気を作るのに一役買っている。
五十川 九十九(いかがわ つくも)
俺は、ブラインダーの隙間から意味もなく外を臨んでいる幼なじみに助けを求めた。
椎名(しいな)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
椎名(しいな)
薄く笑い、眼鏡のブリッジを指で持ち上げる椎名。
その所作は妙に様になっており、非常に腹立たしい。
椎名(しいな)
万里野(まりの)
対面に立つ小柄な男は、威勢良く訂正を入れた。
なるほど。このいかにも小物臭がする男は、某有名土管工と同じ名前らしい。
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
古の時代には、キラキラネームという文化があったそうだ。しかし現代では、そのキラキラがデフォルトとなりつつある。
が、俺の名前は違うベクトルで恥ずかしい。
数字がたくさん並んでいて、却って頭が悪そうなところが、最高に恥ずかしいのだ。
万里野(まりの)
繰り返すな、余計に恥ずかしいだろ
しかし某有名土管工は、俺の苦言など意にも介さず、机を叩き声を荒げた。
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
しかもご丁寧に区切りやがって。聞こえなかったわけではなく、意味がわからなかったのだ。
……ん? 男女交際?
そういえば、この学院には男女交際を取り締まる組織が存在する、という噂を聞いたことがある。
確か……、
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
訂正を入れる某有名土管工。
いや、カップルをしょっ引いて強制的に破局させてるんだから、『カップル撲滅委員会』でいいだろう。
五十川 九十九(いかがわ つくも)
てっきり女子ばかりの組織だと思っていた。
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
公務ではないだろ。
ていうか図星だろ。
自分がモテないもんだから、他人の恋路を邪魔しているんだな。
かわいそうに。
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
バンバンと机を叩く某有名土管工。
何てからかいがいがあるやつだろう。
俺は、真面目な顔で言った。
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
横暴が過ぎるな、こいつ。最も権力を持たせてはいけないタイプだ。
椎名(しいな)
万里野(まりの)
椎名(しいな)
そう言って、椎名は窓から離れた。
ゆっくりと歩を進め、こちらに近付いてくる。
椎名(しいな)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
椎名(しいな)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
まあぶっちゃけ、めっちゃありますけどね。
椎名(しいな)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
実は、三人いるんですわ、これが。
椎名(しいな)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
むしろ嘘しか吐いた事ないけどな。
椎名(しいな)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
俺の心の声聞こえてた!?
椎名(しいな)
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
はあ……
溜息を一つ。
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
ここに呼び出されたと言うことは、確証があっての事だろう。
証拠があるのであれば、誤魔化しても仕方がない。
複数の女子に手を出した時から、覚悟は出来ていた。
五十川 九十九(いかがわ つくも)
椎名(しいな)
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
薄々感じていたが、こいつポンコツだ!
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
椎名(しいな)
そう言うと、椎名はこちらに近付き、言った。
椎名(しいな)
そういえばお前もバカだったな!
五十川 九十九(いかがわ つくも)
椎名(しいな)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
何こいつら、疲れるんですけど!?
五十川 九十九(いかがわ つくも)
椎名(しいな)
万里野(まりの)
うん、ダメだこいつら。
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
万里野(まりの)
…………
……いや、
いやいやいやいやいや!
万里野(まりの)
そんなわけがない
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
椎名(しいな)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
な、ななな、何を根拠にそんな事を言うのかな、かな?
椎名(しいな)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
くそぅ、幼なじみ!
お前がカップル撲滅委員会だと知っていたら、そんな事言ってねえわ!
万里野(まりの)
椎名(しいな)
……ヤバいな。
旗色が悪い。
ここは話を逸らすのが吉だろう。
五十川 九十九(いかがわ つくも)
椎名(しいな)
万里野(まりの)
乗ってきた!
畳みかけるべき所なのに、安易に乗ってきた!
バカだから!
五十川 九十九(いかがわ つくも)
実際、謎ではあった。
カップル撲滅委員会なんて、人から恨みを買う事はあっても、感謝される事はまずないだろう。
それを引き受けた上に、容疑者(俺)を呼び出して取り調べを行っている。
そこまで積極的に、カップル撲滅委員会の業務に取り組む理由とは、一体何なのか。
椎名(しいな)
万里野(まりの)
椎名と万里野は薄く笑った。
椎名(しいな)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
椎名(しいな)
万里野(まりの)
五十川 九十九(いかがわ つくも)
俗!
理由があまりにも俗!
俺よりも先にお前らが取り締まられろ!
椎名(しいな)
万里野(まりの)
『彼女がいると言えっ(ス)!』
五十川 九十九(いかがわ つくも)
こうして、俺とカップル撲滅委員会との死闘が始まった。