音の主は

ドクドク鳴る心臓

誰も助けてくれやしないのに

助けてと言おうとする自分が嫌い

みんなそうだ

だって私じゃないもの

言うことなんてできないもの

だって

私の世界には

心臓の音しか響いていないのだから

今日もまた起きて

寝るの繰り返し

手話をやめて何年経っただろう

あの時やめなきゃ良かったと

ずっと思ってた

でも後悔しても遅い

手話の先生が来ない今

私は会話出来ない

看護師さんにも身振り手振り

表情で自分の気持ちを伝える

看護師さんは嫌な顔ひとつしないけど

家族は皆嫌な顔してた

うちの子じゃないって言ってるのかな

口の形で分かる

読めるし分かるけど

書けない

教えてくれる人もいない

せめて筆談だけでも覚えたいな

でももうだめかな

体が弱くて耳も聞こえない私なんか

……だめだ

そんな暗いこと考えちゃ！！

私にもちゃんと価値はある…し…

私って…生きてる意味あるんかな…

もう死んだ方がいいんじゃｯ

ﾄﾝﾄﾝ

パクパクと口を動かす彼

私に何か言おうとしているのは分かる

だけどやっぱり聞こえない

いつものように

身振り手振りで説明する

どんな反応をされるだろう

やっぱり不快になっちゃうかな、

ｸｲｸｲ

？

手招き？

ﾋｮｺ

白い髪の毛…珍しいな

礼儀正しいな

心ほっこり

あ、赤面した

可愛いやつやな

ﾌｨｯ

なんか書いてある…？

思わず彼らの方を見る

続けて茶髪の男の子が

みんな待ってる、と書き足す

うーん

今こんな状態だし…

なにやら話し合っているようだ

そんな重要なことか、？

ｻｯ

親のこと、嫌い…？

躊躇いながらも首を横に振る

ｻｯ

焦って彼らの方を見る

あ

これ

嵌められた系の

ｶｻ

黒白はもうついていた

正直病院での生活も満足していなかったし

首を横に振る選択肢はなかった

"明日迎えに行くね"